歓迎会 その1
二人の歓迎会といっても、特別に豪華なご馳走や凝った料理を用意したわけではない。
あくまで、普段作っている料理が中心だ。
もっとも今回は、品数を多めにしている。こちらの味にどう反応するかを見たかったからである。
もちろん、パンではなくご飯を用意した。うちは基本的にパンではなくご飯だからだ。
もし口に合わなければ別の工夫を考えなければならないが、まぁ、そのときはそのときだ。
できれば、この世界のご飯に慣れてほしいと願っている。
汁物は一人ずつ椀を配り、おかずは大皿に盛ってテーブルの中央に置いた。
好きなものを小皿に取って食べられる形式にしたのだ。
これなら、それぞれの好みも分かりやすいだろうと思ったからだ。
おかずはざっと十種類。
肉じゃが、麻婆豆腐、鶏の唐揚げ、肉団子の甘辛煮、揚げた小鯵の南蛮漬け、揚げ春巻き、野菜の煮物、スパゲッティナポリタン、野菜スティック、野菜炒め。
汁物はベーコンとキャベツのコンソメスープである。
テーブル一杯に並んだ料理はなかなかの迫力だ。もし余ったらタッパーに入れて明日の昼食にすればいい。
飲み物は水、レモン風味の炭酸水、そしてお茶を用意した。
さて、二人はどんな反応を見せてくれるだろうか。
わくわくしながら応接間を覗くと、二人は初めて見るテレビに夢中になっていた。
「ご飯だよー」
声をかけても、なかなかこちらへ来ない。
不思議に思って様子を見に行くと、食事に行きたい気持ちとテレビを見続けたい気持ちの間で迷っているようだった。
その姿があまりに子どもっぽくて思わず笑ってしまう。
向こうの世界には芝居はあっても、こうした映像作品は存在しないのだろう。
ちなみに今流れているのは、私の映画BDコレクションの一本。
有名な作曲家の人生をライバルの視点から描いた映画で、個人的にとても好きな作品だ。
一般受けはしないだろうと思ったが、雰囲気があちらの世界と似ているので時間つぶしになればと選んでみた。
だが予想に反し、映像の珍しさも手伝ってか二人とも画面に釘付けになっていた。
それはそれで嬉しく思う。
「ご飯が終わったら、続き見られるからね」
そう声をかけると、二人は驚いた表情を浮かべた。
「えっ!?」
どうやら、薄い箱の中で小人が劇をしていると思っていたらしい。
詳しいことは後で説明すると伝え、映画を止めて食堂へ案内した。
ずらりと並ぶ料理を見て、二人は目を丸くして驚いていた。
よし、満足。
「では、そちらに座って」
椅子をすすめて二人が座るのを確認し、私は手を合わせた。
「いただきます」
しかし二人はきょとんとしている。
「あ、ご飯を食べる前の挨拶みたいなものだよ。ほら、そっちの世界でも神に感謝を捧げるだろう? あれと同じさ」
「なるほど……。でも『いただきます』ってどういう意味?」
ナディがそう尋ねてきたので説明する。
「要はね、感謝の気持ちを表す言葉なんだ。作ってくれた人、育ててくれた人、そして食べ物となった命への感謝。それを『いただきます』という言葉に込めているんだよ」
説明を聞き、二人は感心した様子でうなずいた。
「あ、別に強制はしないよ。そっちみたいに神への感謝でもいいし」
そう伝えると、二人は手を合わせて口を開いた。
「「イタダキマス」」
なんだか嬉しい。ふとそう思った。
そういえば、とある学校では「給食費を払っているから『いただきます』は必要ない」と言って禁止しているところもあるらしい。
本当に馬鹿げている。
金を払おうが、人は命を食らって生きている。動物も植物も関係ない。
だからこそ、命への感謝が必要だし、それに関わった人々への思いは人の優しさを育てる。
「金さえ払えば何をしてもいい」なんて考えは、人として最低だと思う。
……っと、話が逸れた。
ともかく、二人がこの習慣を受け入れてくれたことは、とても嬉しかった。
だが、このあと本当の試練が待っていた。
そう、箸の使い方だ。
そういえば二人は、箸のない世界からやって来たのだった。
見よう見まねで挑戦してみるものの、なかなか難しい。
見かねて「スプーンやフォークもあるよ」と差し出したが、ナディはこだわりを見せて「箸で食べたい」と頑張っていた。
だが、料理が冷めてしまっては意味がない。
結局、今回は止めさせるしかなかった。
「今度、しっかり教えるからね」
そう言うと、ナディは涙目で「絶対ですよっ」と言い返してきた。
少し睨むような表情が、なんだか微笑ましい。
こうして、ようやく二人の歓迎会は始まったのであった。




