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第117話

 

『無事だよ。凍えるほど寒いけどね』

『それを無事とは言わねーんだよ!!』


 教室の電子ボードに昨日の俺と直人のやり取りが映し出されている。


「颯君が言っているように、ダンジョン内で使用した魔法はパーティーを組んでいる仲間にダメージを与えることはない。ただし、その魔法によって生み出された物質の影響は受ける。より正確に言えば、物質がこの現実世界に及ぼす影響と同様の()()()()攻略者も受けてしまうことが分かっている」


 スミス先生が解説をすると、それに合わせて電子ボードに様々な研究論文が表示されていく。日本語以外で書かれているモノが多く、俺はタイトルさえ理解できなかったけど。


「感覚のみということは、実際の身体は凍傷や火傷を負ったりすることはないということですね?」


「そうなるね。私はダンジョンに入れないから、これらの論文や攻略者のレポートを読んで君たちに伝えることしかできない。正直この辺りは君たちの方が詳しいんじゃないかと思うが……」


 そう言いながら先生が俺を見てくる。


「先生! この中で最も攻略が進んでいるのは颯ですが、コイツはほとんどノーダメ攻略しちゃうんで、多分なにも知らないと思います」


 直人に少し責められた。


 俺が事前に装備を試させなかったことをまだ怒ってるみたい。


「いやいや、ちゃんと実験くらいしてるって」


 モンスターからの攻撃なんて受けたくないが、仲間になった人の攻撃を受けたらどうなるかの確認は玲奈と進めていた。そうじゃなきゃ直人とさきのんにあんな無茶させられない。


「そうだね。ここに表示されている論文の多くが、颯君と玲奈さんの攻略配信を解析した結果をもとに書かれている。彼らはダンジョンの攻略方法だけじゃなく、もっと基礎的で重要な情報も発信してくれているんだ」


「え、でも配信じゃそんなこと言ってないよな」


「確証がないことを言葉に出来ないよ」


 俺がダンジョンを攻略している様子が強制配信されているのは、億を超える人々が見ているんだ。俺の言葉を信じて、仲間を巻き添えに魔法を使う人が増えても困る。もしかしたら俺だけがダメージ受けなかった可能性もあるんだから。


 ただ実験のため、玲奈が使ったスキルにわざと触れてみたりはしている。そうした行動をチェックされて、論文になったんだと思う。


「ちなみに先生が読んだ論文って、俺ら以外の検証結果も見たりしてます?」


「もちろん。たったひとつの事例のみから結論を導き出した報告書が論文として学会の査読を通過することはないよ」


 それを聞けてちょっと安心。



「先生! 質問です」


「芽依さん、どうぞ」


「結論として、味方を巻き込むつもりで魔法を撃っても問題ないってことですか?」


「いや、そうとも限らない。この論文を見て」


 英語で書かれていて内容は良く分からないが、記載されている図やグラフからダンジョン攻略のとは少し異なる論文だと思われる。


「人間の身体は不思議でね。実際は怪我などしていないのに、思い込みで肉体が損傷を受けてしまう事例があるんだ。つまり本当は仲間の使った魔法で凍傷を受けることはないが、見た目の印象と寒いという感覚から脳が勝手に肉体にダメージを与えてしまう。これが大規模魔法を使う際のリスクだと言える」


「てことは、昨日のは実は危なかった?」


「そうとも言えるね」


「おーい! 何が無事だって?」


 直人に睨まれた。


「ご、ごめん……」


 俺もそんな感じだとは知らなかった。

 大丈夫だって思ってたんだ。


「直人君、颯君を責めないで。たぶん彼も知らなかったんだ。というか颯君はパートナーである玲奈さんの攻撃で自身がダメージを受けるはずがないと強く思い込んでいたから、実際にこれまでの攻略で怪我を負っていないと考えられている」


 え、そうなんですか?


「視覚も触覚でも、ダメージを受けるのが確実だと思える攻撃に触れて平気だと思い込めてしまう颯君がちょっとイレギュラーだね。多くの論文では、仲間を巻き込む広範囲魔法を使うべきではないと結論付けている」


「そんな……。それじゃ私がやろうとしてた、盾役の直人ごと敵を殲滅する作戦ができないじゃないですか」


「あ、あの、芽依さん? そんなこと考えてたんですか?」


 直人は知らないけど、さきのんとは()()()()戦い方もできるねって話していた。



「なに言ってるの? できなくないよ」



「「「えっ」」」


 スミス先生の言葉に教室にいる全員が頭に(はてな)を浮かべた。


「だって颯君がやってるじゃん。仲間を信じれば良いんだよ。要はイメージの問題。仲間の魔法じゃダメージを受けない。そう信じて敵に突っ込むんだ。君たちが今後も世界最速でダンジョンを攻略し続けるには、芽依さんの魔法が必須になってくる。そんな時に仲間の魔法でダメージを受けたくないから前に出ない? ダメだよ。そんなんじゃいつまでもNo.1でいられない」


 電子ボードにどこかのダンジョンを攻略している集団の映像が映し出される。


「これは中国の攻略団だね。彼らはいち早く魔法の影響を受けるか否かが、イメージによるものだと気付いた。そしてご覧の様に強引な攻略を始めているんだ」


 映像では盾役の人を巻き込むように後衛の魔法使いが大規模な魔法を放ってモンスターの群れを倒していた。

 

 FWOがゲームだった頃はよく見た光景だ。

 でも現実ではかなり恐怖を感じるはず。


 それをやっちゃう人たちもいるんだ。


「いいかい? 君たちは()()が出来るようにならなきゃいけない。全ての戦闘でやれとは言わないが、仲間を巻き込む大規模魔法を選択肢のひとつとして持っておく必要はある。攻略効率と、君たちの安全のためにね」


 スミス先生が俺に近づいてきた。



「さぁ、みんなで颯君みたいに頭のねじが吹き飛んだ攻略者になろう!!」


 全く褒められてる気はしないんだけど、俺の肩に手を置くスミス先生はなぜか凄く良い笑顔だった。

 

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i889366
マガポケにて連載中!
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