西の戦乱 陰謀の章
今回からはところが変わってエミリッテ編です。
各2章ずつくらいでローテーションしながらストーリーを進めていく予定です。
教皇国リューネはリューネ信仰の聖地に作られた国であり、国のトップはその教皇であるアベル2世である。政治形態は教皇は象徴であり、大権は持たず、枢機卿と呼ばれる13人の聖職者によって行われている。リューネ信仰は4人の神を崇める宗教で4大国家のそれぞれで広く信仰されており、様々な国に軍事力以外での影響力を持っている国であった。また、四大国家の中では教皇国は国土が最も小さい。代わりに資源の多い島々を領有しており、軍事力も国土が倍の太陽帝国と同等であった。
そんな教皇国リューネ首都ロイの教皇宮殿の中は慌ただしい雰囲気であった。それは教皇アベル2世と大公シャーロット・ベルマークとの婚姻が決まったからである。
婚姻相手のベルマーク大公家はかつては太陽帝国の重臣の家柄であった。しかし、300年前に起きた帝国の東西分裂に乗じて、教皇国に帰属して太陽帝国に反乱を起こした。戦争になり、互いに疲弊した結果、終わらない内戦や他国の干渉に焦った太陽帝国は大公国の帰属を認め、教皇国との関係修復、不可侵を条件に教皇国との和平を行った過去があった。
この縁談は国民からは熱狂的な歓迎であったが、枢機卿や臣下たちはかなり不満を感じていた。
今回の縁談はどう考えても大公家の陰謀があるに違いないと。
アベル2世は国内に向けて釈明のお言葉を出した。
曰く、「いつまで国の中に軋轢を残して民を疲弊させるつもりか。大公家や教皇などの確執に拘り、自分達の権力に固執してきたことが民の不満につながっているのだ。国内の安寧には必要不可欠であるため、この件に不満を言うものは破門とする。」と。
この一喝に不満を漏らす者は何も言い返せなかった。
しかし、この婚姻で子供が生まれればそれは次期教皇と大公の権力を持つことになる。それは中央に影響を持ち続けている既得権益者には危機であった。
一方、大公国でも一枚岩ではなかった。
大公国が教皇国に完全に併合される可能性が出てきたからである。
大公国の貴族たちは大公の居城に集まって抗議を行っていた。
「婚姻によって次の世代が帰属し元の教皇国に戻るこれに何の問題がある。貴様らの既得権益が潰されて困る以外にあるなら言ってみよ!」
「恐れながら、陛下に申し上げたいことがあります。縁談と称して騙し討ちをする可能性はないでしょうか。大公家の存続や地位は留めることを口実にして、そのまま大公国の要人を殲滅する。そうは考えませんか。」
「貴殿の言い分は最もだ。しかし、それで民が安んずることができれば良いのではないのか。そもそもこの国は教皇国に帰属しているのだ。自治を任されているとは言え、それが二重権力などの混乱になっている。」
「いえ、大公国の国民とて教皇国人からの差別を受ける可能性とて否定はできませぬ。」
そうだそうだ、と周りの貴族達も言い始めた。
「では不毛な政争を次の世代にも続けよと申すか。」
「先祖より守り抜いてきた土地と民を守る。我々はそう言われてまいりました。陛下とてそうでありましょう!」
「ぬ…今日の論議はここまでとせい。あとは宰相任せた。」
女大公は部屋へ下がっていった。
宰相と呼ばれた女は玉座の横に立った。
大公国宰相アンナローゼは先々代からも宰相の職に就いていたが、その在職期間からは想像もつかないほど若く見える。その出自は太陽帝国であり、教皇付きの聖女であったが、今は大公国宰相である。
「各々方、大公陛下は国の行く末をしっかりと考えておられる。各々方も準備だけはしっかりとするようお願いしますよ。」
貴族達は渋々という感じを見せながら、宮殿をあとにした。
「アンナローゼ様、枢機卿ザイドリッツ氏がお目通りを求めております。いかがしましょう。」
「応接間に通しておけ。」
「承知しました。」
アンナローゼは玉座をあとにした。
アンナローゼは応接間に入ると、人払いをしたのちに格好を崩してソファーに座る。
「わざわざ大公領まで来て何ようだい? ザイドリッツ。」
「枢機卿の私を呼び捨てできるのもあなたくらいだ、アンナローゼ。」
「ふ、それで天下の枢機卿殿は何用で?」
「神より達示があった。今回の縁談を進めつつ、万一のために軍備を始めよとのことだ。婚姻に反対しているやつらが何やら軍部とキナ臭い動きをしている。」
アンナローゼはキセルに火をつけて、ふっと一服をした。
「へえ、神さんもこんな件にも熱心に啓示するんですねえ。それに反対派が軍と仲良しだなんて聖職者も生臭になったものだわ。」
「当然だ、神は常に我らを見ている。それに軍は神のしもべであり、国の守護者だ。何も問題はない。」
「ふふふ。教皇陛下を差し置いて、枢機卿殿が神のご意志を知ろうなどとおこがましくはありませんこと?」
「ふん、つつがなく縁談が進むよう気をつけておくように。」
ザイドリッツ枢機卿は不満を露わにしながら退席した。
誰もいなくなった部屋でキセルを吹かしながらアンナローゼは笑顔を浮かべた。
――枢機卿は内部で割れているらしいな。わざわざ私に念押しとはよほど婚姻後の権力争いに熱心だと見える。ふふふ、うまくいけば妾の枢機卿入りも満更でもないかもしれんの。
キセルの煙草をカンっと捨てると部屋を後にした。
教皇国の郊外で国内の情報を集めている者が一人。エミリッテである。
エミリッテはどうやって国を混乱に導くか思案していた。宗教国家ということで政情は割と安定しており、国内の不満も大公国との軋轢があるくらいで民族争いもない。
あえて言えば、大公国との縁談で何か入り込む余地があればと思ったが、簡単には思いつかない。
そんな折に、大公国に探りを入れていた使い魔からの情報が入った。
――なるほど。枢機卿は婚姻賛成派と反対派がいる。またそれに合わせて内乱の準備まで行っているとは……まずは大公国に入り込むのが最善か。問題はアンナローゼという宰相か……いいわ。やってみましょうか。
エミリッテは大公国へ向けて動き始めた。
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