菊の花~真実(元婚約者から秘密)~
ブクマや評価、感想など本当にありがとうございます。
最終話になりました。
皆様の予想はどうなりましたか?
答え合わせをどうぞお楽しみ下さい。
菊の花言葉~白『真実』赤『あなたを愛します』ピンク『甘い夢』黄『敗れた恋』紫『恋の勝利』~
菊はずっと泣いている。
電話で泣かれると少し困る。
何も言えないし、何もできないから。
「菊。何処にいるんだ? 家か?」
「うん」
「今から行くから待ってろ」
「ダメ」
「どうして?」
「甘えちゃうから」
菊の言葉を聞いて俺は何も言わず電話を切った。
今から行くという言葉さえ言う時間がもったいない。
早く菊に会って菊を抱き締めたい。
俺は菊の家に走って向かった。
こんなに走ったのは久し振りかもしれない。
走るのには遠いので途中タクシーに乗ったけれどスピードの遅いタクシーにイライラした。
菊の家に着き俺はインターホンを鳴らす。
菊がドアを開けた瞬間に俺は菊を抱き締めた。
菊は驚いていたが嫌がらない。
少しそのまま菊を抱き締めていた。
「それで? 最初から説明してくれる?」
俺達はリビングのソファに座り話をする。
「私の話を聞いて心配なんてしないでね」
「それは話の内容によるよ」
「約束して」
「分かったから教えて」
「うん」
そして菊は話を始めた。
「私は病気なの」
「えっ」
「でも命に関わる病気じゃないわよ」
「そっか。よかった」
「それでも毎日、決まった時間に薬を飲まなきゃならないし、その薬の副反応で体調を崩したりするの」
「そんなの、全然知らなかったよ」
「だって隠していたからね」
「それで? 病気と婚約破棄の繋がりって何?」
すると菊は黙ってうつむいた。
でもすぐに顔を上げて俺を見つめた。
「あなたに迷惑をかけたくなかったの」
「迷惑?」
「だって毎日、決まった時間に薬を飲むからやっていたことや話の途中で中断しなきゃならないでしょう?」
「他には?」
「薬の副反応で体調が悪くなるからあなたに何もしてあげられなくなっちゃう」
「他には?」
「えっ他には、遠出もできないの。何が起こるか分からないからね。それに専門じゃないお医者様は私の病気が分からないから処置が遅れたりするみたい」
「他には?」
「寝不足はダメみたい」
「他には?」
「他にはって言われても困るわよ」
彼女は困った顔をしながら言った。
「だって君が言ってることは迷惑なんて俺は思わないから」
「そんなことはないわよ。今はそう思ってもいつかあなたは迷惑だって思うのよ」
「今は違うよ。だって会話の途中で君が薬を飲まなければいけないなら俺は喜んで会話をやめるよ。だって会話は一人じゃできないでしょう? それに俺は君と会話を楽しみたいんだ」
「私もよ」
菊はそう言って照れて笑った。
「薬の副反応が起きたら俺は君の傍から離れないよ。俺が君を助けてあげたいから。だから君は何もしなくていいんだよ」
「じゃあ私はあなたに膝枕をしてもらうわ」
菊はそう言ってイタズラっ子のように笑った。
「遠出ができないならしなくていいよ。俺は君といるだけで毎日が幸せだから。もし君が気分転換したいなら近くの旅館に泊まるのもいいかもね」
「温泉旅館なんて近くにたくさんあるわよね」
菊は温泉旅館の場所を思い出しながら微笑んだ。
「寝不足がいけないなら俺は君の隣で一緒に寝るよ」
「それは逆に寝れないわよ」
「どうして?」
「ドキドキして」
菊は色っぽい顔で小さく笑った。
「でもダメよ。私はずっとあなたの隣にいるつもりなのよ? それなのにいつかあなたに迷惑なんて言われたら私の居場所がなくなっちゃう。それなら結婚なんてしない方がマシよ」
「何か、いつもの菊と違うね。いつもは私は何も気にしてないわよって顔で俺を見ているのに」
「それは優雅な私よ。本当は臆病で自信なんてない弱い私なの」
「優雅。蘭の花言葉だね?」
「うん。私は菊じゃなくて蘭になりたかったの」
「菊の花言葉は何?」
「色によって違うの」
「何色があるの?」
「白色、赤色、ピンク色、黄色、紫色とかかな?」
「君に似合う色はやっぱり白かな?」
「白? どうして?」
「君は色が白くて何の色にも染まっていない綺麗な心が白だって言ってるよ。それに君の純白のウエディングドレスがみたいから」
彼女は照れているのを誤魔化すように口元に手をやり白の菊の花言葉を思い出している。
「白色の菊の花言葉は真実よ」
「真実かぁ。それなら君の真実を教えて。君は俺と結婚したくないの?」
「だってそれはあなたに迷惑が……」
「真実だよ?」
俺は彼女が話しているのを遮って言った。
「私はあなたとずっと一緒にいたいよ」
「よくできました」
彼女は照れながら俺に言った。
俺はそんな彼女にキスをした。
彼女とする久し振りのキスは初めてしたキスを思い出させた。
◇
「もう、また雨なの?」
彼女は怒りながら傘を広げる。
今は梅雨の季節だから仕方ない。
傘は一本しかないから二人で傘の中に入る。
綺麗に広がる紫陽花畑に来ている。
彼女が花を見るのが好きで俺は一緒に来た。
俺は花を見る彼女の笑顔が好きでここに来ている。
しかし今の彼女は笑顔なんて何処にもない。
雨が嫌いなんだと思う。
どうしよう?
ずっとそんな顔をされていては俺が楽しくない。
それに彼女だって楽しくないと思う。
「ねえ、カタツムリがいるわ」
彼女は紫陽花の葉っぱにカタツムリを見つけて嬉しそうに俺を見た。
あっ、この顔が俺は見たかったんだ。
そう思ったら彼女にキスをしていた。
彼女は驚いていたがすぐに目を閉じた。
初めてのキスはドキドキしたけど幸せだった。
俺はこの時、彼女と結婚するんだろうなぁって思ったんだ。
◇◇
それから一年後。
「だから自分で薬くらい飲めるわよ」
「ダメ。君が心配なんだ」
「何が心配なのよ。薬を飲むだけよ?」
「喉に薬を詰まらせたら大変だろう?」
「だから子供じゃないってば」
「さあ、じっとして。飲ませるよ」
「もう」
菊はそう言って俺を見上げる。
俺は自分の口に薬と水を含む。
そして俺の口から菊の口に薬と水を注ぐ。
菊はゴクッと喉を鳴らし薬と水を飲む。
そして照れた顔で言うんだ。
「ありがとう」
そんな可愛い菊の薬指には俺と同じデザインの指輪が光っている。
俺達は結婚をした。
俺達の人生はこれからも続く。
二人で一緒に支え合いながら。
「さあ、続きをしようか?」
「何よ続きって?」
「イチャイチャの続きだよ」
「もう、口移しは雰囲気作りの為にしてるのね?」
「違うよ。君を愛しているからだよ」
「あなたって本当にズルイ」
「菊。真実は?」
「私もあなたを愛してるわ」
菊はそう言って俺に抱き付いてきた。
可愛い菊。
真っ白で綺麗な俺の菊。
一生、離れてやらないからな。
最後まで読んで頂きありがとうございます。
楽しく読んで頂けたでしょうか?
最終話が読者様の心にどう響いたのか分かりませんが心に残る作品になれば幸いです。
ここまでお付き合い下さり本当にありがとうございました。