◆2
「おう、ゆいちゃんいらっしゃい!そこの兄ちゃん2人の隣の席空いてるから座って!」
小一時間ほどしんと他愛もない会話をしていた頃、小柄な女性が大将に案内されて軽く会釈をして俺の隣に座った。カウンター席は埋まってしまっているから仕方がないが、ソファ席であり狭いため、旗から見たら同じグループに見えるくらいの距離感だ。隣に知らない女性に座られてしまって、しんと何を話せばいいかわからないな、下ネタとか話せないし。俺が困っていたらしんが口を開いた。
「お姉さんここ良く来るの?」
「あ、はい、よく来ます。仕事終わりとか」
「そーなんだ!こいつはゆう!俺のことはしんちゃんって呼んで!よろしくね!」
「ゆいと言います。よろしくお願いします」
20代前半だろうか。小柄な女性はゆいと名乗った。しんがグイグイ話しかけたが、ゆいはあまり引く感じもなく返事をしていた。このお店では隣の席の人から話しかけられるのはよくあることなのだろうか。ゆいは可愛らしいし、来る度にナンパされていそうだ。ていうか正直好みだ。ここが人生の分岐点かもしれない。
「はいよ、生とエイヒレね」
ゆいは店に入ってきて何も注文していなかったが、常連だから把握しているのか、大将が生ビールとエイヒレを持ってきた。
「まって、乾杯しよ!ゆう、そのビール早くあけて!大将!生2つ!急ぎで!」
すでにほろ酔いのしんがゆいと乾杯すべく、俺と大将にまくし立ててグイグイとビールを飲んだ。俺も残っていたビールを飲み干し、大将に言った。
「大将ビール早く!ゆいさんのビール冷めちゃうでしょ!」
「いやいや、ビールはもともと冷えてるでしょ。」
俺としんのくだらないやり取りを聞いて、ゆいはくすくす笑ってくれた。可愛くて小柄でよく笑う女の子。好みド真ん中だった。
「はいよ、生ビールお待ち!」
「今日の出会いに乾杯!」
「「かんぱーい!」」
ビールが来てすぐに、しんが乾杯をして俺とゆいもグラスを重ねた。グラスに口をつけながら、しんがこちらを見てニヤリと笑った。俺の好みだとわかっていて、協力してやるよと言われた気がした。
「お二人はどんな関係なんですか?」
意外だが、ゆいから話しかけてきてくれた。しんはお前が説明しろという目でこちらを見てきた。
「小学校の頃からの幼なじみで腐れ縁だよ。今職場も同じなの」
「え~!いいな、羨ましい。ずっと学校とか一緒なんですか?」
「いや、しんが中学に入る頃引っ越したから、小学校だけ一緒であとは別々。会社だけ同じところ入ろうぜって言って同じ会社受けたの。そしたら運良く受かって、部署も一緒になったって感じ。」
「すごい、親友って感じですね。素敵。」
「ゆうが、名前もしんとゆうで親友だよなって小学生の頃から肩組んで言ってたよな」
「うわ、やめろ恥ずかしいな。しんなんか引っ越す時に大泣きして大変だったじゃねえか」
「そんなこと言ったらゆうは俺が引っ越してから初めて会いに行った時に目潤ませながらまたあえてよかった。これからも親友だよなって言ってたじゃん。あの頃のゆうは可愛かったのになあ」
お互いに恥ずかしい話の暴露を続けてしまったが、ゆいは笑いながら相槌を打って聞いてくれた。ゆいへの想いはどんどん積もっていく気がした。しんにもそれを見抜かれているんだろうな。
「大将、生1つ」
「大将、1つじゃなくて3つ頂戴!」
ゆいがビールを頼んだのを見て、しんがこちらに目配せしながら大将に注文を重ねた。その後も同じペースでビールを飲みつつ、俺としんの過去の話を中心に盛り上がった。ゆいは興味ありげに深掘りしてくれた。興味があったわけではなく、空気を読んでくれていただけかもしれないけど。ゆいの飲むペースは早く、俺も合わせて飲んでいたらかなり酔っ払ってしまった。ちなみにしんはザルだ。どれだけ飲んでも酔いつぶれているのを見たことがない。俺は酒があまり強くなく、4杯目を空けてそれなりに酔ってきた。ゆいも早く飲んでいたからか、お酒に強くないのか、酔っているように見えた。これ以上飲むのは厳しいし、ゆいを心配するのを言い訳にこれ以上飲むのを抑えよう。
「ゆいさんかなり酔ってない?大丈夫?」
「ぜんぜん大丈夫ですよ~!久しぶりに好みの人と話せてテンション上がってます~!ゆうくんのこともっと知りたい!どんな女の子が好きなんですか~?」
うわ、いきなり俺に話振ってきた。この子可愛いだけじゃなくてあざとい。ニヤニヤしそうになる顔面に力を入れながら、女性に好みのタイプを聞かれた時に用意している回答で答える。
「うーん、笑顔が素敵だったり、美味しそうにご飯を食べたりする人かなあ。あとはありがとうって言ってくれる人が好き。」
「すごい、なんかゆうくんってすっごい良い人そうですね!今日知り合えて嬉しいです」
ゆいは素敵な笑顔でそう言った。その後ゆいと俺で話は盛り上がって、お互いの過去の恋人の話や、好みの異性の話、仕事の話や愚痴を話し続けた。話題が尽きることもなく、楽しく話せたところも相性がすごくいい、付き合いたいと思った。しんはやはり協力してくれているみたいで、上手に空気を読みながら相槌をしたり、俺にエピソードトークをさせてくれたりして、話が弾んだ。5杯目を飲み終わったあたりでしんが言った。
「じゃあ明日も仕事だしこの辺でお開きにしますか!」
「はーい!おとなしく帰りまーす!」
ゆいが手を挙げていった。かなり酔っているようで可愛い。
「ゆいちゃんだいぶ酔ってんね。駅までゆう送ってあげてよ。俺は終電厳しいしさ」
しんがそう言った。実は俺としんは同じマンションの5階と3階に住んでいて、終電なんか全く厳しくない。これもアシストしてくれたんだろう。本当に出来るやつだ。
「いいよ、駅まで送ってこっか」
「やった~、優しい。ありがとうございます。」
ゆいの荷物を持って駅まで送った。ゆいはお店ではすごく酔っているように見えたが、足取りは安定していて、駅についた。
「ゆいさん、連絡先交換できないかな?」
「やった!聞いてもらえるの待ってました。はい!」
ゆいはすぐにラインのQRコードを見せてくれた。俺はゆいを友達登録して、手を振って解散した。帰路につきながら、『今日はありがとう。楽しかった!帰り道気をつけてね』と初ラインを送った。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
基本的には毎日連載していく予定です。
感想など頂けますと嬉しいです。