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第29話 ある日曜日。

 ある日曜日。


 俺は駅前にある商業施設にやってきていた。


 特になにかしようってわけじゃなくて、適当にぶらぶらしつつ、なにかあれば買い物するかもってところだ。


 ってなわけで、目的もなく見て回っていると、


「あれ? あれって春香だよな」

 ふと、大手チェーン書店に入っていく春香の姿が見えた。


「せっかく休みの日に会えたんだし、声かけるか」


 最初俺はそう思ったんだけど。


「……なんだろう、なんとなく挙動不審な気がする」


 時おり周囲をキョロキョロと見まわす春香が、なんとも怪しく見えた俺は、何をしてるのかちょっと興味がわいたのもあって、


「こっそり近づいておどろかしてやるか」

 なんてことを考えてしまった。


 そんな子供っぽいいたずら心が芽生えた俺に、気付くこともなく。

 春香は時おり周囲をきょろきょろと警戒しながら目的の場所――おそらく文庫新刊コーナーへと進んでゆく。


「怪しい……さっきからいったい何をそんなに警戒してるんだ?」


 いたずら心が完全に好奇心に変わっていた俺は、ちょっとだけ本気で尾行してみることにした。

 人並みや物陰に隠れながら、警戒する春香にそろりと接近していく。


 すると春香は文庫新刊コーナーで立ち止まると、周囲をぐるっと一周見渡した。


「やばっ……」


 新刊コーナーは高さのない平台で少し開けた空間だったから、これは見つかったかなと思ったんだけど、


「そんなに欲しかったんなら、ネット通販で予約してればよかったのに」

「もう、ハルアキくんってば。本屋さんが売ってるのは本じゃないんですよ」


「ごめん、陽菜(はるな)がなにを言ってるのか、ボクにはさっぱりわからないんだけど……」


「本屋さんが売っているのはですね、本を選ぶという体験なんです。ハルアキくんと一緒に本屋さんをめぐって目的の本を探すっていうイベントを、本屋さんは提供してくれてるんですよ」


 ちょうど運よく俺の前をラブラブなカップルが通りすぎたおかげで、春香は俺に気付かなかったようだった。


「どうやら、天は俺に味方しているようだな」


 そして俺に尾行&監視されているとも知らずに、ついに春香は一冊の本を手に取った。


「あれが春香の目的のブツか……」


 春香が見ているのは、ラノベかなにかの見本誌のようだ。


 ぱらりと開いた最初のカラーページを、まるで英語の文法でも暗記してるのかってくらいに真剣な表情で眺めている。


 すごくすごく気になった俺は、こっそりと背後から近づくと、春香の肩越しにそっとその見本誌を覗き込んだ――んだけど、


トレイヌ『ケツは全てエレガントにパコれ、エレガントに――くっ!』

ゼスク『良い攻めだ、しかし私はまだ自分を弱者と認めてはいない――くぅっ!」


 中世貴族風の衣装を着崩した顔の濃いイケメンが、全裸になぜかブーツと仮面だけをかぶった金髪イケメン(と思われる)を四つん這いにさせて後ろからアーッ!させている見開きカラーページがそこにはあった。


「…………(滝汗)」


 いったいどこから突っ込めばいいんだろうか?

 それとも突っ込んだら負けなのだろうか?


 まずこの人はなんで全裸なのに仮面は外さないの?

 もしかして仮面が本体なの?

 さかなクンならぬ仮面クンなの?

 お風呂も仮面付けて入る的な?


 あとブーツは脱いでないのが、すごくフェチっぽい。

 全裸にブーツは好きな人にはガン刺さりしそう、分かるよなんとなく。


 っていうか春香ってこういうの(BL)読むんだなぁ……。


 なんてことを考えていると、俺の気配を感じ取ったのかハッと振り返った春香と目が合った。


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― 新着の感想 ―
[良い点] ふむ、少年よ。 謝罪として、秘蔵のエ○本を暴露の刑だな。
[一言] 更新お疲れ様です。 そして警戒してた理由はそっちでしたかwww てっきり幼馴染との距離を縮める系のラノベかと思いました。
[一言]  見てはいけないものを、見てしまいましたね。
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