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第4話 「ねぇねぇ、こーへい。うち上がっていかない?」

「じゃまた明日学校でな」


 春香と一緒だった帰り道。

 春香の家の前で、俺はごくごく普通に別れの挨拶をしたんだけれど、


「ねぇねぇ、こーへい。うち上がっていかない?」


 春香が突然そんなことを言いだしたんだ。


「えっと、今から?」


「あれ、この後予定あるの?」


「そう言うわけじゃないんだけど――」


 問題はそこではなくてだな。


 会って日が浅い女の子の家に上がるのは、幼馴染で比較的女の子耐性がある俺にとっても、わりと敷居が高いわけで。


 だって家に行ったら春香の親と会うわけじゃん?


 知り合って2日目の異性の親御さんと会うのは、ぶっちゃけ気まずいよね。


 そんな俺のヘタレな気持ちを知ってか知らずか、


「じゃあ上がって上がって」


 春香はにこやかな笑顔で俺の手を引くと、家の中へと案内しようとする。

 さらには、


 キャウン、キャン!


 庭にあった犬小屋からピースケがやってくると、嬉しそうに俺の足にまとわりついてくるんだ。


「ほらピースケもこーへいが来て喜んでるよ? ねー、ピースケ。昨日助けてくれたこーへいだよー。覚えてるよねー」


 キャン、キャン!


「ほらこれで2対1だね。多数決! そういうわけで、入って入って」


「じゃあその、ちょっとだけお邪魔します……」


 なかば強引に蓮池家の敷居を越えさせられた俺は――なぜか居間ではなく、2階にある春香の部屋へと案内されていた。


 ピンクのカーテンに、犬やクマのぬいぐるみが置いてある、春香らしくて可愛いお部屋だった。


 ブレザーを脱いでブラウスにセーターとなった春香は、


「お茶入れてくるから座って待ってて。まだ寒いしあったかい方がいいよね?」


 そう言って一旦部屋から出ると、お茶とクッキーを持って戻ってきた。


「これって手作り?」

「うんそーだよ。春休みの終わり頃に暇だったから作ったんだけど、ついつい作り過ぎちゃって」


「そうか、手作りか……」

「?」


 千夏はあまり料理やお菓子作りはしなかったので、俺が女の子の手作り的な物を食べるのは、実はこれが初めてだったりする。


「それは心して食べないとな……いただきます!」


「えっと、そこまで気合い入れてもらうことでも、ないんだけど……」


 春香はそういうけど、初めての女の子の手作りクッキーがどれほど男の子の心を揺さぶるのか、これはきっと男の子にしかわからないんだろうな。


 春香の手作りクッキーを前に、俺は胸の高鳴りを隠しきれないでいた。


 早速ひとつ口に入れてみると、


「うん、美味しい――」


 サクっとした食感の後、適度な甘さが口内に広がっていく。


「もう一つもらってもいいかな?」


「どうぞどうぞー。まだいっぱいあるから好きなだけ食べてね」


 嬉しそうににっこり笑った春香は、うっ、めちゃくちゃ可愛いじゃないか……。


 でも勘違いしちゃいけない。


 つい先日俺は、千夏に散々な振られ方をしたばかりなのだ。


 背は平均のやや下、お世辞にもイケメンではないとズバリ言われてしまった俺が、春香みたいな可愛い子にいきなり好かれるはずがないからな。


 人間は視覚から8割の情報を得ている。

 つまり見た目が8割ということだ。


 残念ながら俺は、女の子を一目ぼれされるようなイケメンさんでは決してないわけで。


 それに俺自身、まだ千夏を好きな気持ちがなくなったわけじゃないんだ。


 千夏のことを未練がましく割り切れないままでいるのだから、他の女の子のことを考えるなんて、2人のどっちに対しても失礼だもんな――。


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