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Eternal Life それぞれの命  作者: タクト
一章
7/44

カイトヒルを探せ

 「全然見つからないな」

 

 探索にうんざりして来たショウタが漏らした。

 場所はビルカから南に馬車で半日強の場所にある、ナクル山脈だ。

 

 エルフが図書院でリリーナに会った翌日、三人は弾丸クエストに来ていた。

 前日の馬車の最終便に乗って(エルフが帰って直ぐだった)、麓のシタンタ村に着き、ナクル山脈登山道入口で夜営。翌日の早朝から入山し、目的を果たす。そして最終便の馬車に乗り、ビルカに帰る予定だ。


 因みに夕食は途中で仕留めたギヤだった。

 何やら緊張した面持ちでギヤを口にしたエルフがどこか安堵した表情になっていた。

 

 ここに来た目的は二つ。

 一つは、ここの標高の低い場所で採れるチャコクという苔を採取する事。

 止血剤の材料になり、最近止血剤の需要が急上昇しているので是非とも手に入れておきたいとコトミが言った。

 もう一つは、ギルドからの依頼で、カイトヒルという虫を討伐して欲しいというものを受けたからだ。

 因みに魔法を使わない場合虫、使う場合は魔物に分類分けする。


 「コトミ、カイトヒルってどんな虫なんだ?」

 「皮膜を広げて風に乗る虫よ。

 自分より大きい生き物の血を吸うの」

 「色は?」

 「色?……えぇと、ショウタ」

 「白とも灰色とも言えるな。

 デカイやつで二十センチくらいになる」

 「えぇ、そう、そうよ。

 一匹三百ゼルと割安だけど、チャコク採取と並行して結構儲ける筈だったのに、手に入るのはチャコクばかりだわ」


 その後も三人は順調にチャコクを採取したが、山の中腹を超えても、カイトヒルとは一度も遭遇しなかった。

 

 「そろそろ戻らないと馬車の時間に間に合わなくなるな」


 エルフが太陽の傾き具合を見ながら言った。

 頂点を通り過ぎた太陽が西に徐々に傾き始めている。

 

 「なぁ、姐貴。

 馬車代って何ゼルだっけ?」

 

 最後の悪足掻きに岩穴を覗き込みながらショウタが聞いた。

 カイトヒルは、強い光を嫌う為日中は日陰にいる事が多いのだ。

 

 「一人往復で二千ゼル。

 一匹三百ゼルだから最低三十匹倒さないと赤字だわ」

 「姐貴、計算間違ってるぞ〜」


 岩穴の中には何も居なかった。

 

 「どうする、帰り歩くの?」


 [キャラバン]の懐事情をいい加減察しつつあるエルフは冗談とも本気とも付かない質問をした。

 

 「絶対やだ。どれだけかかると思ってるんだ」


 馬車で半日強である。


 「これだけ、チャコクが採れたから、帰って調薬すれば充分馬車代は取り戻せるはずよ」


 妥協案として、下山中目に入ったあらゆる薬草を採取し、目に付いたギヤを三匹仕留めた。

 少しは足しになる筈だ。


 馬車に乗り[キャラバン]に帰ったコトミは、徹夜で調薬し、ショウタに夜食を要求したが、コンロが全く動かなかったので熟睡したエルフを起こし火を焚く事になるというトラブルがあったが、翌日はミラハ山でエルフとショウタが採ってきた薬草も含め、大量の薬を用意した。

 

 徹夜明けの血走った目で店に立とうとするコトミをエルフが抑え込み、ショウタが「売り上げは任せとけ」と胸を叩いた。

 それでも食い下がるコトミに「開店時間前にはバイトも入るから」となんとか納得させ眠らせた。

 コンロは朝になっても全く動かず、エルフが魔法で火を起こして調理した朝食を食べた後、エルフ、ショウタとバイトの三人で店を開けた。

 

 そして、三時間が過ぎた。

 その間、客数ゼロ。

     売上金ゼロ。


 「「「なぜだッ!」」」


 ショウタ、エルフ、バイトの三人が叫んだ。

 因みに、一時間後、売上ゼロ時点でショウタがソロで「なぜだ」を叫び、二時間後にバイトと「なぜだッ」とデュエットし、三時間後、遂にエルフも混ざりトリオに至った。


 そんな閑古鳥が群れを成すような店内にようやく人が入った。

 

 「「「いらっしゃいませ」」」

 

 声を揃えて迎え入れた本日一番客はビルだった。

 

 「なんだよ、ビルかよ。

 冷やかしなら他あたりな」

 

 露骨に態度が変わるショウタと、客では無いと分かり残念がるエルフ。


 「この前、店番した時の給料まだもらってないんだけど?」

 

 そんな店の雰囲気などどこ吹く風とビルは要件を切り出した。

 

 「なんの話?」

 「惚けないでよ、あの後帰ってきても『エルフの初仕事だ、装備整えなきゃ』とか言って全く取り合ってくれないし、その後も行列に気を使って後回しにしてたら昨日は臨時休業で、今″全然客がいない″この機会を逃さず、給料を貰いにきたんだよ!」

 「誰が客が全然居ない零細薬屋だゴラ」

 「ちょっおま、やめろ。首を締めるな、ゴホッ」

 「落ち着いて、そこまでは言ってなかった」

 

 惚けたショウタに、包み隠さず正直にありのままを告げたビルに過剰解釈で勝手にキレてビルに掴みかかったショウタをエルフが宥めた。


 ゼイゼイと肩で息をする二人の間にエルフは立ち、二人がどう動くか警戒した。


 当然のように被害者より先に回復した加害者が、徐に先程から我関せずを貫き、一切変動しないレジの金を計上していたバイトの元へ向かった。

 バイトはビクッと警戒し、唯一なんとかしてくれそうなエルフの元へ逃げ、そんな事など構わんとショウタはレジの下の棚から封筒を取り出した。


 「ほら、バイト代だ」

 

 封をしていない封筒から紙幣を見える程度に出してビルに手渡した。


 「お…やけに素直だな?

 しかもこれ多いぞ?」

 

 封筒の中身を確認したビルが意外そうに言った。


 「金の約束は反故にしない。それだけはこの[キャラバン]絶対のルールだ」

 

 封筒にはビルが店番をしていた時間の売上の二割を入れてあった。

 ビルカでは、ほとんど無視されているが、一応バイト時給の基準が定められている。

 

 その基準に照らし合わせて増額した結果が、あの封筒の中身だ。

 思わぬ増額に気を良くしたビルが店内を見渡し、あるものに目が止まった。


 「あれ、なんでこんなもん置いてるの?」


 それはコトミが徹夜で調薬し、店内中央に配置した毒消と止血剤だった。

 

 「こんなもんとは失礼だな。

 何故か今売れ行きの良い商品だよ。止血剤があんなに大量に売れるなんて店始まって以来だからな。

 止血剤なんて、日陰商品なのにな」


 事実である。止血剤はあくまで流血を防ぐ効果しか無いので、傷を治す効果のポーションの方が遥かに需要が高い。

 

 「あのー、」

 

 ふとエルフが何かを思いついたようにショウタに声を掛けようとしたが、それはビルに遮られた。


 「あれ、ショウタ知らないの?

 確かにこの前まであちこちでカイトヒルが増殖して大騒ぎだったから、解毒剤や止血剤の需要が上がったけど、三日くらい前からぱったりとカイトヒルの目撃情報は途絶えたよ」

 「昨日カイトヒル討伐に行ったとき調べたんだけど、カイトヒルは唾液に皮膚浸食系の毒と血液の凝固を防ぐ成分を持っていて、血を吸われると、完治しにくいんだって。

 治療方法は、解毒剤と止血剤で皮膚細胞と血液の浄化をしてからポーション等の回復薬を使うのがセオリーらしいよ」

 

 ビルの話をエルフが引き継ぎ、この数日の売上増加の原因がわかった。

 昨日エルフ達はそのカイトヒルを討伐に行き、一匹もすれ違わなかった。

 因みに毒はともかく、血液の凝固を防ぐような魔物はカイトヒルを除くと、あまり居ない。その為、

 

 「嘘だ……まさかこれが不良在庫だと…………」


 という事になる。


 解毒剤はともかく、止血剤の一般需要はほとんど無い。治療院で大規模な手術のときなどに重宝するのだが、治療院は基本専属の薬屋からしか買い付けをしない。


 「てめぇ、なんでもっと早く教えないんだゴラ」

 「ちょっ、やめろ言い掛かりだ…暴力反対……股間を蹴るな」


 先程同様勝手にキレて今度はエルフに掴みかかったショウタがついでに放った膝蹴りがエルフの……股間に当たった。


 一応言っとく、わざとじゃ無い。


 股間を蹴られても平然とするエルフに「お前スゲェな」と戦慄をあらわにするショウタ。


 少しの沈黙の後、二階からコトミが降りて来た。


 「ちょっとちょっと凄い騒ぎじゃない。

 それだけ売れてるの……てあら?」


 流石店の主人、直ぐに店の異変に気付いた。

 視線を店内の人間に注ぐが、バイトはいつの間にか外に出て箒で表を掃除している。

 ビルは給料袋の中身を改めて数え出し、ショウタは「偽札じゃないから安心しろ」とビルを小突く。コトミと視線を合わせないためだ。


 結果、エルフがコトミの疑問に答えることになる。


 「需要が終わったんだよ。

 この商品はもう売れない」


 店内中央に山積みした止血剤を指して言った。


 「ウソ……」


 小さい筈のその声はよく響いた。


 


 

伏線?も貼りつつちまちま書いてきました。

 ここで一つご報告を––––––––

 一応言っとく……作者にネーミングセンスは無い。

 今後も様々な土地や人物が登場しますが、奇妙珍奇な名前ばかりになります。

 「せめてモチーフを統一しろ」

 おっしゃる通りで……

 ネーミングセンスの暴走も含めてお楽しみ下さい。


 

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