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百合の花~純粋(妹)

ブクマや評価、感想など本当にありがとうございます。


百合の花言葉~『純粋』『無垢』『威厳』~

 後悔させる作戦はどうすれば成功するんだ?

 俺はそう思いながらパソコンの画面を見て仕事をしているフリをして考え込む。


 受付の前を通ると(さくら)の視線が気になるし、デスクに座るとすぐに(もも)さんがコーヒーを出してくれるし、俺ってモテてる?

 でもたった二人でモテていると判断してはダメだ。

 俺がモテていたらもっと女の子が集まるはず。

 それに(きく)も寄ってくるはず。


「あっお兄ちゃん」


 会社では聞くことのない言葉を耳にした。

 普通は仕事中にお兄ちゃんなんて言わないだろう?

 俺は声がした方を見る。


 そこには水樹(みずき)に抱き付いている女子高生がいた。

 それを菊が見たらどう思うかな?

 菊は残念ながら受付嬢だからこの部署にはいない。


「おい、百合(ゆり)。何でここにいるんだよ?」


 水樹が妹の百合ちゃんから離れながら言った。


「菊さんがここにいるって言ってたから」

「兄ちゃんの会社には来るなって言っただろう?」

「だってお兄ちゃんの仕事姿を見たかったの」

「帰りなさい」

「もう、お兄ちゃんのバカ」


 そう百合ちゃんは言って拗ねながら帰っていく。

 水樹はお騒がせしましたと周りに謝っていた。

 俺は百合ちゃんが気になって追いかけた。


「待って」


 俺が百合ちゃんを呼ぶと百合ちゃんは振り返った。

 振り返った百合ちゃんのポニーテールにした長い髪が揺れてシャンプーの良い香りがした。


「あなたは?」

「水樹の仕事仲間だよ」

「私に何か用ですか?」

「菊とは仲がいいの?」

「菊さん? 優しくて菊さんは好きです。いいお姉さんです」


 百合ちゃんはそう言って微笑んだ。

 この子、可愛いじゃん。

 水樹の妹じゃなかったら恋愛対象になりそうだな。

 ダメだ。

 百合ちゃんはまだ女子高生の未成年者だ。


「菊と水樹って仲が良いの?」

「二人は仲良しです。でも恋人じゃないって言ってたんですよね」


 二人はまだ付き合ってないんだな。

 どうして付き合わないんだ?


「もっと二人の話を聞きたいんだけど今度の土曜日、会ってくれる?」


 もうすぐ三十歳のおっさんに、女子高生が言われたら絶対にひくよな?

 でも、あの二人の関係をもっとちゃんと聞きたいんだ。


「いいですよ。あなた格好いいので」


 百合ちゃんは可愛い笑顔を見せて言った。

 女子高生くらいの年頃の子は年上の男が格好良く見える時があると(らん)が昔に言ってたなぁ。

 格好いいは言われたら嬉しいが百合ちゃんの言葉は本気には受け取らないよ。


 俺は百合ちゃんと連絡をとれるように連絡先を交換した。

 そして百合ちゃんは連絡して下さいよと言って帰っていった。


 約束の土曜日の前の夜に百合ちゃんからメールがきていた。


『百合です。忘れてないですよね?』


 俺は忘れてないよと返し、待ち合わせ場所と時間をメールした。


『イケメンさん。了解だよ』


 彼女からの返事がきた。

 俺はそれを見て百合ちゃんとのメールを終わらせた。



 次の日、百合ちゃんは私服だった。

 可愛いピンクのミニスカートを着て綺麗な細い足が出ている。

 ちゃんと食べているのか心配になるほど彼女の足は細い。

 最近の若い子はみんな細い。

 まぁ自分磨きを頑張っているんだと思う。

 女の子は大変だね。


「イケメンさん」

「俺は光太(こうた)。名前で呼んで」

「はい。光太さん」

「うん。よくできました」


 俺は百合ちゃんの頭を優しくポンポンと撫でた。

 百合ちゃんは嬉しそうに笑っていた。

 百合ちゃんは猫のように癒される可愛さだ。


「今日はカフェでいい?」

「いいですよ。お話をするんですよね?」

「そうだよ」

「それなら行きましょう」


 カフェに着くと俺はコーヒーを注文し、百合ちゃんに何でも食べていいよと言うと遠慮気味にパフェを注文した。


「百合ちゃんは菊を水樹から紹介されて知ったの?」


 パフェとコーヒーが来たらすぐに百合ちゃんに訊く。


「私が学校から帰る途中に菊さんが苦しそうにしていたから救急車を呼んだことがあるんです。それが菊さんとの出会いです」

「えっそんなに悪かったのか? 菊は風邪もほとんどひかないのに」

「菊さんはすぐに元気になってました。あの日は女の子の日だったからって言ってました」


 また女の子の日なのか?

 救急車を呼ぶほどだったのか?


「菊とはその日の他に会ってたの?」

「はい。お兄ちゃんには内緒で私の部屋に遊びに来てもらってました」

「えっ水樹に内緒?」

「私とお兄ちゃんは両親を亡くしてずっと二人暮らしなんです。お兄ちゃんがご飯を作ってくれていましたが仕事が忙しいお兄ちゃんの代わりに私が作ろうと思って菊さんに料理を教えてもらってたんです」

「それが水樹にバレたんだね」

「そうなんです。お兄ちゃんがいつもより早く帰って来て菊さんとお兄ちゃんは声を揃えて何でって言ってました」


 百合ちゃんは思い出したのか楽しそうに笑った。


「それから菊はどうしたの?」

「どうしたって私に料理をたくさん教えてくれましたよ」

「水樹の家だと知っても?」

「菊さんは私の為に来てくれていたんです。寂しがっていた私の為にです」

「百合ちゃん?」

「お兄ちゃんが早く帰らないから私が寂しいんです」


 百合ちゃんは悲しい顔をした後、すぐに怒りながら言った。


「百合ちゃんにとって菊は友達のようでお姉さんのようでお母さんだったんだね?」

「そうだと思います。優しい菊さんが大好きです」


 彼女が本当に菊のことが好きなのは彼女の笑顔を見れば分かる。

 そんな話を聞いたら菊の裏切りが信じられない。


「それから百合ちゃんには二人はどんな関係に見えた?」

「一方通行です」

「えっ」

「お兄ちゃんは菊さんを菊さんは遠くの誰かの方向を見て一方通行です」

「どうして?」

「だって菊さんはお兄ちゃんに遠慮してお兄ちゃんも菊さんに遠慮している所がありました」

「遠慮かぁ」

「私、菊さんが寝てる時に寝言を聞いたことがあるんです」

「寝言?」

「菊さんは言ってました。光太ごめんね。あなたの為よって」

「何それ? いつ?」

「先週の金曜日です」

「もう、俺達が別れているのに?」

「光太さん。私はあなたを知っていました」

「俺を?」

「顔は知らないですけど菊さんがいつもあなたの話をしてました。あの人はお人好しで少しお馬鹿さんで自分一人で頑張ろうとして私にはもったいない人だって」

「なんだよそれ?」


 何で?

 婚約破棄したのは君だよ?

 浮気したのは君だよ?

 何で?

 まるで俺が悪者みたいだ。

 俺が菊の気持ちを分かっていない。

 バカみたいだ。


「私、恋愛のこと何も分からないですが菊さんみたいな女の人になって菊さんみたいに愛する人を分かってあげたいなって思いました」

「君は菊みたいになったらダメだよ」

「どうしてですか?」

「菊は一番大事なことを言わないから」

「一番大事なこと?」

「そう。自分の本当の気持ちを言わないんだ。だから百合ちゃんは菊みたいになったらダメだよ」

「私はどうすればいいんですか?」

「君は君が思うようにすればいいんだよ。君の純粋な心で人を愛して伝えてよ愛してるって」

「はい。光太さん愛してます」

「うん。ありがとう」


 百合ちゃんは俺から愛してるの言葉が返ってこないことは分かっているんだと思う。

 百合ちゃんは菊から聞いた話の中の俺に恋をしていただけ。

 愛してるって言えば愛してるって返して欲しいはずなのに百合ちゃんは何も言わないから分かっているんだ。


◇◇


 その日の夜。

 俺は菊に電話をした。


「もしもし?」

「俺だけど」

「うん。どうしたの?」

「今日、百合ちゃんと話をしたんだ」

「また他の人を巻き込んだの? しかも彼の妹じゃない」

「百合ちゃんに愛してるって言われたんだ」

「そうなの? 女子高生には手は出しちゃダメよ」

「出さないよ」

「それならいいわ。話はそれだけ?」


 これからが大事なんだ。

 菊。

 俺の話をちゃんと聞いてくれ。

 そして君の気持ちをちゃんと教えてくれ。


「俺は菊。君を愛してる」


 俺がそう言うと菊は泣き出した。

 初めて聞く菊の泣き声は今すぐ彼女を抱き締めたくなる衝動に駆られる。


 しかし俺は菊の婚約者でもないし恋人でもない。

 そんな俺が菊を抱き締めていいのかも分からない。

 そして愛しているなんて言っていいのかさえ分からない。


 それでも俺は今までの菊との想い出を思い出すと愛していると言わずにはいられなかった。

読んで頂き誠にありがとうございます。

明日の朝に投稿するお話が最終話になります。

みなさんの御期待通りのお話になるのか分かりませんが読んで良かったと思えるような最後であったら幸いです。

あと一話です。

最後までお付き合い下さい。

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