二羽の鳥 製作四日目
さて、朝である。
昨日の夜は普段より早く寝た為だろう。
かなりすっきりした目覚めである。
なら、早く寝ろと言われそうだが、やりたいことがあって夢中になってて途中で中断して眠れと言われても、大抵の人はもう少しだけ、区切りがいいとこまでと思うだろう。
それと同じだ。
作業しているとどうしてももう少しとか、区切り良いところまでとなってしまう。
その結果、どうしても遅くなってしまうのだ。
その反面、映画はいい。
ちゃんと終わるから。
だが、これがTVシリーズのドラマとかアニメだと拙い。
面白かったらダラダラとみてしまうからである。
特に昔のアニメはヤバい。
全36話とか49話とかになる。
また人気シリーズもヤバい。
下手したら2クール、3クールとなる。
まぁ、要は、区切りつけるのが下手なだけではあるか、そんな人は多いよね。うんうんと自分に言い聞かせる。
ともかくだ。久方ぶりの清々しい朝だ。
景気よくいくか。
そんな訳で、顔を洗って朝食の準備だ。
今日は、味噌汁だけを作る。
豆腐とわかめのオーソドックスなやつだ。
そして、大盛りどんぶりご飯の上に、辛子明太を一本どーんとのせる。
おおおっ。久しぶりにやったけど、インパクトデカいなぁ。
高菜の漬物の油炒めと同様、辛子明太は麻薬だ。
ご飯が進む進む。
多分、毎日食ってたら、体重は間違いなく今よりもはるかに増量されていただろう。
もっとも、辛子明太は結構な値段なので、そうそう一本どーんと出来ないのが救いだな。
よってうちでは、一本形のしっかりしたものよりも、型崩れや傷ありの辛子明太を買う事が多い。
あれ、色々料理にも仕えて便利だし、お値段も安いのよね。
勿論、買い出しで買っておりますぞ。
よし。今日のお昼は明太パスタでも作るかな。
そんな事を考えつつ、朝ご飯を終えると食器を片付け、犬たちのご飯を出してやると開店の準備を始めたのであった。
ふむふむ。いい感じだな。
再度、依頼品の小鳥二羽のパーツを確認して店舗の作業室に持っていく。
そして、塗装準備をした後、時計を見ると開店の時間だ。
すでに掃除は終わっているので、すぐに店を開けた。
だが、まぁ、早々人は来ないだろうな。
基本ここのお客は一部を除いてパトロンの紹介がある人がメインであり、使い魔にするにしても美術品にするにしても商品の価格が高い為、気軽に来れるという感じではない。
まぁ、そのおかげで店舗開けつつ作業できるのはありがたい。
という訳で、依頼品の小鳥の基本色を塗装する。
まずは、マスキングゾルで目玉をマスキングしておく。
マスキングというのは、特定の部分や情報などを覆い隠す行為を指す言葉で、マスキングゾルとは溶けたゴムみたいな感じの塗料のようなもので、それを塗っておくとすぐに固まって塗装の際に塗装したくない部分をカバーしてくれるのだ。
そして、塗装が終わったら、マスキングゾルの部分をはがせばいいのである。
勿論、マスキングテープ等いろいろあるが、目玉の部分は曲線のガラス製になっている為、曲面に対応しているマスキングゾルが最適という事だ。
(もちろん、直線なら、マスキングテープの方がいいんだけどね)
で、まずはベースは暗い色から塗っていく。
紅い鳥は、ワインレッドを少し黒っぽくした色を、蒼い鳥はネービーブルーを少し黒くした色を全体に塗る。
そして、三段階ぐらいに分けて色を明るくしていくのだ。
そうする事で、奥まった部分が影のようになり、より立体感が出るのである。
ふむふむ。いい感じだぞ。
で、何気なく時間を見る。
おっと。そろそろお昼時だ。
少し早いがいいか。
十分程度早いものの、お店を閉めると昼食を準備するために二階に降りることにした。
どうせ、塗装が乾く時間が必要だしね。
二階に降りると手をしっかり洗って明太パスタを作る。
うまいっ。
ご飯が進む。
で、少し時間があったので、インターネットで買った荷物の整理をし始める。
まぁ、整理といっても仕事用と私物とに分けるだけだが。
そして、休憩時間が終わると、三階に戻って店を開けて作業を再開するのであった。
今日はそろそろ終わりかな。
あと一時間もしたら店を閉める時間になり、作業を中断して背筋を伸ばす。
いつもの常連さんも来たし、今日はこれ以上来客はないと判断したのである。
「んんーっ、はぁぁ……」
首をコキコキと鳴らして、作業室を片付け始める。
二羽の鳥は、大体塗装も終わり、明日は組み立てと仕上げのトップコート。そしてオプションの首のチェーンを付けて完成となる。
なおトップコートとは、透明な上塗り塗料の事で、着色面の保護や艶出しなどのために重ね塗りするのである。
もちろん、今回の場合、艶消しとなる。
勿論、目玉の部分はマスキングしてではあるが。
いや、輝きのない目玉がいけないわけではないが、なんか嫌じゃね?死んだような艶無しの目って。
それに闇落ちしてそうな感じもするし。
というわけで、うちはお目目キラキラ仕様で作っております。
そんな馬鹿なことを思いつつ、片付けているとドアが開いて鐘が鳴った。
ちゃらん。
その音に反応して「いらっしゃいませ」と声をかけつつ音の方向を振り向く。
そこには、依頼品を注文したカップルがいた。
走ってきたのだろうか、二人とも息が荒い。
閉店する前に来たいと思って走ってでも来たのだろう。
「まだ、大丈夫ですかっ」
男性の方がそう言ってきたので、「ええ。まだ大丈夫ですよ」と答える。
すると二人は互いに顔を見た後、ほっとした表情になった。
そして、再びこっちを向いて男性が口を開く。
「えっとですね。実は……」
あれ?もしかしてキャンセル?
そんな事を思ったが、二人の様子からはそんな感じはしない。
えっとなんだ?
そう思っていたら、言いにくそうに男性が言葉の続きを口にした。
「実は……途中でもいいので、どういう感じになるか見せて欲しいんですよ」
その言葉でわかった。
つまり、楽しみすぎて、我慢できなくなって見に来たらしい。
わかる。わかるぞ。その気持ちっ。
やっぱり気になるよなぁ。
特に二人の様子から、これは二人の記念の品になるのがわかる。
だから、どうしても見たくなってしまったのだろう。
そして、そんな風に思ってもらってすごく嬉しい。
自分の世界では、ここまで思ってもらった事は皆無だったから……。
だから、僕はうれしくなって笑った。
今度は自然と笑えたようだ。
二人は前回の時のように怯えた様子はない。
「えっと、まだ塗装の途中なので、お見せするぐらいしかできませんが、構いませんか?」
「はい。それで構いません。よろしくお願いいたします」
二人が頭を下げる。
すぐ作業室から塗装を終えたばかりで乾燥待ちの物を持って来て見せる。
「まだ完全に乾いていないので触らないでくださいね。それと目の部分は、塗装しないようにカバーしてます」
説明を聞きながらも彼らの視線は、未完成ながらも実物のようにしっかりと塗装された二羽の鳥を見入るように見ていた。
「すごいっ……」
「ああ。本当にすごいな。ここまでリアルなのは初めてだ」
二人がそんなことを呟いている。
いや、こっちこそありがとう。
そう言いたかったがグッと我慢する。
「まだ脚とか付いてませんし、オプションのチェーンも付けていません。そうですね、明日の夜に完成。明後日にはお渡しできるかなと思います」
早く欲しいんだろうと思い、そう言う。
本当なら、依頼を受けて一週間後に引き渡しだが、彼らの気持ちを考えれば、早く欲しいと思うだろうしね。だから引き渡し予定を早める。
「いいんですか?」
「ええ。明後日にはきちんと完成させてお引き合わせできるようにしておきます」
そう言うと、男性は再び頭を下げた。
「ありがとうございます。それでよろしくお願いいたします」
それに合わせて女性の方も頭を下げる。
そして、二人は満足そうに帰っていった。
その後姿を見送りつつ、ますますうれしい気持ちになる。
必要とされているという満足感。
それは、本当の世界ではまず得られないものだ。
だが、こっちでは得られる。
だから、僕はこっちの世界が大好きなのだ。
自分が必要とされているという思いがあるから。
よし。さっさと完成させるか。
そう思って時間を見る。
閉店時間だ。
「よしっ、閉店するか」
そう呟くと閉店作業を開始するのであった。