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◆1

 明日は明日の風が吹く。なんて初めに言った人は、きっと昨日も今日も満足した一日を過ごしたのだろう。俺は別に今日苦労したわけでも、明日が不安なわけでもないが、明日を迎えたいと思えない。今日寝たらそのまま命だけを死神が奪ってくれたらいいのに。そんなくだらないことを考えながら、今日も目を瞑った。


「将来は同じ会社に入って金持ちになってたくさん旅行に行こう!」

「俺働ける自信ないからゆうの会社に入って楽したい」

「いいよ、じゃあ俺会社作ってしんの事雇ってやるよ!」


 そんな無邪気な会話をしてから15年。俺は27歳になった。俺は平均より少し裕福な家に生まれて、少し優秀に義務教育を終えて進学校に進み、ちょっとだけ優秀な大学を出て、普通の会社に入った。小学校で仲良くなったしんとは引っ越しをきっかけに中学校から別々になったが、その後も交流は続いた。俺にとって親友といえばしんであり、今では気兼ねなく話せる唯一の友人だ。そんなしんとは、同じ会社に同期入社して、今も同じオフィスで働いている。


「今日飲みに行こ」

「別にいいけど今日火曜じゃん。なんで?」

「なんか飲みたい気分になった」

「じゃあ行くか。しんは定時で仕事終われそう?」

「俺はいけるよ。それよりゆうさっき仕事振られてなかった?」

「本気だす。任せろ。」

「じゃ、17時半に正面口で」


 しんから飲みに誘われた俺はくだらない過去のことを考えるのをやめて仕事に集中することにした。



「うわ、よく見つけたなこんな居酒屋」

「こないだ見つけたんよ。いいでしょ?」


 無事定時に仕事を終わらせた俺はしんと合流して、最近しんが見つけたという居酒屋に入った。会社から歩いて15分ほどにあるその居酒屋は、店内は狭く、カウンターが5席とテーブル席が少し。隣のテーブル席と近いが天井だけがやけに高い。乱雑な雰囲気だが不快感はなく、割りと好きな空間だった。


「大将、前話した親友連れてきたよ」

「おう!しんちゃん待ってたぜ。そこの角の席座って!」


 子供が3人くらいいそうなおっちゃん店員にしんが話しかけて、言われた通りの席についた。



「なに?お前もう常連なの?」

「いや、まだ2回目だよ。前回大将と話したらめっちゃ仲良くなってさあ」

「羨ましいわ、しんのそのフレンドリーなところ」

「何言ってんの。ゆうはフレンドリーさが欠けてるんじゃなくて人の好き嫌いが激しすぎるだけでしょ。この大将はゆう気に入ると思うよ。」


 しんに言われた通り俺は人の好き嫌いが激しい。好き嫌いが激しいというか、嫌いな人が多い。気に入る人はめったにいない。男でも女でも。だから友達がしんしかいないんだろうな。



「大将~!生2つ!」

 そう言ったしんは俺にメニューを渡してくる。いつも、何を頼むのか決めるのは俺になる。メニューを見るとどうやら焼鳥屋らしい。ざっとメニューを見ながら大将に注文をしていく。


「だし巻きとポテトください。あとは串を全部塩で、二本ずつください。ぼんじり、せせり、もも、つくね。あ、つくねだけはタレで。ここからは一本ずつで、はつと、法律が許す限りで生のレバー。」

「あいよ!兄ちゃんいいね、レバー期待してて!」


 大将が笑顔で返してくれた。いい店見つけたなこいつ。


「気に入った?」


 しんがニヤニヤしながらこっちを見てきた。こいつはいつも心を読んでくる。


「気に入ったよ。あとは味だね」

「俺が紹介した店で美味しくない店今まであった?」

「ないな。そこだけは信用してる」

「だろ~?じゃあもう気に入ったってことだ。もうちょっとしたら店賑わってくるよ。まだ18時前だから空いてるけど、19時頃にはいっぱいになると思う。」

「そしたらこの距離の隣の席にも他の客来るのか。話しづらいな」

「そういう雰囲気も楽しんだらいいっしょ!」


 角の席に案内してもらえたのでまだマシだが、隣の席とはテーブルが同じでメニューで仕切られているだけだった。店が埋まってきて鬱陶しくなったら店移動しようかな。


「れいちゃん結婚だって?」

「は?誰から聞いたの?」

「けいからラインきたよ」

「マジか、俺昨日れいから教えてもらったんだけど。なんでもうしんまで知ってんだよ。」

「俺も昨日知った。」

「早すぎるでしょ。しかもなんでれいから直接じゃなくて、俺からでもなくてけいから聞いてんの。」


 れいは俺の2つ下の妹で、けいは俺の5つ下の弟だ。れいは4年ほど交際していた彼氏と入籍することにしたらしく、その報告を昨日家族のグループラインで聞いていたが、けいはその後すぐにその報告をしんにしたみたいだな。いつしんに言おうかワクワクしてたから楽しみを取られた気分だ。今度けいと会った時にシメよう。


「そんで?どんな気持ちなの?妹に先を越される気分は」

「別になにもないですけど?」

「まーたゆう君は強がっちゃって。早く彼女出来たらいいねえ」

「うるせぇ、お前も彼女いないだろうが」

「俺は独りが好きだから独りでいるんだよ。欲しがってるのに出来ないゆうとは違うね」

「俺もこのまま独身で独りを楽しむ大人になりそう。それでいい。」

「ゆうは女の子がいなきゃだめでしょ。自分のためじゃなくて人のためじゃなきゃ頑張れないじゃん。それなのにこじらせてて全然彼女作らないんだもんな~。」

「うるせ。良い人が現れないんだから仕方ないだろ。大体お前もせっかくモテるのにもったいない。」

 

 最後に彼女がいたのは2年くらい前だった。高校の頃の同級生とたまたま再開して、猛アタックして付き合うことになったが、半年くらいで別れてしまった。別に引きずっているわけではないが、そこから新しく好きな人は出来ていない。しんには引きずっていると思われていそうで癪だ。

ここまで読んでいただきありがとうございます。

基本的には毎日連載していく予定です。

感想など頂けますと嬉しいです。

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