第138話
金色に輝く竜が超高速で飛来する。
直撃すれば装備をガチガチに固めたタンクであっても一撃で行動不能になる威力の突進だ。
その攻撃を回転しながらなんとかいなす。
今のは結構危なかった。
「やっぱりコイツ、滅茶苦茶はえーな」
いつものように解説する余裕がない。
配信者としてダメだってのは分かってるんだけど、女神が憑依したウンディーネやフローラの時のように全神経を戦闘に集中させなければ一発で退場になる。
第8等級ダンジョンのラスボス、金竜オウルディアはそんな強敵だった。
回転で完璧にいなしていても少しダメージが入ってしまう。しかし回復薬を飲む隙すらないんだ。そのため出来るだけ体力にバフがかかる装備を選んでいるが……。
「ヤバいな。リアルだと突進のダメージ範囲が体感1.5倍くらいあるんだけど」
既に闘気解放は使用済み。
さっきの突進は金竜の大技のひとつなので、それを回避するために闘気解放をこのタイミングで使うしかなかった。
効果時間は残り45秒。
これが切れたら勝ち筋は細くなる。
大技を使われる前にかなりダメージは与えているが、突進後は防御力がかなり向上してしまう仕様。
ここから残りの体力を削り切るには闘気解放の力が必要だった。
「……仕方ない。アレをやりますか」
体長が30メートルくらいあるオウルディアに対して、効果的に大ダメージを与えられる四刀流最後の奥義。
俺が編み出した四刀流の奥義は三つある。
PVP用の『朧』は、玲奈以外の誰にも見せたことはなかった。それを女神が憑依したウンディーネ戦で使ったので、もう世界中に知られている。
マニピュレータを超精密動作させる『奏』は闘気解放時のみ使える技で、FWOがゲームだった時から配信時にも使用している。
最期の奥義は、名づけが俺じゃないんだ。
だから少し技名を叫ぶのが恥ずかしい。
でもやっぱり四刀流の奥義だから、技名を言わないとダメな気がする。
アレは俺が一番最初に編み出した四刀流の奥義。
実は最初は奥義なんて言ってなくて、巨大なモンスターにダメージを与える技のひとつとして考案したもの。ただ実行するのにマニピュレータの制御が難しすぎて俺以外の誰も真似できないから、配信を見ていた視聴者さんたちが勝手に四刀流の奥義だって言って名前を付けちゃったもの。
ちなみに朧も奏も、そのひとつめの奥義名に合わせて漢字1文字、読みは3文字になるよう名付けた。
「いくぞ」
マニピュレータで地面を強く押し出し、オウルディアに向かって突撃する。
オウルディアは口を大きく開け、俺を噛み砕かんと加速してきた。
「ステップメーカー!」
接触する寸前で魔法スクロールを起動。
宙にできた足場を踏んで敵の攻撃を回避する。
そのまま回転攻撃に入る。
右手に持つ剣でオウルディアの頭部に斬り込み、次に右マニピュレータの剣、左マニピュレータの剣、左手の剣。そしてまた右手の剣へと攻撃を繋げていく。
一か所を斬るのではなく、大型モンスターの巨体をなぞるような連続攻撃。
「四刀流奥義 ”颯”!!」
俺の攻撃が、まるで風がモンスターの体表を流れていくようだったからその状態を表す『颯』という単語を技名にしようと視聴者さんたちが盛り上がっていた。俺はそれを採用したんだ。
オウルディアには大ダメージを与えられた。ただし、自分の名前を叫びながら攻撃するのは流石に恥ずかしい。
そしてもうひとつ、この奥義には欠点がある。
FWOのボスモンスターはコアを破壊しないと勝てない仕様になっている。コアを破壊するためにはある程度モンスターにダメージを与える必要があるので『颯』は必要なんだけど、体表をなぞるように攻撃する仕組み上、どうしてもコアに止めの一撃を入れることが出来ないんだ。
奥義なのに、それを使っても決着をつけられないのがちょっとダサい。
そして闘気解放が切れた。
ここからはひたすら泥仕合。
「闘気解放が終わっても戦い続くのはしんどいなぁ」
ゲームの時には無かった、筋肉痛に似た闘気解放の後遺症がきている。普通はラストスパートで闘気解放して敵を倒すので、筋肉痛があっても問題はない。
かなりつらい状況だった。
でも泣き言ばかりいっていられない。
瀕死だが、オウルディアの眼にはまだ戦う意志が感じられる。
「お前もやる気なんだな? しんどいけど、俺も負けねーよ」
四刀流が最強だって示すんだ。
そのためならひとりで135分もボスモンスターと戦い続け、勝利を収めたこともある。それはゲームだったけど、リアルになった今でも俺の意志は変わらない。
「さぁ。どっちがこのフロアの覇者になるか決めよーぜ!」
オウルディアが咆哮で応えた。
四刀を構え、迫る強敵を迎え撃つ。




