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◆8

『会いたい』


 付き合ってから順調に1ヶ月と少しが経過した水曜日の夜23時に、ゆいからラインが来た。これまでこういうことはないし、どちらかというとゆいは俺に言えずに我慢しちゃうタイプだと思うから、今回は結構深刻なんじゃないか。


『今から家行くね、待ってて』


 俺はラインを返して、すぐに着替えだけして家を出た。俺の家からゆいの家までは電車で15分くらい。タクシーの場合の時間も調べたが、電車で行くのとあまりかかる時間は変わらなそうだから電車で行くことにした。電車に乗る頃にゆいとのラインを開くと、既読はついていたが返信は来てなかった。大丈夫かな。この電車の15分が人生で一番長い15分に感じた。


『今ゆいちゃんちの最寄り駅ついたよ。』


 ラインを送って、ゆいの家まで早歩きで向かった。チャイムを鳴らすと、すぐにゆいがでた。ゆいは目の周りが腫れていて、泣いていたとすぐにわかった。


「なんでくるの」

「ゆいちゃんが会いたいって言ったからだよ」

「こんなじかんにくることない」


ゆいの頭を撫でようとしたが、手を払われた。


「あしたもしごとでしょ。かえって。」


 腰をかがめてゆいと目線の高さを合わせると、ゆいの目が涙で滲みはじめたのがわかった。ゆいは涙を見られたくなかったのか、俺に背を向けた。後ろからゆいを抱きしめた。ゆいは振りほどこうとしたが、離さなかった。


「俺さあ、あんまり人の気持ちを察することが出来なくて。しんはそういうところがすごく上手くて、弱ってる人を助けたり、傷ついた人を励ましたり出来るんだけど、俺には出来なくて。だから、ゆいちゃんから会いたいってライン来たとき嬉しかった。自分で察することが出来ないから、何かあったら言ってくれたほうが嬉しいし、頼ってくれたほうがうれしい。隣にいられるだけで少しでも楽になるなら隣にいたいし、話を聞くことでスッキリするなら話を聞きたい。俺が、俺だけが、ゆいちゃんの彼氏なんだから。」


 俺はそのまま無言でゆいを抱きしめていた。ゆいは静かに泣いていた。少しして、ゆいは泣きながら話しだした。職場に友達がいなく、いじめられていること。毎日居場所がなくて辛いこと。やめたいけど、逃げたと思われるのが嫌でやめられないこと。すべてを吐き出したあと、ゆいは声を出して泣いた。誰も逃げたなんて思わない。そんな職場辞めて転職したらいい。転職活動は精一杯サポートする。そんなつまらないことしか俺は言えなかったけど、俺に出来ることは全てしたい、そう思った。ゆいは、泣きながら頷いて、転職をすることに決めて、次の日に会社に退職願を出した。



 それから2週間、ゆいは俺の家にいて、転職活動をした。ゆいはあまり俺に手伝わせようとはせず、自分で頑張って無事転職先が決まった。その就職祝いということで、家で日本酒と鍋をしんも呼んですることになった。


「しんちゃん何時に来るの?」

「あと30分くらいかな」

「あ、じゃあ急いで準備しなきゃだね」


 俺はゆいと鍋の用意をしていた。白菜を切って入れて、しいたけに十字の切込みを入れて、しらたきは協力して結んだ。2人で鍋の準備をするのはとても楽しかった。鍋の準備ができて、火にかけはじめたころ、しんがきた。


「しんちゃん久しぶり!」

「おひさ~!ふたりともラブラブしてる?」


 しんは入ってくるなりおどけた。俺は無視して、ゆいはやめてよ~と言っていた。鍋に火が通るまで、俺としんで会社の上司の悪口を言ったり、同僚の面白かった話をしていた。俺としんが話しているのを見るゆいの目は暖かくて、楽しそうに聞いてくれる。そういうところが本当に好きだ。鍋に火が通って、鍋の蓋を開けた。俺とゆいで準備した鍋はかなり見栄えもよく出来上がった。


「すげえ、これなに、2人で作ったの?店で出てくるやつよりきれいじゃん!愛の結晶ってやつ?」


 俺は無視した。ゆいはちょっと嬉しそうにしていた。


「乾杯するよ、おちょこをもってください」


 3人分のおちょこに日本酒を注いで俺は言った。


「それじゃあ、ゆいちゃん就職おめでとう!」

「おめでと~!」

「ありがとう。」


 それなりにお酒も入ってきた頃、しんがチャンスと言わんばかりに近況を聞いてきた。


「それで、2人はいい感じなの?」

「まあ普通にね。」

「おかげさまで。」


 俺もゆいも人前ではあまりイチャイチャするタイプでもないし、それはしんの前でも変わらなかった。俺がしんと2人のときはそれなりにのろけたりするが、となりにゆいがいたらそれもしない。しんは不満そうだ。


「惚気をもっと聞きたいのに。ゆいちゃん、なんかないの?」

「しんちゃんと居るときのゆうくんが好き。これからも仲良くしてね。」


 え、かっこいい。何この子。


「え、かっこいい、何この子。やばくね?ゆう?」


 俺が思ったのと全く同じ感想をしんも言った。ちょっと恥ずかしいし照れくさいけど嬉しくて、俺は笑った。


「私も親友がいて、あやって言うんだけど、今度この場に連れてきてもいいかな?よかったら4人で飲みたい。」


あやって子の存在はゆいから何回か聞いたことはあったが、俺も会ったことはなかった。


「いいね、今度4人で飲もう」

「楽しみにしとく!来月にでもまた日本酒鍋会開催しよう!」


 俺も乗り気だったが、しんはもっと楽しみにしてくれていた。本当にいい親友をもったし、いい彼女が出来た。日本酒と鍋が空になるまで飲んで、解散になった。解散と言ってもしんは帰って、ゆいはうちにいるままだけど。それから1週間後、ゆいは新しい就職先での仕事が始まるタイミングで、うちで暮らすのはやめてゆいの家に戻った。




『ちょっと会える?』


 珍しいラインが来た。まあいいかと思って会いに行くことにした。仕事終わり、電車に30分ほど乗って駅で待ち合わせた。


「意外と久しぶり?」

「そうね、意外と久しぶりかも。元気してた?」


 あまり認めたくはないが、相変わらず美人だった。普段ラインが来ることもないから、なにか要件があって呼び立てたんだろう。


「私の家来れるかしら?」

「別にいいけど。」


 家に行くと、紅茶を出された。別に俺は紅茶を好きじゃないし、こういう時になぜか紅茶を出すところとか、好きじゃない。紅茶は高級なものなのか、俺には味は分からないけどなにか変な味がする気がした。


「付き合ってほしいの。」


ここまで読んでいただきありがとうございます。

基本的には毎日連載していく予定です。

感想など頂けますと嬉しいです。

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