第134話
第7等級『骸のダンジョン』、ボス部屋にて──
「黒崎さん、弾幕薄くなってきてます」
「サボりは良くないっすよ、慎吾さん」
「こ、これでも精一杯やってるんですけどぉ!?」
颯と黒崎 慎吾、一ノ瀬 一馬は3人で無数のスケルトン兵をなぎ倒しながら、ボス部屋の中央を目指して前進していた。
骸のダンジョンのラスボスはネクロマンサー。厄介なことに、このボスは無限にスケルトン兵を召喚してくる。数百体のスケルトン兵をなぎ倒し、無理やり接近してネクロマンサーを倒すのがこのダンジョンの攻略方法。
あまり知られていないが、実はこのダンジョンにはもうひとつの攻略方法がある。
「みんな、準備できたよ! 気を付けてね」
遠くから咲野 芽依の声が聞こえた。
「あ、魔法チームの準備ができちゃったみたいっす」
「残念。さきのんのほうが早かったか」
「これで、もう、弾幕張らなくていい?」
颯たち3人はネクロマンサー目掛けて特攻を仕掛けるチームだった。同じく特攻チームとして南雲 龍之介、羽鳥 涼香、武宮 葉月の3人もスケルトン兵を蹴散らしながら進んでいたが、範囲攻撃の手段が少ない彼らは颯たちより少し後ろにいる。
玲奈と直人は芽依を守りながら、芽依の全体攻撃魔法で一気に片をつける一撃必殺チーム。これがこのダンジョンのもうひとつの攻略方法。
「いっくよー! 合成魔法発動──」
魔法使いという職業は強力な魔法を使えるが、それは闇属性のスケルトン兵やネクロマンサーにはあまり効果がない。それらにダメージを与えるには聖属性魔法が必要だが、芽依は使えない。そこで彼女は回復術士である一馬に聖属性の攻撃魔法をスクロールに入れてもらい、それを利用して得意の爆破魔法に聖属性を付与した。
「シャイニングエクスプロージョン!!」
神聖エネルギーの暴風がボス部屋を蹂躙していく。
スケルトン兵はなすすべなく吹き飛ばされていった。
「いつもの爆破魔法と違って、優しい感じっす」
「俺らにとっては回復系統の魔法ってことになるからですね」
「てか芽依ちゃんの詠唱が終わるまでにネクロマンサーまでたどり着くのって、どう考えても無理ゲーだったんじゃない?」
「頑張ればいけるかなーって」
「いや、無理だろ」
龍之介たちが颯のいる場所まで歩いてきた。周囲は聖属性の爆破魔法がまだ吹き荒れているが、芽依の仲間である彼らにダメージはなく、こうして内部を歩くことも可能だった。
「私たちも頑張ったんだけどね」
「流石に第7等級ダンジョンだと、ただのスケルトン兵でもめっちゃ硬いよ」
回復と補助系統のスキルを伸ばしている魔法使いの涼香は仲間の武器に聖属性を付与することが出来る。それで龍之介と葉月をサポートして戦っていた。普通に続けていれば、彼女たちでも十分ネクロマンサーを倒すに至っただろう。
それ以上に芽依の魔法発動が早かっただけ。
爆風が晴れた。
グ、ギギッ
「あ、まだ倒れてない!」
ネクロマンサーは芽依の魔法を何とか耐えていた。
止めを刺そうと全員が動く。
「夕飯は俺のチームが奢ってもらう!」
マニピュレータの力で加速し、颯が先頭に出る。
「ヤバいな。葉月、行ってこい!!」
「ういっす!」
龍之介が葉月に斬撃を飛ばし、それを足で受けた彼女が超加速して颯を追い抜いた。
「おい、マジか」
「えへへ。いただきっ!」
そのまま葉月がネクロマンサーのコアを破壊しようとするが──
「え、うそ」
彼女のナックルクローが当たるより先に、遠くから飛来した矢がコアを粉砕した。
「さきのんさんがほとんど倒してたんです。止めだけ譲ったりはしません」
颯と葉月が振り返ると、遠くで矢を放った後と思われる姿勢のままの玲奈が満足気に笑っていた。
──***──
「えー、それでは。本日の勝負の結果発表です」
颯と直人が良く行くファミレスに東雲学園のSクラス生徒全員が集まっている。
「本日の優勝は玲奈と直人、さきのんの『魔法でドッカンチーム』です!」
「いぇーい!」
「やりましたね」
「玲奈ちゃんが最後ナイスだった」
致命傷を受ければ意識を失って目覚めず、モンスターから攻撃を受ければ普通に痛い──そんな現実世界に出現したダンジョン。更にまだ世界で誰も踏破していない最難関の第7等級であっても、颯たちはどのチームがボスを倒せるか夕飯を賭けて勝負するほどの余裕があった。
「勝負には負けたけど、第7等級ダンジョンも楽勝だったな」
「ちゃんと武器も強化しながら進めてるもん。玲奈ちゃんが作ってくれた装備、すっごく調子がいいよ」
「ふふっ。これでもFWOがゲームだった時は【クリエイター】って称号を獲得していましたから」
「それって、レシピを1000種類も新規登録しないとゲットできないんじゃ?」
「頑張ってプレイしてても10個登録できれば凄い方だよね」
「颯がFWOガチ勢なのは知っていたが、東雲もそうなのか」
ほぼFWOをプレイしたことののない龍之介が若干引いていた。
「でも都度最高の装備に更新してくれるおかげで、攻略が楽勝っす」
そう、それが問題だった。
「……ぬるすぎるんだよなぁ」
そう呟くのはかつてソロ最強と呼ばれた男。
ゲームだったFWOでは2パーティー8人以上での攻略が推奨される第7等級『骸のダンジョン』を、たったひとりで踏破した四刀流の配信者。
「颯、どうしたの?」
思いつめた表情をする彼を心配した玲奈が声をかける。
「いや。みんなで攻略するのも楽しいんだけどさ……。なんていうかこう、スリルが足りない。敵とギリギリのやり取りしてる感じの、肌がヒリつく感覚がないんだ」
「おい待て。これ現実だぞ? 怪我すれば痛いの。下手すれば死ぬかもしれない。そんなのにお前、なに言い出そうとしてんだよ」
「わかってるよ直人。わかってるつもりなんだけどさ」
自身の四刀流ならひとりでも攻略できる。
それを証明したい。
そんな思いが颯の中で膨らんでいく。
「みんな、ごめん。次の第8等級、俺はひとりで攻略するから」