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6. 獲物(メインディッシュ)

「あう?!!!」


 俺はまたさっき部屋から出た時と同じような反応をしてしまった。


 大きさや形は様々だが俺の家であるお屋敷と同じ木造の建造物がいくつかあり、我が家に程近い所には何も無く広場のようになっている場所もある。


 そして何より、建物の間にはところどころ、村の周りには数えきれないぐらい木々が生い茂っていて……。そう、この辺り一帯は森の中に位置していたのだ。


 いや、何となくそうだろうなとは思っていたけど。ずっといた部屋の窓から木らしきものが見えていたというのもだし、もうすぐ帰ってくる父さんたちが行った食糧調達もそうだ。


 部屋を出る直前に父さんと母さんが獲物がどうとか、仕留めるとか言っていたから、食糧調達は食糧調達でも買い物ではなく狩りのことを指しているんだと思う。そもそも買い物なら母さんでも行けるし、そんなにそんなに大人数で行く必要がないはず。


「今日はなかなか帰ってこないわね、大丈夫かしら」

「きっとすぐに帰ってくるわ。それに、今日は普通に狩りだけだし、そんなに心配しなくてもあの人たちなら大丈夫なはずよ」

「確かにそれもそうね、ってジェナスじゃない。あなたも迎えに来てたのね。あら? もしかして今抱いてるその子って……」

「子供たちが迎えに行きたいって言ったから今日は一緒に迎えに来たの。私の抱いてる子は昨日生まれた私たちの息子でナイトっていうのよ」

「やっぱり!」



 俺たちは開けているところの真ん中の方まで進んできた。広場では不安そうな顔をしていたり、していなかったりする数人の女性が話をしている。母さんも誰かと話していて、どうやら俺の話題が出ているらしい。


 今母さんと話している女性、母さんが言う前から俺のことを知っていたような感じがしたんだけど、どうして今初めて会ったはずの人が俺のことを知っているのだろう?


 それにしても、さっきからこの周辺子供と女性しかいないんだけど……。ここにいないということもあって、狩りに行っているのは大人の男性たちということなのかな?


「ほら、話をしているうちに皆帰ってきたみたいよ」

「確かに。声はするわ……あ、あっちの方、あれじゃない?」

「そうね。ナイト、レオンくん、パパたち帰って来たわよ。ほら、見えるかしら?」


 母さんが指差す方向に、ちょうど夕日が落ちているのを背にするようにして集団がこちらに向かって歩いてきているのが見える。同時にがやがやとその集団が賑やかに話している声も次第に大きくなってきた。あと、さっきまで少し不安そうだった周囲の女の人たちも何だかほっとした表情をしているような気がする。

 

「おーい、ジェナス! 約束通りいいやつが獲れたぞー!」


 集団の先頭にいる人物がこちらに向かって叫びながら手を振っている。母さんを呼んでいることと、声からしてあれは多分父さんだろう。


 父さんの後ろにもどうやら何人か人がいるらしい。パッと見た感じで十人ちょっとぐらいのようだけど。あれで全員なのだろうか? 思っていたよりも少ないような、そんなこともないような。


「もう、恥ずかしいから、わざわざ呼ばなくたっていいのに。二人とも、私たちもあっちに向かい始めましょうか」


 俺たちも父さんたちが向かってきている方向へと歩を進め始める。そこから父さんと合流するまでにそれほど時間はかからなかった。


「おかえりなさい、あなた。お疲れ様」


 やはり先頭にいたのは父さんだった。俺らだけではなく他の人たちも元々一人だけの人を除いては俺たちもそれぞれ複数人で集まっていっている。レオンもフェルを見つけたのか、一目散にどこかへ走って行ってしまった。


 帰ってきた男性たちの服は血でかなり汚れている。さらに、普通ならそうはならないであろう服の箇所が破れていて、肌がむき出しになってしまっているようだ。なんなら、何人かはボロボロになりすぎて、もうほとんど服が原型をとどめていない。


 もちろん父さんも例外じゃない。元々襟であったはずのところが胸のあたりまで大きく破れめいたり元々長かったと思われるズボンも膝下が大きくなくなって半ズボンのようになったりしていて、鍛え上げられた筋肉がいつもより大きく露出している。


 父さんがいい体格をしているのはもちろんそうなんだけど、なんか父さんだけじゃなく他も結構屈強そうな男の人たちがやけに多いな。

 

 どんな方法なのか俺には分からないから正直なんとも言えないけど、血がついているのはまだいいとして、狩りで服がここまでなることなんてあるのだろうか?


「ただいま。お、ナイトも来てたのか。じゃあ、せっかくだし、今日の収穫物でも見ていくか? 俺はどっちにしろこの後の指示をしに行かないといけないから……」

「あぁう!」

「私も見に行きたい」

「お、おう。お前は聞かなくても毎回来てるだろ? いや、別に来るのは全然いいんだけどさ……。まあ、どうやらナイトも見たそうだし、今回は三人で行くとするか」


 そういうわけで父さんに連れられて今日父さんが捕獲してきた獲物を見に行くことになった。


「ほら、そこに見えるだろ? あれだ」


 父さんが指さ差した先には、木の棒に縛られたあちこちから血を流している大きな黒い塊が横たわっていた。よく見ると頭部があって四肢があって尻尾らしきものもあるようだ。この世界に来てからこういうものを見るのは初めてのはずなのに、なぜかこの黒い塊に凄く既視感があるような気がする。


「これって、熊よね?」


 母さんが父さんに聞くと、父さんはその問いかけに対して静かに頷く。


 そうか、熊か。どうりで見覚えがあるわけだ。


 でも、この世界にも熊っているんだ。今回は珍しく前世の知識が役に立ったな。もしかしたら他にも前世で見たこと、聞いたことのあるものが存在したりするのだろうか? 今後も少し気にかけておいてみよう。


「こんなに多きいの大変だったんじゃない? なかなかないサイズよね」

「まぁ確かに大きさは過去一かもな。まぁ、仕留めるのはそこまで大変じゃなかったが」

「流石ね。で、指示はしなくて大丈夫なの?」

「そうだったな。おい、今日取ってきたやつ解体して、保管しておいてくれるか?」


 父さんが熊の近くにいた二人の男性に声をかける。


「保管って、いつものところでいいのか?」

「あぁ、腐らないようにだけ頼むぞ。明日食べられなくなったら何の意味もなくなっちまうからな」

「了解。じゃ、早速解体始めるとするか」

「だな、早めに済ましてしまおうぜ」


 目の前にあった大きな熊は二人の男性たちの手によって手際よく小さな肉塊に分けられ、綺麗に整頓されていく。さらに、解体が終わると男性たちはその肉塊をどこかへ持って行こうとしているようだ。


「さて……ジェナス、ナイト。あとは皆に任せてそろそろ俺らは帰るとするか」

「そうね、帰ったらご飯にしましょうか。あ、でもあなたはご飯の前にちゃんと服を着替えてからよ?」

「分かってる、分かってる。結構動いてちょうど腹が減ってたから早く食べたいな」


 俺も何だかお腹が空いてきてしまった。起きた時にミルクを飲んだっきりだったからかもしれない。でも、朝は結構満腹になるまでミルクを飲んだはずなんだけどな。


 お腹空いた、ミルク飲みたい、眠い、お腹空いた……。


 また今の俺の身体が抱えているのであろう欲求が俺の頭を支配しようとしているようだ。途中に全然関係ない欲求が混ざっていたような気がするけど、何が混ざっていたのかはなぜか思い出せない。まあどうせ大したことじゃないだろうし、思い出せなくても特に支障はなさそうだから別にいいんだけど。

 

 こうして俺たち三人は夕飯を食べるために一緒に自宅へと向かって行くのだった。

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