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◆10

 ドアをあけると、いつもどおりのゆいが来た。ゆいと相談して、ピザを食べて、ビールを飲んだ。そこまでは正常でいられた。普通に、いつも通り、すごく楽しかった。ゆいが隣にいるだけで何をするのも楽しい。俺の日常を色付けてくれていた。失うと分かって、改めて大切さを思い知った。

 

 ベッドに入るとゆいは抱きついてきた。俺も抱きしめ返した。涙を堪えるので精一杯だった。何も出来ないし、何も話せない。少しでもなにかしたら涙が溢れてきそうだった。ゆいは俺の腕の中で、こちらを見つめてきていた。俺はそれを薄目で見たが、そのまま見ているのすら辛かった。目を閉じて、ねたふりをした。10分くらいねたふりをしていたら、ゆいが寝た。抱きしめる手を少し強くした。ゆいはぐっすり寝ているみたいで起きないから、俺は更に強く抱きしめた。抱きしめながら涙が溢れた。強く強くゆいを抱きしめて、ゆいの感触を確かめて、ゆいの匂いを嗅いだ。そうして、俺は決意した。ゆいには病気のことは話さない。最低な振り方をして、俺のことを嫌いになってもらう。それで次の恋に向かってもらう。明日はいつもどおり過ごして、その後で振ろう。

 

「ゆうくん、おはよ」


 ゆいが起きて俺に言った。俺は全く寝られなかった。あいさつを返すと、ゆいは寂しそうな顔をした。寝起きはいつも抱きしめていたが、今日はしなかった。抱きしめたら泣いてしまうと思ったから。昨日別れることを決意したが、ゆいをみていて、俺も涙をこらえきれなかった。目から大量の涙が溢れた。どうしたらいいかわからなかった。ゆいにばれそれが辛くて頭がいっぱいだった。しんにも協力してもらわなきゃ。しんは絶対そんなのだめだって言う。説得して、協力してもらって、しんにも一緒に悪者になってもらって、ゆいには幸せになって欲しい。ゆいは寂しそうに反対を向いて、静かに泣き出した。俺の態度がいつもと違うのがばれたのかもしれない。初めて、泣いているゆいを放置した。後ろから抱きしめたいという気持ちを無理やり押さえつけて、涙をこらえた。ゆいはバレないように声を抑えて泣いているみたいだけど、背中が震えているからすぐに分かる。いや、そんなの無くたって分かる。ゆいが泣きそうになっただけでも分かる。付き合いは短いけど、それくらい好きだったから。ゆいは、今まで聞いたこともないような悲しそうな声で言った。


「かえるね。」


 ゆいはそのまま俺の方を見ること無く帰った。これで、良かったんだ。そう思った。俺は病院に戻り、しんにラインした『来れる時来てほしい』



 昼前にしんはきた。折角の休みの土曜のこんな早くに来てもらっちゃって申し訳ない。でも、しんには話して協力してもらわなきゃいけない。俺の決意を。


「頼みがある」

「いいよ、何でも言って。」

「ゆいちゃんには病気のことは話さない。他に好きな人が出来たから別れてほしいって言う。もう二度と連絡は取らない。しんも協力してくれ」


 しんはそれを聞いて、黙った。俺が考えた結果出した答えだって言うのは分かってくれていると思う。でも、やはり予想通り、しんはそれを許さなかった。


「だめだ。俺がもし、ゆうから事実を聞かされずに一方的に遠ざけられたらと思うとつらすぎてそんなの協力できない。」

「しんの場合とゆいちゃんの場合は違うでしょ。ゆいちゃんに病気のことを伝えて、これから衰弱していく俺の隣にいてもらって、看取ってもらったとしたら、その後ゆいちゃんは次の恋愛をできなくなっちゃうかもしれない。それが絶対に嫌だ。ゆいちゃんには幸せになって欲しい。だから、俺のことを忘れてもらうために、何も言わずに別れるんだ。」

「一方的にいきなり振られるのは、ゆいちゃんにとってトラウマになるかもしれないじゃん。」

「そうかもしれない。それでも、俺のことを引きずって生きていくよりはずっといい。ゆいちゃんは強いよ、大丈夫。はじめは凹むかもしれないけど、俺のことを嫌いになって、俺を糧にして幸せになれるはず。」


 しんは下を向いて泣いていた。しんが涙を流している姿を見るのは小学生以来だった。いつも飄々としてて、弱っている姿なんて見たことなかった。泣きながら、どうするべきか考えているみたいだった。


「頼むよ、慎太郎」

「わかった。」


 しんは顔を上げて、涙を流しながら笑った。その後、ゆいには二度と連絡を取らないようにして欲しい事、もし会った場合は冷たくしてほしいことを伝えた。しんは納得してくれたのか、わかったと言ってくれていた。また、家の整理もしんにお願いした。うちにあるものでしんが使えるものがあれば持って帰ってほしいし、今後れいかけいが使えるものがあればそれを渡す手伝いとかしてほしい。家族にどう伝えるかとか、詳しい今後のことは今度しんとれいに来てもらって相談することにして、今日はしんには帰ってもらった。




 何日経ったのかわからない。病室という無機質な空間は時間の流れが早い気もしたし、遅い気もした。でも寝ていることが多かったと思う。なんとなく、目を覚ます度に死に近づいていく気がした。今日はしんとれいに来て貰う約束をしていて、2人で来てくれた。しんが花束を持っていた。似合わなすぎて笑ってしまった。


「しん、その俺に渡す花束が人生で唯一買う花束になるんじゃないの」

「うるせえ」


 しんは笑って言った。病室の花瓶に、買ってきた花を飾ってくれた。それから、今度れいに家族みんなここに連れてきてもらって、俺から伝えること。しんに俺の部屋の整理をお願いしてるから、家族のみんなにも手伝ってもらって、誰かが使えるものはそのまま使ってもらうことなどを決めた。れいはずっと泣いていた。普段泣かないれいがこんなに泣いているのは珍しい。しんは泣かなかった。俺もあまり長い時間起きていられなくなったのか、眠たいのかなんだかわからない感覚で、目を閉じてしまった。

ここまで読んでいただきありがとうございます。

基本的には毎日連載していく予定です。

感想など頂けますと嬉しいです。

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