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「大将、生ください」
「あいよ!月曜日からそんな飲んで大丈夫なの?」
「いいの!月曜日だから飲みたいんだもん」
「失恋中?」
「違いますぅ。いい男がそもそもいないんですぅ。」
月曜日、仕事が終わって、私は行きつけの居酒屋のカウンターで1人飲んでいた。ここは狭いけど、焼鳥が美味しい。あとエイヒレも美味しい。いい出会いがあったらいいなって思うけど、このお店に来るお客さんはおじさんばかり。マッチングアプリもやってみたけど、なんか良い人いないっていうか、ヤリモクばっかり。良い人いないかなあが口癖になっちゃってるって、こないだあやちゃんに注意されたんだった。でも仕方ないじゃん。良い人いないんだもん。
「ゆいちゃん、そこのお兄さんは?兄ちゃん、こっち来て一緒に飲まない?」
大将は私と反対側のカウンターで1人で飲んでる男性に声をかけた。男性はこちらをちらっと見て、こちらの席に移動してきた。なんか一瞬だったけど、じっくり顔を見られた気がした。
「はじめまして!しんちゃんって呼んでね」
「はじめまして、ゆいって言います。いきなり大将が呼んじゃってごめんなさい。」
「いいのいいの、一期一会を大事にしたいからね、こういうの大好き」
しんちゃんという男性は不思議な人だった。私のことを全く性的に見ていない気がしたし、私もしんちゃんのことを好きになることはなさそうってなんとなく思っていた。でも話していて楽しかった。しんちゃんも月曜日から飲みに来るくらいだし、仕事のストレスが溜まっていたのか、お互いに仕事の愚痴の話をして盛り上がった。お酒も進んで盛り上がりもピークになってきた頃、大将がぶっこんできた。ほんとばか。
「どう?しんちゃん。ゆいちゃんの事気に入った?君たち相性良さそうだし付き合っちゃえば?」
ほんとに気まずい。どうしよう。
「いや、ゆいちゃん全く俺のことそういう目で見てないよ大将。ゆいちゃん彼氏欲しいの?俺紹介したい人いるかも」
「え、えっと、ほしいです。」
恥ずかしい、吃っちゃった。しんちゃんの目ってなんていうか、目を合わせると吸い込まれるというか、大きな何かと話している気分になる。しんちゃんの目を見ながら嘘はつけなさそう、みたいな。
「マジ?俺の親友でゆうって言うんだけど、そいつマジでいいヤツだし、ゆいちゃんと相性いいと思うんだよね。少なくともゆいちゃんはゆうの好みのド真ん中って感じする。」
「いいじゃんいいじゃん楽しそう、ここでそのゆうって人とゆいちゃんくっつけちゃおうぜ!おっちゃん協力するよ!」
しんちゃんが目を輝かせながら、親友のことを紹介してきて、店長も楽しそうに同調した。そんなうまくいくかなあ。わかんないけど、しんちゃんの親友って信用できる気がするし、話を聞いてみることにした。
「ゆうはねえ、あざとくてわがままな子がタイプだね。可愛い顔してて、自分のこと可愛いって分かってて、わがまましちゃう子。振り回されて尽くしたいタイプ。本人も行きたいところとか結構あって、旅行が好きで、連れ回すのも好きって感じ。自分の行きたいところに連れて行って満足させたいし、好きな子の要望を叶えて満足もさせたいみたいな。」
「うわ、ゆいちゃんとめっちゃ相性良さそうじゃん。自分のこと可愛いって分かっててわがまましちゃうあざとい女ってそのまんまゆいちゃんじゃん」
大将が爆笑した。ほんとに失礼。
「大将うるさい。私そんな事ないもん。でもそのゆうさんって魅力的かも。ちなみに見た目は?」
「うわ、ゆいちゃんがめついな、見た目も聞いちゃうんだ?」
大将がまたニヤニヤしながら茶化してくる。でも確かに失礼な質問だったかも。
「いいよいいよ、ゆうのことなら何でも聞いて。背が高くて、細身のちょっと筋肉ついてる感じ。体型はほとんど俺と一緒だね。顔は塩顔系って言うのかな。割とイケメンって言われてることもあるよ。学生時代からめっちゃモテる。」
高身長が好きで、塩顔が好きな私はその話を聞いて期待がすごく膨らんだ。会ってみたい。
「会ってみたいかも。」
「いいじゃん、楽しくなってきたじゃん!どうする?作戦会議しようぜ!」
大将は変わらずノリノリだ。しんちゃんもノリノリに見える。私も期待しちゃってるし、どんなふうに出会いを作るかを決める作戦会議が始まった。
「そこのテーブル席の角にしんちゃんとゆうさんに座ってもらって、その隣にゆいちゃん座ったら自然と話せるんじゃない?」
「でも大将、このお店そんなに埋まってるの見たことないけど。空いてるのに隣に座ったら不自然じゃない?」
「失礼な!おっちゃんも頑張ってるのに!でも確かにゆいちゃんの言うとおりだな。よし、作戦決行日はおっちゃんが知り合いをかき集めて店をいっぱいにしよう。いつにする?」
「明日!」
「明日は急すぎるでしょゆいちゃん!しんちゃんとゆうさんの予定も厳しいんじゃない?」
「ゆうは俺が言えば来るから、明日誘うのでも行けると思うよ。でもなんで明日がいいの?」
「楽しいことは早くしたいじゃん!善は急げなの!」
「へえ。そういうところもゆうと合いそう。じゃあ大将、明日お店埋めれる?大将の腕の見せ所だと思うけど?」
「しゃーねえ、なんとかしてみるわ!じゃあしんちゃんは明日18時くらいに店来て、ゆいちゃんは19時くらいに来てくれ!19時までに店埋まるように知り合い呼ぶわ!」
しんちゃんはニヤリと笑って、大将は爆笑した。私もこらえきれず笑っちゃった。久しぶりにこんなに高揚してる気がする。楽しいし、明日が楽しみだ。
「ここまでお膳立てするんだ、幸せになれよ、ゆいちゃん」
「でも全然気に入ってもらえなかったらどうしよう。その時は大将慰めてね。」
「いや、ゆうはゆいちゃんに惚れるね。顔もドタイプだし性格も合いそう。俺が言うんだから間違いないよ。」
しんちゃんは自信満々だった。
「顔ドタイプって、ゆうさんはどんな顔が好みなの?」
「童顔。ゆうはロリコンだからね。」
しんちゃんは笑っていった。私はよく人から童顔って言われて、いつもはあんまり嬉しくないんだけど、しんちゃんから言われる分には嫌な感じはなかった。褒め言葉として言ってくれてるのが分かるからかな。
「だから問題はゆいちゃんがゆうを気に入ってくれるかどうかだと思う。」
たしかに私もゆうさんのことを気に入れるか分かんないところはあるよね。
作戦会議が終わり、みんなで最後に明日の成功を祈って乾杯をして、その後は私がゆうさんのことを気に入った時に役に立つように攻略方法を教えてもらった。私はワクワクしながら家に帰った。明日が楽しみ。
「おう、ゆいちゃんいらっしゃい!そこの兄ちゃん2人の隣の席空いてるから座って!」
大将に言われて、席の方を見た。しんちゃんが椅子側に座っていて、ゆうさんはソファに座っている。顔、好き。何もバレないように、普通にしなきゃ。軽く会釈をして、ゆうさんの隣に座った。どうしよう、何話そう。私から話しかけたらいいのかな。困って下を向いていたら、しんちゃんが話しかけてきてくれた。
「お姉さんここ良く来るの?」
ここまで読んでいただきありがとうございます。
基本的には毎日連載していく予定です。
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