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とある一般人の人生ドラマ~存在自体が冗談ですって?~

作者: 柱島

https://twitter.com/hashira_jima/status/1455607962622328832?s=20


を書いて思い出した読み物です。

 これは俺が上京してきて1年ほどの頃の話だ。


 仕事の都合で田舎から東京の職場に配属になったのだ。

 上京したての頃は、何もかもが珍しくて、休日になると新宿や秋葉原、渋谷などに繰り出しては町並みを楽しんだり、大好きな家電ショップを梯子したりしていた。


 ある時、新宿のヨド〇シに行った帰りのことだ。

「よっ、久しぶり!」

人の波をかき分けて進む俺に突然声をかけてくる男がいた。


 誰だろう?


 正直、誰なのか分からなかった。

 東京に知り合いはいるけれど、目の前で気さくに笑っているような小太りの男は知らない。



 いや待てよ、俺が知らないだけで相手は知っているというパターンかもしれない。

 過去にクラスメイトから声を掛けられて「どちら様ですか?」と言ってひんしゅくを買ったことがある。

 だから迂闊な答えは出来ない。



 俺は目の前の男の面影と過去であった人の顔を当てはめていく。

 さながらアメリカ映画に出てくる人相照合シーンみたいなのが脳内で展開されていた。



 たぶん、最近の知り合いではない。

 小太りの男はややエラが張ったような感じで目元がくぼんでいる。

 ダサイ赤いフレームの眼鏡、だらしない感じのワイシャツ、身長160cmくらい。

「ああ、おう・・・・・・」

とりあえず相槌を打つ。


 時間稼ぎだ。


「お前、学生の時と変わってないなー!」

小太りの男が俺の肩をポンポンと叩く。


 学生の時と変わってない―――となると今の身長に近いのは中学生の時か。

 それも3年あたりだろうか。


 最近の若い学生さんが聞いたら驚くかもしれないが、当時、1学年の生徒数は1クラス40人ほどで8クラスくらいあったのだ。

 当然、知らない奴とか薄い知り合いもいたのである。


 だいぶ絞り込めたな。

「ちょっと太ったけどなー」

俺は小太りの男に相槌を打つ。

「違ぇねぇ。いやー、こんなとこで会うなんて奇遇だなぁ」


 今回はヒント無しか。

 だが、なんとなく誰か分かった気がした。

 そう、隣のクラスのオグチだ。


 実家がなんか商売をやっていて、友達というほどではないが帰宅するバスが一緒で、時々言葉を交わす程度のやつだった。



「オグチ? おまえオグチだっけ?」

直ぐ名前が出てこなかったことは悪いと思う。

「そう! オグチだよ! いやー、マジ忘れられてんのかともってビビッたわマジで!」

どうやら隣のクラスのオグチらしかった。


「オグチもこっちで仕事してんの?」

「そうなんだ! すぐそこんとこのバーやっててな。サービスしとくから飲みに来てくれよ」


 昔の知り合いに会うなんてレアだな。

 まあ少しくらいはいいか、と思った俺はオグチと並んで歩きだす。


「へー、バー経営者? やるなおまえ」

「当たり前だ。昔からやり手だっただろ?」

オグチはガッツポーズをしてみせる。


 まあ、やり手だったな。いろんな意味で。


「そういやさ、実家の稼業継いだんじゃなかったの?」

確かオグチは長男だから店を継ぐもんだと思っていた俺は、素朴な疑問をぶつける。

「あー・・・・・・それなー。兄貴が継いだからさー・・・・・・」

オグチはどこかを見ながら語りたくなさそうだった。


 ん? こいつ兄貴いたっけ?


 田舎は、"どこそこの誰々さんちの子、どこどこにいったらしいよ"というウワサが回るのはかなり早かった。

 故にオグチに兄貴がいたという話は初耳だった。


 まぁあまり親しくないしな。

 仕方ないと思って、話題を変えることにした。

 オグチと言えばアレだ。



「そっか。そういやオグチ覚えてるか? いつぞの帰りのバスのこと」

「なんだったっけ? 武勇伝?」

「武勇伝つーか、財布学校に忘れてきたのにバス乗った話」

「あー! アレな! マジウケるよな! 無一文でバス乗った伝説だろ?」



 そう、ある週末の学校帰り、俺とオグチは一緒のバスになったのだ。

 他の生徒たちが途中下車していく中、終点まで行く俺とオグチが最後まで残った。


 土日なにしよっかなーとかボンヤリしていた俺の耳にオグチの声が響く。

「嘘だろ!? マジかよ! サイフねぇじゃん!! 学校に置いてきちまった!!」

ちらりと横目で見るとカバンの中を必死の形相で漁っているオグチの姿だった。


 田舎のバスは、あとで支払いに行けば降ろしてくれる。

 だから、「あららー」ぐらいにしか思わなかったのだ。


「おい柱島! 金貸してくれよ! バス代も払えねぇし、ご飯代もねぇんだよ!!」

振り向いたオグチが一目散に駆け寄ってくる。



 当時の俺はスーパーお人好しだった。

 イヤだなー、とか思っても「いいよ」とかいう自己主張の薄いモヤシだったのだ。

 だから思わず貸してしまった。


 2000円だったが、おこづかいが1500円/月だ。


「マジ助かる! 来週返すから! もし返せなかったら倍にする!! やべぇー、ありがてぇー」

そう言った彼は、翌週2000円を返すことは無かったのだ。


「今1000円しかないから! 来月返す! 2倍の2倍で返すから!!」

そして、そのまま返金されることは無く、その後は見かけたら爆速で逃げる借りパク野郎に成り下がったのがオグチという男だ。


+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+


「で、あん時2000円貸したじゃん? で返してくれなかったじゃん?」

オグチの経営するバーとやらに向かう俺は、十数年来の借りを返せと迫る。

 なんだったら美味しい酒でも良かった。


「・・・・・・」

急にゲラゲラ笑っていたオグチが黙り込む。


「ほら2倍の2倍にするって言ってたヤツ、アレはいいや。だから2000円だけ返してくれよ」

ぶっちゃけ倍々のヤツを計算したらマンションが買えるような金額になっている。

 さすがにブラックすぎるので、元の金額だけでいいと言ってみた。


 沈黙は金額の多さに気付いたからだと思ったのだ。


「あー、悪ぃ悪ぃ! オレの勘違いだったわ! オレの知り合いと勘違いしてたわ!」

何ということでしょう。


 このオグチという男、今もバックれる気まんまんである。


「いやいや、待てよ。2000円くらい今なら返せるだろ!」

突如走り出した小太りの男、オグチを追いかけて、俺も駆け出していた。


「知らねぇ―ってんだろがよぉぉぉー!!」

オグチは大通りに飛び出すと、華麗なる動きで走ってきたタクシーに飛び乗ると爆速でトンズラしてしまったのである。

「オグチィィィィーーーー!!!」



 後々、聞いた話では知り合いを装った知らん兄さんが声をかけてくることがあるらしい。ということだった。

 ということは、小太りの男はオグチではない誰かだったのだろうか?



 とりあえず、2000円返せ。

オグチは偽名です。

H口が正し...おっとっと。

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