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異世界造形師  作者: アシッド・レイン(酸性雨)


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20/25

新作作製  その2

無事に昼食も終わり、午後の店番はサティに任せて作業を再開する。

「今度は肉付けをしていくからね」

そう言って、スカルピーとヘラを用意した。

「これ、なんですか?」

ナディが興味津々で尋ねてくる。

「これはね、スカルピーという造形用の粘土なんだ。もちろん石粉粘土でもいいんだけど、スカルピーは焼くことで乾く時間を短縮できる。ただ、温度調整が必要だからレンジが要るんだけどね」

物珍しそうに見ていたナディは、ふむふむと頷きながらスカルピーをじーっと見つめている。

これは、やってみせたほうがいいかな。

そう思って、作業を始めた。

必要な分だけ取り出して揉んでいく。

古いものは硬すぎてどうしようもないことも多いが、星野模型店さんから購入した分は比較的新しいものが多く、そこまで苦労せずに済むので助かっている。

ある程度揉んだら、針金の骨格に少しずつスカルピーを塗り付けていくと、ただの針金の骨格がスカルピーという粘土の肉を得てよりはっきりとした形になっていく。

ナディは実に楽しそうに、そう、まるで玩具を与えられた子供のようにワクワクした表情で見入っていた。

「凛々しい」という第一印象がまた書き換えられていく。

もしかしたら、凛々しいというのは彼女の仮面なのかもしれない。

人は誰でも、初対面の相手や心を許していない相手には素顔を隠そうとする。

まあ、よく見られたいという気持ちもあるからね。

けれども、親しい人や心を許した人の前では仮面をかぶる必要はない。

素顔でも受け入れてもらえると思えるからだ。

だから、もしかしたら少しは受け入れてもらえたのかなと思ってしまう。

まあ、それは独りよがりな想像にすぎないが、そうなってくれたら嬉しい。

そんなことを考えながら、大まかな肉付けを進めていく。

うんうん、いい感じだ。

ヘラで表面を撫でてなだらかにし、ある程度の形になったら作業室の中にあるレンジに運んだ。

もちろん、作業専用に用意したものだ。

普段使いのレンジでもいいのだが、スカルピーは焼くと独特の匂いがするので、うちではあえて使い分けている。

二階に戻る手間がもったいないし、その間、店には誰もいなくなるからなぁ。

それに、一応、造形を仕事にしているからね。

焼き終えたら、冷えるまで待機。

もちろん石粉粘土を使っていた時期もあったが、乾くのに時間がかかるし、水分が揮発して固まるため乾燥すると造形できなくなる、さらに開封後は日持ちしないなどのデメリットもある。

そのため価格は高いが、スカルピーに切り替えた。

なにせスカルピーは、焼くまでは自由に弄れるし、エナメルシンナーで表面を溶かして滑らかにすることもできる。

そうした理由で、非常に造形しやすいのだ。

そんな説明をナディにしながらのんびり待っていると、サティが紅茶を持ってきてくれた。

どうやら湯沸かしポットは問題なく使えているようだ。

聞けば、向こうの世界にも魔晶石の粉を固めて作られた電池のようなもの(魔力を込めると電気代わりに使える)があり、それを使う湯沸かしポットのような道具も存在するらしい。

それは確かに便利だな。

暇なときとかに自分で充電すればいいんだし。

そんな事を思いつつ、紅茶を受け取って店の様子を聞く。

すると、「今のところ、お客さんは誰も来ていません」という返事。

それを聞いてナディが心配そうな顔をした。

どうやら店の経営を心配しているようだ。

そこで笑いながら伝える。

商品は昔に比べてお手頃な価格にはなったが、それでもまだ高価で、紹介されたお客さんや以前に買った人以外はほとんど来ないこと。

さらに以前作った王族の方の使い魔の代金支払いがあまりにも高額で、分割払いを受けているため心配はいらないことも説明した。

「あ、そうでしたね」

ナディは納得した表情を見せた。どうやら、以前話に出たオリジナル使い魔の価格を思い出したようだ。

まあ、原型があるから量産は可能だけど、それをしない契約だからこそ、あの価格になるんだよね。

そんな話をしていると、焼き終わったスカルピーが冷えたようだ。

うんうん、しっかり硬くなっている。

その間に、サティはカップを片付けて店番に戻っていく。

そんなサティに「そうそう、いつもの常連のおじさんが来たら、ただ見ているだけでいいから」と伝えておく。

サティは一瞬、ん?!といった感じの顔をしたが、「わかりました」と返事をして戻っていった。

確かにそんな顔をしたくなるのはわかるけどね。

でも、気にしない方がいいよ。

さて、それでは作業に戻ろうかな。

レンジから原型取り出すとテーブルの上に置く。

そして、今度は、出来上がった仮肉付けの原型を分割していく。

鳥の場合だと、両方の翼、両足、頭部といった感じだ。

ざくざくと分割する様子に、ナディが慌てて声を上げる。

「な、なんで壊すんですか?!」

ああ、壊しているように見えたのか。

そこで、このままでは型が取りにくいこと、分割することで各部を細かく作り込めることを説明する。

それを聞いて納得したようだが、せっかく形になったものを切り離すのはやはり少し罪悪感があるらしく、困ったような表情をしていた。

彼女にとっては、使い魔となる母体が切り裂かれているように見えるのかもしれない。

なんかそう思ったら、残酷な事をしている気持になった。

特に魔力が吹き込まれ、生きているかのように動くシーンを何度も見ていたら余計に……。

いかん、いかん。

平常心、平常心と。

そんな感じで各部を分割し終えると今度は繋ぎ合わせがズレないように接続する断面に凸凹を作っておく。

プラモデルの接着面にあるハメ合わせのようなものだ。

調整しながら何度も位置合わせを繰り返し、しっかりズレないように加工していく。

ここでうまくやらないと、後からズレたりといったトラブルになりやすいから特に慎重にやっておく。

そんなことをしているとどうやら閉店の時間になったようだ。

作業室のドアが開き、サティが顔を出す。

「そろそろ閉店のお時間です」

「ああ、ありがとう。それでお店の方はどうだった?」

「はい。言われた方が来られた以外は、特に何もありません」

そう言った後、サティはくすくすと笑った。

「そうそう、あのお客様、私を見てびっくりされていましたよ」

それを聞き、思わず苦笑する。

そりゃそうだ。

いつも不愛想な店主しかいないと思っていたら、クールビューティ系のメイドさんが店番しているんだ。

お客さんが混乱するのも無理はない。

その気持ちはよくわかる。

わかるよ、うん。

「そう。あのお客さんはいつも決まった時間に来られるから、よろしくね」

「はい、わかりました」

それから道具を片付け、ベルをドアから外して閉店にした後、作業室と店内の掃除を二人に頼む。

「じゃあ、店内と個々の掃除お願いしますね。自分は今から夕飯の用意をしておくから」

そう言った後、ふと思い出したように尋ねる。

「お肉とお魚、どっちが食べたい?」

ナディは「お肉」、サティは「お魚」と返事が返ってくる。

うむ、両方は無理なので、二人にじゃんけんで決めてもらうことにする。

やり方は昨日教えておいた。

なぜかというと、昨日の二人の様子から、意見が分かれたときのために備えておいたのだ。

これからもちょくちょくあるかもしれないから。

そして早速、その予想は的中した。

それはつまり、それだけ二人がここでの生活を楽しんでいるということなのかもしれない。

そう思うと、とても嬉しかった。

そして始まるじゃんけん。

二人のじゃんけんはえらい白熱していた。

見ているこっちも手に汗握る戦いだった。

ある意味、女の戦いといっていいのかもしれない。

で、結局、じゃんけんはサティの勝利。

ふむ、では鯵の味醂干しを焼いて、野菜の煮物ときのこと豆腐の吸い物を作ろう。

なお、負けたナディはがっくりしていた。

「なら、明日の夕飯はお肉にしょうかな」

その言葉に、ナディがやったーという感じで喜んでいる。

いやいや、二十半ばを過ぎている女性にこういうのは何だが、とてもかわいいと思う。

そんなことを考えていると、ナディが尋ねてきた。

「えっと、掃除が終わったらどうすればいいですか?」

確かに。

掃除に一時間もかかるわけではないし、すぐに夕食ができるわけでもない。

「じゃあ、あとは自由時間でいいよ」と答えると、サティの顔がふっと緩んだ。

「い、犬と戯れてもいいでしょうか?」

いや、君、お昼休みも戯れていた気がするけど……。

「いいわね。今度は私も行くわ」

ナディも戯れる気満々である。

まあ、いいんだけどね。

犬たちも喜ぶだろうし。

「ああ、わかったよ。でも、ご飯ができたら終了だからね」

「はい」

「わかりました」

すぐに返事が返ってくる。

「じゃあ、お願いね」

そう言って階段へ向かおうとしたとき、二人の会話が耳に入った。

「じゃあ、掃除を終わらせて、すぐもふもふしに行きましょう」

「ええ。そうしましょうか」

「はいっ。クーのもふもふ、クーのもふもふ……」

「本当に、サティはああいうのに弱いのね。まあ、私はベーの方が好みだからいいけど」

どうやら二人は好みが違うらしい。

まあ、喧嘩にならないならそれでいいか。

そんなことを思いながら、二階の台所へ向かうのであった。

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