私限定で甘えた彼氏
「あれ、これって……」
自宅のソファーに座りながら、テレビから流れるニュースをぼんやりと見る。すると今大注目の若手俳優をピックアップした特集が鼓膜を揺らす。
「かっこいいなぁ」
思わず感想が溢れ落ちた。テレビに映るのは、大人気である若手俳優の名前は鴎二レイ。甘いマスクと実力派の演技が売りで、何をしても一流の結果を出す俳優である。更に物腰も柔らかく、老若男女から支持されているのだ。
ネットで彼を見かけない日はない程大人気である。ファンからは、芸名である苗字にかけて『王子レイ様』と呼ばれている。
「うぅ…何が、誰がかっこいいって?」
「あ、りゅうちゃん。おはよう。ほら、あれ」
私の太腿の上に居座る、黒い毛玉が動いた。毛玉こと、起き上がった人物の名は一井龍星。私の恋人である。隣に座った彼にテレビを指差す。
「あ? あれの何処がかっこいいだよ。髪型はイマイチだし、動きのキレも悪い。寝不足で隈も出来ている。おまけに声の張りが足らない」
「おぉ……いつもながら辛辣だね……」
彼はテレビを一瞥すると、画面の人物に対しての評価を口にした。予想通りだが、吐き捨てるかのような口調に思わず苦笑が漏れる。
「本当のことだろう」
「う〜ん。でも……監督さんの急な要望に応えて、寝不足になりながらも練習を重ねてしっかりと映画を完成させた。りゅうちゃんは、かっこいいと思うけどなぁ?」
十五分程の仮眠では、彼の機嫌は治らないようだ。私は龍星の髪に両手を伸ばすと、その滑らかな髪を撫でる。
周囲は彼の努力や実力を認めているが、彼は自分自身に対して厳し過ぎる。今日もクランクアップを迎えると、そのまま帰宅をして私の膝の上に倒れ込んだのだ。頑張る姿も好きだが、少し心配になる。
「そうなら、初めからそう言えば良いだろうが……」
「りゅうちゃんが演じている役も『鴎二レイ』も纏めて、私は大好きだよ」
拗ねたような口調で、龍星は私の肩に顔を埋めた。労いと愛情を込めて、彼の背中をゆっくりと撫でる。
「俺も美姫のことが大好きだ」
「うっ……うん……」
緩慢な動きで顔を上げた龍星と目が合う。至近距離で美しい顔に見詰められ、艶のある声で耳元を囁かれ平静を保てる人は少ないだろう。現に恋人である私も、ぎこちなく頷くのが精一杯である。
「何だよ? 俺の素直な気持ちを聞いて、その反応はないだろう?」
「いや、違うよ。顔と声が良いなと……」
唇が触れそうな程に顔を近付けてくる彼に、私は慌てて弁解を口にする。
「……じゃあ、美姫にご褒美あげる」
「え? りゅうちゃん?」
龍星が再び私の膝の上へと、寝転んだ。何がご褒美なのだろう?確かに背の高い彼を上から眺めることが出来るのは、ご褒美だと言えるが彼の意図が分からない。私は思わず首を傾げた。
「ふふ……俺の寝顔を眺める権利」
「うっ……でも、寝るならベッドに行ったら?」
柔らかく笑う彼は、悪戯っ子のように楽しそうである。大変可愛いらしい。普段はかっこいい龍星だが、私限定で甘えた彼氏になるところも大好きである。
彼の可愛いさを叫びたい衝撃に駆られるが、それを行えば龍星の眠気を覚ましてしまうことだろう。私は荒ぶる気持ちを吞み込み、別の提案をした。ゆっくりと休むならば、ちゃんとした寝具が適しているからだ。
「やだ。美姫の近くが良い……」
「お疲れ様……ゆっくり休んでね」
龍星は私の右手を掴むと、頬を摺り寄せ寝息を立て始めた。あどけない表情で眠る彼に、私は左手でそっと彼の頭を撫でた。