第141話
指定された扉をくぐった先は、ダンジョン内部だった。
「ここは……。天のダンジョンかな?」
第9等級ダンジョン。
どうやらその最上階みたい。
「来てくれたんだね! 待ってたよ。雫石 颯君」
部屋の中央で目を閉じていた大天使が目を開け、俺に話しかけてきた。
「女神様ちゃん、ですね?」
「うん、そうだよ。こうやって話すのは初めてだね」
「挑戦状を叩きつけられたので来ましたが、またボスキャラ乗っ取ってるんですか……。正直いうとそれ、やめてほしいです」
女神はこのダンジョンのラスボス、大天使ウリエルに憑依していた。
「それはごめんねぇ。私、この世界に干渉するにはこーゆー依り代に頼らないとだめなんだけど、この子みたいに動けるようデザインしたりするのは出来ないの」
「まぁ、そういうことなら」
納得するしかないか。
神様スケールのことは良く分かんないし。
でもウンディーネを穢した件は許さない。
「一応聞きますが、今回はなぜ俺を名指しで挑戦状を送ってきたんです?」
「そんなの私がウンディーネになって戦った時に負けたのが悔しかったからに決まってるじゃん! あれって『負けイベント』ってやつだったんだよ!? 君は私に負ける予定だったの。もちろん初回は私の力で復活させてあげるつもりだったけど」
どおりで理不尽な攻撃してくると思った。
絶対クリアさせる気ないって感じがしてた。
「負けイベントを突破されたから、俺に興味を持ってくれたんですね」
プレイヤーとして、運営に注目されるのは嬉しい。もちろんチートユーザーなど悪い意味で注目されるのはダメだけど。
何百万、何千万という膨大なプレイヤーがいるゲームで運営が気にかけてくれているという状況にテンションが上がる。
「ふん。今回は本当に負けてあげないけどね」
「わがままな神様ですね」
そう言いながら武器を構える。
今回はウリエルをロールプレイする気はないようだ。つまりどんな攻撃が来るか、全く予想が出来ないということ。
ウンディーネは水系ボスの技、フローラは樹木系ボスの技に加え、ウンディーネの大技も使って来た。そうなると今回はウリエルの技とフローラ、ウンディーネの技を複合して使ってくるんじゃないかと予測したくなるが、たぶんそれじゃダメだ。
FWOに存在する全てのボスの大技を使ってくるって思っておいた方が良い。
あらゆる可能性を考えておかないと、敵の突然の行動で思考が一瞬停止する。それは致命的な隙になり、俺は女神に敗北してしまうだろう。
すべてに反射で対応するしかない。
「それじゃいっくよぉー! まずはコレを耐えられるかな?」
「ん?」
なんだそのポーズ。
そんな姿勢から放たれる大技なんて──
「女神様ちゃんビーム!!」
極大のビームが放たれた。
「うぐっ!?」
流石に予想外過ぎた。
まさかFWOの技を使ってこないとは。
「おぉ。今のを耐えるんだ。さすがだね」
危なかった。
装備もできるだけ強化しといて助かった。
でもあんなのを連発されたらマズい。
「次は5連発!」
……は?
「必殺、5連女神様ちゃんビィィーム!!!」
回避できる場所なんてない。
絶対絶命。
ガチで俺に勝ちにきてる。
そう。そういうこと。
そっちがそのつもりなら、俺にだって考えと準備がある。
俺はとある装備を取り出し。
ビームを切り裂いた。
「ふふふっ。これならあの颯君だって流石に──って、え? なんで? なんで無事なの!? 絶対直撃してたよね!?」
無事な俺を見て女神が驚いている。
俺の足元まではビームが地面を焦がした跡が残っていたが、背後には地面が焼け焦げていないエリアが三角形状に広がっている。
「ねぇ、なによその武器。私は最近ずっと君の配信をチェックしてるけど、そんな武器手に入れてなかったじゃん!」
気づかれたか。
てか俺の配信見てるんだ。
「隠しダンジョンで手に入れた神剣、天叢雲剣です」
「待ってよ。隠しダンジョンなんて知らないんだけど!」
「そんなこと言われましても……。ゲームでもあったし、現にこうして武器もありますから」
これくらいの強化は許容範囲でしょう。
「まーたそうやって君はチートを……。いや、違うわね。なんでもチートだって決めつけるのはダメ。あの定春が見逃すはずないもん」
さだはる?
もしかして、四刀流システム開発者の定春さん?
なんで女神から彼の名前が?
「よし、切り替えよ。女神様ちゃんビームを防げるって言っても、その一本だけじゃ意味ないってことを思い知らせてあげる」
そういう女神の身体が輝き始めた。
これはウリエルの技だな。
定春さんのことは勝った後に聞こう。
戦闘に集中する。
強化済みの天叢雲剣は第10等級ダンジョンでも十分通用する武器だけど、その性能に頼り切ることはできない。
溜め時間も大技発動後の硬直時間も短く、更に複数のボスの大技を際限なしに使用してくる敵。間違いなくFWO歴代最強のボスキャラだ。
ダメージ無効とか積んでないと良いなぁ。
流石にそれは白ける。
でも多分。なんとなくだけどそれはない気がしていた。
ウンディーネ戦を絶対に勝てない負けイベントにしたいなら、プレイヤー側のダメージを100分の1にするとか、そもそもダメージ無効にするとかやりようはいくらでもあるはず。
そうなっていなかったってことは女神にその気がないか、絶対クリア不可能な設定にしようとする彼女を止めてくれる誰かが近くにいたってことだろう。
「さぁ、いくよ」
「次は俺も攻めに転じます」
マニピュレータの力で加速し、突進していく。
「向かってくる勇気は流石ね。ちなみに私は女神で、ウリエルは天使だから私より格下の存在。でも系統は同じなの。だから使える技のキレは今までの比じゃないからね。くらいなさい──シャイニング・フォース!!」
輝く巨大な手が出現し、俺に掴みかかってきた。
掠っただけで大ダメージ、掴まれればタンクでも即死する攻撃だ。
しかもそれがゲームの時より素早く動いている。
「くっ」
なんとか回避しつつ、女神への接近を試みる。
「君は近接系でしょ? ちょっと遠距離攻撃も持ってるみたいだけど、基本は近づけなきゃ大丈夫。ってことで、ロード・オブ・ハイドラ!!」
やっぱりそれも使ってくるか!
「ここで畳みかけちゃうよ! 女神様ちゃんビィィーム!!」
あ、詰みですね。
このままじゃ。
もう少し温存したかったけど仕方ない。
だって天叢雲剣1本じゃ防ぎきれないんだもん。
「はぁ、はぁ。こ、これなら流石にやったでしょ」
「やっと隙を見せましたね」
「──っ!!?」
油断していた女神の右腕を切り落とす。
「いったぁぁいぃぃ! な、なんで!? なんでアレを受けて無事なの!? しかも防御力を盛りに盛った私の身体に刃をいれるなんて、どんなトリックをつかったの!?」
「それはこいつらのおかげです」
両手に持つ2本、そして左右のマニピュレータに装備した2本、計4本の天叢雲剣を見せつける。
「な、なななんで私のビームを斬れる剣を4本ももってんのよ!!?」
「元から1本しかないなんて言ってませんよ。それにFWOって、どんなレアリティでも武器の所有上限はその戦闘職が使える最大数ですもん。俺みたいな四刀流ユーザーなら、神剣であろうと4本まで同時使用ができる仕様」
だったらやるでしょ。
ボス連戦。
どんなに入手が難しくても、ゲーマーなら最強装備を揃えたくなるんだ。
俺は出雲に出現した隠しダンジョンのボス、ヤマタノオロチと連戦しまくり、4本の天叢雲剣をゲットしていた。




