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第96話 ポッキーちゃん

「この子はピースケって言います」


「ピースケちゃん、素敵なお名前ね。それとごめんなさいね、航平君。紛らわしい聞き方をしちゃって」


 マダムが申し訳なさそうな顔で、小さく頭を下げた。

 ちょっとしたしぐさも、すごく品がいい。

 間違いない、このマダムは上流階級のマダムだ――!


「いえ、俺が勝手に勘違いしただけですから、どうかお気になさらず」


 別にこのマダムが悪いことをしたわけでもなんでもなく、単に俺が勘違いしただけなのに、そんなに改まって態度で頭を下げられると、逆に申し訳なくなってしまうよ。


「そうですよ。こーへいはこんなことで気分を悪くするような、感じの悪い男子じゃないですから。ねっ、こーへい♪」

「ああ、まぁ、うん」


 おいこら春香!

 2人きりの時ならいざ知らず、第三者に向かってそういうバカップルなこと言うのは恥ずかしいだろ!?

 さすがの上流階級マダムも、内心で苦笑しちゃうぞ!?


「ふふっ、お二人は仲がいいのねぇ。もしかして好きピな仲なのかしら?」


「えへへ、まぁ、はい」

 春香がにへらーと照れたような笑みを浮かべて、


「す、好きピ?」

 マダムから飛び出たまさかの単語に、俺は思わずビックリしてしまった。


「あら? 最近はアベックのことをそういう言い方をするんだって、あなたたちと同い年くらいの孫娘から聞いたんだけど、使い方を間違っていたかしら……?」


「いえ、合っていると思います。若者言葉も覚えるなんて、勉強熱心なんですね」

 俺が感心したように言うと、


「ふふっ、逆よ逆。もういい年だから、せめて頭の中だけは若いままでいたいの」


 マダムが柔らかい笑みを浮かべた。

 本当に感じのいい人だな。


「可愛いポメちゃんですね」


 と、マダムが連れているワンコを、春香が軽く撫でながら言った。


 マダムが連れたワンコは、ピースケとお互いのお尻の辺りを嗅ぎ合ったり身体をすり合わせたりしている。

 後で調べたら、ワンコはお尻の匂いを嗅ぎ合うことで、お互いの情報交換をしているらしい。

 身体を寄せ合うのは仲良しになった証なのだとか。


 すげーなワンコ。

 初対面でお尻の匂いを嗅ぎ合って、いったいなにが分かるって言うんだ……?


「ふふっ、ありがとう」

「って、ポメちゃん? なんで春香がこの子の名前を知ってるんだ?」


「あはは、そうじゃなくて、この子はポメラニアンって犬種なの。だからポメちゃん」

「なるほど……」


 犬の飼い主同士の話はなかなか難度が高いな。

 とりえあず俺はポメラニアンって名前だけでも覚えるとするか。

 春香と、もっと犬の話もしたいしな。


「この子のお名前はなんて言うんですか?」

「この子はね、ポッキーっていうの。これも孫娘が小さい時に付けてくれたのよ」


「『ポ』メラニアンだから『ポ』ッキーなんですね」

「きっとそうなんでしょうね」


「楽しいお孫さんなんですね」

「ふふっ、ありがとう。それじゃあ長居をして航平君との時間を邪魔しちゃ悪いから、そろそろ切り上げるわね」


「いえいえ、そんな」

「ふふっ、昔から、人の恋路を邪魔する奴は馬に蹴られて死んでしまえってね。それじゃあ楽しんでいってね」


 マダムは一礼すると、優雅に手を振りながら、ポッキーちゃんと去っていった。


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