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第3話 「あ、こーへいだ! おはよー!」

 翌日。


 あの失恋の日以来、久しぶりに気持ちよく眠れた俺が気分よく登校すると、既に春香は自分の席でクラスメイト(だと思う、昨日のことはよく覚えていない)の女の子との会話に花を咲かせていた。


 そしてそれは、俺の1つ前の席だった。


 今更だけど「蓮池」春香と「広瀬」航平は、あいうえお順だと続きってくらいに近い。

 だから俺と春香の席が前後していることに何の不思議もないんだけど、


「昨日の俺は、目の前の女の子すら認識していない程に、無気力だったのか……」


 改めて考えると、昨日の俺ヤバすぎるだろ。

 そりゃ春香も後ろの席の奴が、高校初日からそんな陰気オーラを漂わせていたら「この人大丈夫?」って気になりもしただろうよ……。


 そんなことを考えていると、


「あ、こーへいだ! おはよー!」

 俺に気付いた春香が、にっこり笑顔で手を振ってきた。


「ああうん、おはよう春香」


 俺も流れでそれに何気なく返事をして――すぐに気が付いた。


 教室がざわッとしたことを。


「え、なに? 2人ってそういう関係!?」

「昨日は少しも話してなかったよね? ってことは放課後なにかあったの? 告白しちゃったり!?」


 春香と話していたクラスメイト(だと思う、よく覚えていない)が盛り上がるとともに、


「朝からリア充半端ない……死ねる」

「こ、これが高校の洗礼ってやつか……」


「っていうかあんなやついたっけ?」

「なに言ってんだよ、ほら――あれ、いたっけ?」


「マジかよ、蓮池さんは俺が狙ってたのに」

「ばーか、お前じゃ(はな)から無理だっつーの」


 主にクラスの男子がざわつき始めたのだ。


 その反応を見て、俺は改めて蓮池春香という少女を観察してみた。


 肩まで伸ばしたゆるふわウェーブの茶髪はおしゃれ可愛く、ブレザーの制服にとても似合っている。


 顔も可愛い。

 クラスで1番は無理でも、3番4番目くらいには入る可愛さ――つまり平凡な男子でももしかしたらワンチャンあるかも、って思えるくらいに可愛い顔立ちだった。


 そんな地味に人気がありそうな春香が、


「ねー、こーへい。今日から授業だけど、ついていけるかなー。わたし中学の頃から数学苦手なんだよね」

「俺は英語が一番不安かな」

「あ、わたし英語得意だから教えてあげれるかも。分からないことがあったら聞いてね」


 とか、


「あ、こーへい、ネクタイ曲がってるよ? 直してあげるね」

「あ、うん、ありがとう」

「ちゃんと鏡見てこないとだめだぞー」


 とか、


「こーへいってドラマ見る方? 昨日の月9(げつく)見た?」

「ドラマはあんまり見ないんだ。テレビは見ても、野球かサッカーを見てることが多いかな」


「あ、わたし野球好きだよ? 巨人ファンなの、ジャイアンツ愛! こーへいは?」


「残念ながら阪神ファンだ。悪いが春香とは分かり合えないみたいだな……」

 俺は少し目を伏せながら言った。


「……なんで東京で阪神なの? 素直に巨人応援すればいいのに」


「完全に親の影響だな。両親がどっちも神戸出身で、俺は物心ついた時には阪神ファンだった」


 とか、なんとかかんとか。

 それはもう親しげにあれこれ話しかけてくるんだ。


 俺も昨日の一件で気持ちがちょっとだけリフレッシュしたこともあって、春香と楽しくだべっていたんだけど。

 これは(はた)から見ればそういう関係に――付き合っているようにしかみえないよな……。


 勘違いされても仕方ない、お互い名前呼びだし。


 ――ま、それはそれでいっか。


 こほん。

 男の子とは実に悲しい生き物であってだな。


 可愛い女子から親しげに話しかけられると、それだけで舞い上がるほど嬉しくなってしまうものなのだった。


 もしもこんな風に千夏と過ごせたら――って、もうそれはいいんだ。


 春香と出会えたことで、俺はある程度気持ちの切り替えはできたんだ――と思う、多分。


 だからもう千夏のことは、甘酸っぱい過去の思い出として忘れるんだ……忘れよう……忘れるのさ……はぁ……。


 そんな簡単に忘れられたら、苦労はしないよ……。


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