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7.だいじょばない

 正直に言おう。いくら私でもこんな小さな体でここまでの声が出せるとは思わなかったんだ!


 子供の力では敵わない。逃げることも難しい。それなら人を呼ばなければ! そんな思いでできる限りの声で叫んだ私だけど、自分の声量に頭をクラクラさせていた。以前の私は普段から声なんて出してなかったし、ティーナになった後も声を張り上げる機会なんてほとんどなかった。だから、本当にびっくりだ! 私の声はこの西区全体に響いたんじゃないか? ってくらいすごくて、人を呼ぶ以前に自分含め周辺の人の動きを鈍くする副作用があった。全員目を回してその場にうずくまっていれば、徐々に周囲から声が聞こえてきた。


「こっちからだ!」


「子供の声だったよな?」


 あんなに人がいないようだったのに、ちゃんと来てくれたことにほっとする。いくら閑散としていると言っても、異常なほどの人気のなさだったからな。建物の中にいたとしても我関せずな人が多いかもしれないって危惧してたけど安心した。足音が近づいてきて私達を襲っていた男が目に見えて動揺する。けれどここは突き当たり。子供を追いつめていたようだけど、同時に男も追いつめられている状態だ。逃げ場はない。最後の手段とばかりに男は懐からナイフを取り出した。


(私を人質にする気?)


 ゾッと背筋が凍る。この半年、山で育ってきた私はそこそこに体力がついた。けれど、まだ幼児で、今の生活に慣れるのに必死だった。素早くは動ける自信はそれなりにあるけど、ナイフと対峙して恐怖したこの状態で上手くかわせる自信はない。どうしようと焦っていれば、男は唐突に崩れ落ちた。


「させるかよ!」


「テオ!」


 いち早く立ち直ったテオが男の膝裏を蹴りつけて体勢を崩させていた。すごい、すごいけど危ないことしないでもほしい。ドキドキと緊張で鼓動が早くなる。男がテオに視線を向けたのを見て、ナイフを向けられた時以上に恐怖で体が震えた。


「テオ! 逃げて!」


 守ってくれようとしている。それはわかるけど、それ以上にテオがどうにかなってしまうのが怖い。自分のせいで、傷つくかもしれない。死んで、しまうかもしれない。

 

 そんなのはイヤだ!


 震える体に叱咤して、倒れている男に向かって走る。狙うのは右手。そこに握られているナイフさえどうにかできれば、簡単に死ぬことはないはず。そう思ってテオに気を取られている隙を狙って、男の手首に思い切りかじり付いた。


「いっ! こ、こいつ!」


「んんんっ!」


「ティナ! くそ、やめろ!」


 殴るのも、蹴るのも、きっとこの体じゃ大した力にならないけど、かじる力だけはそれなりにあるはず。筋肉がつきづらい手首ならと思って必死にすがりつく。目論見は成功したようで、男は堪らずナイフを落とした。けれど、今度は左手で頭を殴られる。


「ここだ! おい! 男を押さえろ!」


「こいつ、人攫いか! こんな場所で堂々と!」


 それでも必死にしがみついていれば、私の声を聞きつけて走ってきてくれた人達が男に向かってタックルをかました。

 えええ、助けてくれるのは嬉しいけど、私も危ないんだけど!

 案の定、一緒に倒れてもみくちゃになる。男に殴られたのもあるけど、地面に頭が当たってガンガン痛みが響く。


「お嬢ちゃん大丈夫か?」


 はっきり言えばだいじょばない。


「ティナ! おい、大丈夫か? うわ、血でてんじゃん!」


「ふぁ」


 え、嘘、頭から?! そう思って痛いところに手を当てて見たけど、血らしきものはない。他の場所にも触れてみても濡れる感触はなくて、どこから血が? って不思議に思ってテオを見返した。すると、顔を真っ青にしたテオが恐る恐るという感じで手を伸ばしてきて、私の口に触れる。


「ほら、歯抜けてる!」


 なるほど。そこか。よくよく見てみれば、男ともみ合っていた場所に小さな白い何かが落ちている。きっとあれが私の歯だ。頭の痛みが酷くて口の痛みには気づかなかった。


「お前、これじゃあ一生口開けて笑えねーじゃん」


「テオ、心配してくれるところズレてない? 嬉しいけど、嬉しくない。それに、多分歯はまた生えてくる。乳歯だから」


 血が出てたから焦ってくれたんだと思うけど、ズレたところを気にされて逆に冷静になってしまった。落ち着いてツッコミ入れれば、テオもそんな私につられてちょっと落ち着いてくれた。


「そっか、なら大丈夫か。他に痛いところあるか?」


「まだ、ちょっと頭が痛いけど。もしかしたらたんこぶできたかな? それこそ、テオは?」


「オレは大丈夫! ちょっと打ったけど、さほど痛くねーよ!」


 パッと顔を明るくして笑うテオは、それでも土にまみれて汚れていた。壁に体を打ち付けてもいたんだ。今は何ともなくても後からになって痛みが出るかもしれない。これは早々に戻った方がいいかも。

 男は捕まえてくれた人達が騎士団に引き渡してくれると言ってくれたので安心する。


「お嬢ちゃん、大丈夫かい?」


 そこで、ようやく最初に襲われていた女の子の存在を思い出した。人攫いの存在に気を取られ過ぎてすっかり頭から抜けてた。

 未だに体を震わせて丸まっている女の子は、多分私と同じくらいの子。ほつれて薄汚れている服を着て、ボサボサになった金っぽい髪で顔を隠した状態でうずくまっている。慌てて私も駆け寄って女の子の傍に行く。


「もう大丈夫。誰も傷つけたりしないよ」


 そっと、その子の頭を撫でてみる。触れた瞬間はビクリと震えて身を固くしていたけど、一定の速度で何度も撫でてみれば、ようやく顔を上げてくれた。

 土で汚れていたけれど、白い肌にアメジストのように透き通った紫の瞳をした可愛い女の子だった。


「ケガしてない?」


「あ、あの、だ、だいじょ、ぶ」


 消え入りそうな小さな声ではあったけれど、鈴のような可愛い声でそう言った。潤んだ瞳は彷徨っていて、なかなかこちらを見てくれない。まだ人攫いの男がすぐ近くにいるから緊張が解けないのだろう。捕まっても尚、男は抵抗していて、引きずるのに苦労しているようだった。けれど、騒ぎを聞きつけてどんどん人が集まっているので、男を拘束している人の数も無駄に増えていた。


「クソ、放せ! 別にいいだろ、子供の一人や二人! どうせアイツは名無しなんだ! どう扱おうが見つけた俺の勝手じゃねーか!」


「――ッ!」


 暴れる男の暴言に、女の子は身を固くする。涙をいっぱいその瞳に溜めて、声を上げるのを我慢するその姿はとても苦しそうだった。

 名無し。親のいない孤児を表す差別用語。孤児に人権はない。そう思っている人達が使う言葉。溜め息をつきたい気持ちを堪えて女の子の背中にそっと手を回した。


「立てる?」


 優しく聞けばコクリと頷いてゆっくりと立ち上がる。そういえば最初に声をかけてくれていた人が何も言わないな。そう思って振り返ってみれば、その人は思ったよりも若い人だった。見た目では十代後半くらいだろうか。赤茶の髪を垂らし、顎まで伸ばしていて、灰色の瞳をした青年だ。彼は私と目を合わせると優しく微笑んで頷いてくれた。


(あ、そうか、男に襲われたから気遣って私に任せてくれてるんだ)


 私なら、必要なことを聞いてくれるって信じてくれてるのかな? そう思って女の子に向き直る。


「どうしてこんな場所に?」


「……ま、迷子に、なって」


「そっか、おうちはどのあたりかわかる?」


 問いかければ女の子はキョロキョロと視線を動かして悩んだかと思えば、そのまま俯いてしまった。


「あ、の、わたし、な、なし、だから」


「え?」


「だから、その、」


 家の場所を聞いているのに、いきなり名無しと言われてもよくわからない。どういうことかと首を傾げてしまう。名無しって? と聞いてみたい気もするが、そんな直球でこの言葉を使いたくない。どうしたものかと悩んでいれば、私の隣にテオが歩いてきた。


「もしかしてさ、この区の孤児院にいるって言いたいんじゃねーの?」


 その言葉に、女の子は僅かに頷いた。なるほど、名無しイコール孤児。となれば、孤児院にいるのが普通だ。いくら王都でも、孤児院が同じ区に何個も建っているわけがないし、孤児がいるところを探してもらえばいいと思ったんだろう。

 それに、もしかしたらこの子、孤児院の外に出たことないから、自分のいる施設の名前すら知らなかったかもしれない。


「あの、ここから近い孤児院ってどこかわかりますか?」


 近くで見守ってくれていた男の人に問いかければ、彼は少し思案顔をする。


「王都には大小合わせて三つあるはずだけど、一つは東区と南区の境目付近。一つは北区の中央付近に小さいのが。そして、この区にはここから北区寄りに一つある。小さいやつ以外は教会と併設されたところだけど」


「あ、そ、そこです! 教会、あります」


 ようやく女の子の顔に明るさが戻る。自分の言葉で孤児院のことを伝えられなかったから困っていたのかもしれない。もしかしたら、あの人攫いの男の人にも同じように行って道を聞いたのかも。そのせいで、孤児だとバレて連れ去られそうになった可能性は十分にある。


「じゃあ、そこに連れてってあげる! あの、道教えてもらってもいいですか?」


「うん、いいよ。でも、大丈夫? もう門が閉まる時間だけど、君たちはどこから来たの?」


 問われてテオと一緒にハッとする。思わず見合わせてしまって同時に顔を青くした。この街は王都ということもあり、夕方の六時になると、区間にある門が閉まってしまう。夜は騎士が見張りに立ち、許可証を持っている者しか行き来できなくなるのだ。もちろん、相手が子供でも容赦はない。事情を説明して、保護者に迎えに来てもらわなければ門を通してもらえないし、その手間料も支払わなければならないというシビアな世界だ。


「ど、どうしよう! こっから引き返してたら間に合わない!」


「やっぱり。この子は僕が送っていくから、君たちはお帰り」


 優しい言葉に甘えて私は頷いた。助けてしまった以上最後までこの子の面倒を見て上げたかったけど、そもそも私達も女の子とほとんど変わらない子供だ。これ以上責任を背負うことはないだろう。だけど、全く関係しなかった人に丸投げするのも罪悪感が残る。

 ちらりとお任せする男の人を見つめる。見た感じでは服装も態度も普通の人。ということは、この区に住んでいる平民と考えてもいいはず。よくあるのが貴族のお忍びだけど、こんな店も無い場所に貴族がいるはずないしその線は捨てる。

 私はポケットに忍ばせていたお財布を取り出して、銀色のコインを二枚取り出した。私なんかの子供が持つにはちょっと大きい額のお金だ。


「あの、これでその子と馬車に乗ってってください」


「は? いや、小さい子からお金なんてもらえないよ!」


「いえ、最後までお付き合いできないので、せめてこれくらいはさせてください。お手伝いでもらったお金ですし、必要な物は買ってもらえているので、使い道も今のところありません。それに、その子かなり疲れてると思うので、お願いします」


 馬車代として無理やりその人に押し付ければ、彼は困ったように眉尻を下げて笑った。そんな私に、テオは呆れたような表情を向けていたけど無視する。そんな顔するなら帰りの馬車代出さないぞ!


「君、しっかりしてるんだな。僕の立場が無くなる気持ちはあるけど、ここで断るのも君に悪いしね。じゃあ、これは遠慮なくいただくね」


「はい、後はお願いします。このお兄さんならきっと大丈夫だから! 早く帰って孤児院の人達を安心させてあげて」


 ずっと黙って事の成り行きを見つめるしかなかった女の子に向き直ってそう口にすれば、彼女は悩むように視線を彷徨わせる。まだ、男の人と二人きりになるのは怖いのかもしれない。不安そうにしている彼女の手を握って、私はできる限り優しく微笑んだ。


「大丈夫、もう怖いことないから」


「……あの、あ、りがと」


「どういたしまして!」


「次は気を付けろよな! あと、自分のこと、名無しって言うのもうやめろよ。それは、言っちゃいけねー言葉なんだからな! たとえ、自分のことだとしても、口にするな! いいな!」


 ちゃっかり名無し発言を叱っているテオに、私も笑って同意する。更に困ったようにキョロキョロしていた女の子は小さくだけど頷いてくれた。


「じゃあ、すみません。後はよろしくお願いします! テオ、行くよ! 馬車乗って帰ろう!」


 早くしないと最終便が来てしまう。テオの手を引っ張って大通りに出ると、タイミングよく南区行きの最後の馬車が通りかかった。慌てて乗り込んで腰を落ち着ければ、同じように大通りに出て来た女の子と青年が手を繋いでいるのが見えてホッとする。


「はあ、間に合った」


「そうだね。どうにか帰れるね」


 探検という名のただの散歩だった予定がとんだ事件に巻き込まれたものだ。ドッと疲れが押し寄せてきて、私はテオの肩にもたれかかった。


「ッ、お、おい、寝るなよ?」


「うん、大丈夫」


 焦りながらも嫌がる素振りはないのだから、テオは優しい。私より大きいと言ってもまだまだそれほど体格差のない子供同士。重いと思っているはずなのに、突き放したりしない。テオの優しさと僅かに感じる体温に安心して、体にこもっていた力が徐々に抜けていった。






「こんのおバカ!! こんな時間までほっつき歩いて!!」


 帰宅早々、案の定なことにロッテさんに怒られました。

お客さんの前でもいつも通りの態度をする親子ではあるけど、食事時で混んでるこんな時にでも気にせずに怒声を響かせる彼女に、私とテオは一緒に体を縮ませた。まだ外は明るいけど、門が閉まる時間までには帰宅する。それがロッテさんとの約束なので、怒られても仕方ない。それだけ心配かけてしまったのだから。

 しかも、私もテオも全身薄汚れてるし、私なんて口元に血が滲んでる。帰ってきた瞬間、ロッテさんは一瞬ホッとした顔を見せたけど、そんな私達の姿を見て途端に顔を真っ赤にして怒鳴った。


「ご、ごめんなさい」


「悪かったよ! でも本当はもっと早く帰るつもりで――」


「言い訳無用! まったく、ティーナちゃん、その口元は大丈夫なの? ごめんね、テオに巻き込まれたんだろう?」


「ええ?! オレのせい!」


 テオが一方的に悪いというような言葉にテオは慌てるけど、ロッテさんがひと睨みして黙らせた。流石に可哀想だ。だけど、事件に巻き込まれたのは偶然でしかないけど、あの場所に居合わせたのは確かにテオの提案ではある。これは巻き込まれたと言っていいものなのか……。

 ちょっと悩んでしまったけど、それでもテオが全面的に悪いはずじゃない。


「ロッテさん、ちゃんと何があったのか後で説明するから! フィーネさん! テオの背中見てあげて!」


「あ、おい!」


「背中? 何だ、どこかぶつけたのかい?」


 お叱りはロッテさんに任せていたフィーネさんだけど、私の言葉に瞬いて首を傾げた。この場所で見せるのは流石によろしくないので、ロッテさんに許可をもらって奥へと向かう。もちろん、嫌がるテオを引きずりながら。


「何ともねーって!」


「そう言うなら見せても大丈夫だよね?」


「うっ」


「馬車乗ってる時、必死に背もたれから背中放してたの、気付かないと思ってるの! 変なことでやせ我慢しない!」


 ピシャリと言ってやれば、ようやく渋々とついてきてくれた。居間の部屋に三人で移動して、フィーネさんが我が物顔でソファーに座った。ほら、と彼女に促されると、テオは苦い顔のまま服を脱ぐ。


「こりゃあ、大分派手にやったね」


 テオの背中が想像以上に酷かった。血が出ているわけじゃないけど、打撲にはなっているのだろう。青黒くなった背中が痛々しくて思わず顔を歪ませてしまった。早く治してあげてほしくてフィーネさんを見つめれば、彼女は溜め息を付きながらテオの背中に手をかざす。


「まったく、相当痛いだろうに。かっこつけるのもいいけど、こういうのは素直に言うことだよ。その内、痛みが酷くなって動けなくなることだってあるんだ」


「そんな、大げさ――」


「大げさじゃない!」


 どうにか軽く流そうとしたいらしいテオだけど、こればかりは私も見過ごせない。この世界には治癒魔法がある。教会に行っていくらか寄付すれば、もっと強力な治癒魔法を受けられることも知ってる。だけど、それはあくまでも治る見込みがある怪我だけだ。病や身体欠損等の大きな怪我には対応できない。だから、こういう怪我でも死ぬ人は必ずいる。今回、特に私やテオは小さな子供だった。大人との体格差はもちろん、力の差だって比較にならないほどあるはずで、いくらテオが運動神経がよく、日々剣の修行で他の子よりも頑丈な体だと言っても、怪我をしないわけじゃない。

 相当痛いはずなのに、痛くないなんて嘘はつかないでほしい。

 大丈夫だなんて、根拠もなく言わないでほしい。

 自分を軽んじることは、しないでほしいのに、どうして意地を張るのか私にはわからない。


「お、おい! 泣きそうな顔するなよ!」


「今のはテオが悪いよ。相当心配してたんだ。それなのに、大丈夫だなんて簡単に言って。あんた、逆の立場だったらどうするんだい?」


 風魔法の治癒をかけながらフィーネさんは冷静に問いかけた。途端、テオは少し俯いて考え込む。暫くして顔だけ私の方を振り向いた。さっきまでのわざとらしい笑みはなくて、泣きそうな表情を浮かべている。


「……ごめん」


「やだ! 許さない!」


「ええ? ご、ごめんって! もう嘘つかねーからさ!」


 そんな単純な話じゃない。今回のだって私が何も言わなかったらもっと酷くなっていたかもしれない。

 テオは基本いい子だから、一度言えばわかってくれる。きっと、今回のことも、十分に反省しているってわかってる。だけど、それでも心配かけた罪は重い!


「罰として、私の願い事を一つ、叶えてもらいます!」


「ええ? 何だよ、願いごとって」


 思いがけない提案に少し面倒そうに顔を顰めるテオを睨みつける。反省が足りないのではないだろうか。

 私の異様な空気を読み取ったのだろう、テオは慌てて顔を引き締めた。


「男ならもっとドンと構えな。女にモテないよ」


「べ、別に女にモテたくなんか」


「ああ、言い方が悪かったかい? ティーナにモテないよ」


 んん? どうしてここで私限定に言い直すのか。いや、でも確かに、ぐだぐだ文句言われるよりも潔く引き受けるくらいの懐の広い男性は好みだ。思わず真顔で頷いてしまうと、テオはうぐぐと呻いた。どうやら効果はあるらしい。それほど私の好感度を気にしてもらえるのはちょっと嬉しい。


「わ、わかったよ。何でもこい!」


「あ、でも別に今何か願いごとがあるってわけじゃないから、とっといて!」


 覚悟を決めたテオには悪いけど軽い口調でそう返せば、彼はがっくりと肩を落とした。

 期待させてごめんね?



 

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