第132話
マニピュレータの力で高く飛び上がり、颯が女神に迫る。
「こ、来ないでって言ってるでしょ!!」
当然女神は颯を近づかせまいとする。
木の根が彼を迎撃しようとするが──
「玲奈、アレ撃ち落として」
「はーい!」
それらは玲奈の放った矢で蹴散らされた。
「あっちは黒崎さん、お願いします」
「おっけー!!」
反対側から颯に向かっていた龍を形作った水は黒崎 慎吾の弾幕によって抑えられている。
大技で颯の接近を防げないと悟ったフローラは、両手で防御して自らのコアを守ろうとする。
「それだと守り切れませんよ」
「俺たちは最強のチームだからな」
「えっ」
颯の影から南雲 龍之介が現れた。そして身体を硬直させるフローラの右腕を颯が、左腕を龍之介が切断する。
「いったぁあああいいい! な、何してくれんのよ!!」
慌ててフローラが腕を再生させようとするが、それは攻撃も防御もできなくなる最大の隙を作ってしまう。
「コアを露出させるのが」
「私たちの仕事ね!」
補助系魔法使いである羽鳥 涼香の支援魔法をその身に受けた武宮 葉月。闘気解放と最高に相性が良い近接戦闘系の拳闘士である彼女は女神をゾッとさせるほどのオーラを纏っていた。
「ひっ!? ば、バブルスウォーム!!」
無数の巨大な泡がフローラの周りに現れた。これはプレイヤーが触れると爆発して大ダメージを受けてしまう危険な気泡。速度はそれほどないが数が多く、これを扱う溟海のダンジョン中ボスに苦戦した攻略者も多い。
しかし本来フローラは水系の大技など使えないはずであり、加えてバブルスウォームの発動には約6秒のチャージ時間が必要なはずであった。女神はその設定を完全に無視して、強制的に大技を発動させた。
これはFWOをよく知る上位プレイヤーほど引っかかってしまう罠だ。
「あ、それやばいかも」
既に攻撃態勢に入っていた葉月は回避できなかった。
涼香の補助魔法で体力も強化されているが、周囲にあるバブルの数が多すぎる。連鎖爆発により一気に体力が削られてしまうのは避けられない。
「葉月!!」
背後から涼香が自身の名を叫んでいるのを聞きながら、葉月は死を覚悟した。
「ハヤテ式四刀流奥義 “奏” 」
超精密制御された4本の剣がバブルを破裂させることなく不活性化していった。
直系がおよそ30cmのバブルはその全体が均一ではない。それぞれの色むらを見極め、特定の箇所に長さ3cmの切り込みを入れることで爆破させずに対処できる。
対処は可能なのだが、それに求められる精度が問題となり実際にこの方法でバブルスウォームを無効化できるのはランキング上位プレイヤーの中で更にキャラコン猛者と呼ばれる少数の者たちだけだった。
現実世界で、しかも死ぬかもしれないという恐怖の中で自身の身体を完璧にコントロールできる人間はあまりいない。
それを颯はやってのけた。超高速でマニピュレータを稼働させて全方位防御を展開する “朧” とは別の、彼が開発した四刀流の奥義を使って。
「は、颯君? ありがとう、助かった!」
「でもこれ、闘気解放状態で12秒が限界です」
極限まで集中し、闘気解放で人間の限界まで運動能力を高めた時だけ使うことが出来る技であり、技の発動時間は長くない。
「それで十分!!」
周囲のバブルは消滅している。
それに女神は困惑した。
「ちょっと、なんで爆発しないの!?」
「喰らえ、破城閃爪!!」
「ひぎゅっ──」
かぎ爪を装備した葉月の攻撃がフローラの胸元を大きく切り裂き、コアを露出させることに成功した。
任務をこなし、敵から距離をとる葉月と颯に回復術士の一ノ瀬 一馬が近づいた。
「お疲れ! 回復させるぞ」
「私は大丈夫。颯君をお願い」
予備動作もなく発動させられたバブルスウォームから仲間を守るため、颯は無理して奥義“奏”を使用していた。額に汗をにじませる彼からは、いつものような余裕がうかがえない。それはSランククラスの全員にフローラが強敵であることを再認識させるのに十分な情報だった。
闘気解放の効果がまだ継続している今のうちに倒すしかない。
出口は塞がれている。
逃げることは出来ない。
フローラを倒すか、負けて死ぬか。
「たたみかけるぞ! 全員気張れよ!!」
地面に膝をついて一馬に体力を回復してもらっている颯に代わり、龍之介が陣頭指揮を執る。それに続く慎吾たち。
「おっけぇい!」
「はーい!」
「葉月、もう一回いける?」
「もちろん!」
──闘気解放が解除されるまで、残り58秒。