蘭の花~美しい淑女(幼馴染み)~
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蘭の花言葉~『美しい淑女』『優雅』
菊にも水樹にも後悔のこの字も思わせていない。
菊との勝負に負けそうだ。
俺の後悔させる作戦は我慢比べになっていた。
俺が諦めて二人を祝福するか二人が俺にしたことを後悔して謝るか。
いつもどうやって後悔させるのかを考えていると頭が痛くなる。
これはあいつの所に行って薬でも貰おう。
そして俺は仕事を早く終わらせあいつの元へ向かった。
「蘭。いるか?」
俺は戸を開けてすぐ叫んだ。
「ちょっとここは飲み屋とかじゃないのよ。飲み屋のママを呼ぶように私を呼ばないでよね」
この迷惑そうに俺を見ながら言ったこいつは俺の幼馴染みの蘭だ。
蘭の家は病院を経営しており蘭はそこの看護士だ。
患者さんに大人気だ。
蘭の看護士の服を見てスカートならもっといいのになんて言っている患者もいたな。
最初の頃はスカート姿だったがある時、ズボン姿に変えた。
その時に彼女が言っていた言葉が、自分のせいでちょっとした怪我で来る患者さんが多くなったって。
本当に大変な怪我で来る患者さんにとっては迷惑だからって彼女は悲しそうに言っていた。
蘭は昔から可愛かった。
しかし誰にでも優しい蘭は俺の知る限り、恋人がいたことはない。
そんな蘭は俺にだけは少し厳しい所があるみたいだ。
彼女は見た目も中身も美しい淑女だ。
そんな彼女に俺は惚れ……なかった。
だって俺にとってそんな彼女は普通だった。
小さな頃から誰にでも優しい彼女はそれが当たり前だった。
だから彼女と一緒に育った俺も優しすぎるのかもしれない。
「それで、今日は何処が悪いの?」
彼女は当たり前のように俺に聞いてくる。
まあ、俺がここに来る理由は彼女に会いにきた訳じゃないからな。
彼女はそれを分かっているし、俺が体調が悪い時にしか来ないのも知っているからだろう。
「頭が痛いんだよ。だから薬をくれ」
「私は看護士よ。お医者様じゃないんだからね。薬なんて出せないわよ」
「それなら頭が痛いのを直す何かってないのか?」
「どう痛いの?」
「菊にどんな嫌がらせをしようか考えると痛くなるんだよ」
「菊さん? 菊さんとは別れたでしょう?」
「そうだけど?」
「何でまだ考えてるの?」
「だってあいつが」
「子供みたいなことを言わないの。菊さんが可哀想よ」
彼女は菊のことを心の底から哀れんでいるようだ。
「その頭痛の原因は菊さんへの未練からきてるのね?」
「未練? そんなのない」
「未練はないのね。それなら早く忘れなさい」
「それができたら苦労しないって」
「菊さんの気持ちも考えてあげなよ」
「菊は他の男を作ったんだよ。浮気だ」
「菊さんにはもうお付き合いしている男性がいるの?」
「まだいないがもうすぐ恋人ができるだろう」
「そうなのね」
彼女はそう言って黙ってしまった。
菊のことはいいから早く俺の頭痛をどうにかしてほしいよ。
「菊さんが心配ね」
彼女はそう呟いた。
菊は風邪などひくとこの蘭のいる病院に通っていた。
だから蘭は菊が心配なんだろう。
でも、今は菊じゃなくて俺だろう?
「それで俺の頭痛薬は?」
「ないわよ。あなたみたいな人にはこれでいいわよ」
彼女はそう言って俺のおでこに湿布を貼った。
「湿布で治る訳ないだろう?」
「今日はこれであなたの診療は終わりよ」
さっきは医者じゃないって言ってたのに医者みたいな言い方で言って俺を追い出す。
そのまま外に出され俺は仕方なく家へと帰った。
おでこには湿布を貼ったままだ。
すれ違う人が二度見をしていくが俺は彼女が言った菊を心配する言葉が気になっていた。
俺が菊を心配したことがあるのはたった一度だけ、彼女が心の病気で仕事を休んだ時だけだ。
彼女は俺に心配させないようにいつも笑って誤魔化すのだ。
だから俺もそれならと彼女の嘘に付き合っていた。
でも一度だけ彼女が笑って誤魔化せない時があった。
◇
「どうしたんだ?」
「何でもないよ」
俺の部屋で彼女とくつろいでいた時。
彼女がずっと自分のお腹を撫でながら痛そうにしていた。
「痛そうだけど?」
「うん。今日は女の子の日だからお腹が痛くて」
「そう。大丈夫?」
「うん」
彼女はそう言って笑って誤魔化すが誤魔化しきれていない。
女性はそんな痛みを毎月、我慢していると思うと全ての女性に敬意を払いたい。
俺だったら我慢できないだろう。
「あっ私の好きな花よ」
彼女はテレビに映った花を指差した。
「白い花?」
「そうよ。蘭の花」
「へぇ~」
「蘭の花って顔に見えるでしょう? ちょっとパンジーにも似てるわね」
「パンジーなら知ってる。よく咲いてるのを見るよ」
「蘭の花の花言葉を知ってもっと好きになったの」
「花言葉?」
「そう。花言葉は優雅」
「優雅?」
「優雅って品がある人ってイメージがない?」
「まあ。そうかも」
「どんなことにも慌てず余裕を持っている人になりたいの。だから私は優雅にあなたを見守るわ」
「じゃあ俺も優雅に君を見守るよ」
「それならそんなに心配したような顔をしないで。毎月あるものなんだから心配しなくても私は大丈夫よ」
彼女はそう言って優雅に気品のある笑顔を見せた。
俺には彼女のような笑顔はできないが少しは優雅ということを意識してみようと思った。
◇◇
蘭に会ったその日の夜に菊から電話があった。
「もしもし」
「私、菊よ」
「何だよ? 今日は何もしてないぞ」
「そうね」
「それなら何の電話だよ」
「あなたが少し元気がないように見えたの」
「菊には関係ない」
「そうね。私はあなたの婚約者でもないんだし心配なんてしなくてもいいわね。私には心配してくれる彼がいるし」
自慢でもしているのか?
余裕だな。
彼女の行動を優雅というにはまだ何かが足りないな。
「あなたは一人じゃないから大丈夫よ」
「えっ」
「それじゃあまたね」
菊は勝手に電話を切った。
一人じゃない?
彼女は何が言いたかったのか。
今日の彼女は優雅と言うには程遠い感じがした。
何かあったのか?
でも彼女は大丈夫。
自分で何でも乗り越えられるから。
優雅に。
おっと、危ない。
俺の目的を忘れる所だった。
俺はまだ諦めないからな。
絶対に後悔させてやる。
菊。
待ってろよ。
読んで頂きありがとうございます。
最終話までもう少しです。
どうか最後まで楽しみながらお付き合い下さい。