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第79話 図書室の幼馴染

 その日の夜。

 春香との勉強会を終えた俺が、家に帰って制服から着替えていると、


「航平、ご飯できたって」

 今日もいつものように俺の家へと晩ご飯を食べにやってきた千夏が、俺を部屋まで呼びに来た。


 この時間になってもまだじんわりと昼間の熱気が残っているからか、千夏は長袖のシャツにハーフパンツという少しラフな格好をしている。


「サンキュー。すぐ行くよ」


 このまま会話が終わるのかと思ったら、千夏は部屋の入口のところで立ったまま話を続けた。

「今日は帰るの遅かったんだね」


「まぁ、な」

「春香と一緒だったの?」

「……そうだよ」


 千夏の前で春香の話をするのは、わずかながら緊張を感じてしまう。

 きっとそのうち慣れるんだろうけど、それはまだ少し先の話だろう。


「中間テストが近いけど大丈夫?」

 千夏が心配したように尋ねてくる。


「それなら大丈夫だ。今日も図書室で一緒に勉強してたからな」

「ふぅん。一緒に勉強、ね」


「な、なんだよ?」

「別に?」


「ちゃ、ちゃんと勉強していたんだぞ?」

「別に疑ってないけど」


 ぬぐ……っ。

 何も聞かれていないのに、言わなくてもいい余計な一言をつい言ってしまったぞ。

 後ろめたいことがあると、人の口って妙に軽くなるよな。


 でも言い訳するわけじゃないけど、ちゃんと勉強はしていたんだ。

 休憩時間にちょっと大人のキッスをしちゃっただけで。


「じゃあ伝えたから、すぐ降りてきてね。今日は航平の好きなミートボールスパゲッティだって。冷めないうちに食べよ」

「あ、ああ」


 俺が頷いたのを確認すると、千夏はすぐに階下へと降りていった。



 翌日の放課後。


「こんにちは航平、春香」


 昨日と同じように図書室へと繰り出した俺と春香は、図書室に入ったところで千夏と遭遇した。


「なんで千夏がいるし……」

 一瞬、嫌そうな顔をしたものの、すぐに笑顔に戻った春香に、


「中間テストの前なので、学校の図書室で勉強しようと思いまして。航平と春香もテスト勉強? だったら一緒にやりましょうよ」


 千夏はすまし顔でわずかに微笑みながら、そんな提案をしてきた。


「なんで千夏と一緒に。1人で勉強すればいいじゃんか。1人で来たんでしょ?」

「良き偶然に感謝ですね」


 しれっと偶然だと言っているが、どう考えても昨日の夜に俺に聞いたからである。

 つまり情報源は他でもない俺だった。


 言ったら春香が怒りそうだ。

 俺は情報源について、保身のために知らんぷりをしてしまった。 


「むー……」


「試験範囲は同じなんですから、一緒に勉強すれば分からない問題を教え合ったりできると思いませんか? ね、いいアイデアでしょう?」


「それはそうかもだけどぉ」


「それとも、私がいたらお邪魔かしら?」

「そんなの決まって――」


 肯定しようとした春香の言葉尻に被せるようにして、


「まさか神聖なる学び舎の、しかも人類の歴史そのものとも言える本を集めた図書室で、いかがわしいことでもしていたり?」


 千夏が極上の笑顔で言った。


「や、やだなぁ! いかがわしいことなんて、そんなことするわけないし! し、神聖なる学び舎の、しかも図書室で!」


 早口でそこまで言っておきながら、しかし春香は千夏の顔から露骨に視線を逸らした。


 おいこら春香。

 それじゃあ何かいかがわしいことをしていたって、自ら白状しているようなもんじゃないか。

 ある意味、正直すぎるぞ。


「ふーん、そうなんだ?」

 千夏が俺に対して意味ありげな視線を向けてくる。


「な、なんだよ? 俺たちはちゃんと勉強していたぞ」


 勉強はしっかりとしていた。

 勉強の合間に休憩がてら、ちょっとだけいかがわしいこともしちゃっただけである。

 よって嘘は言っていない。

 Q.E.D.(証明終了)


「そういえば、昔から航平って嘘つく時に、鼻の穴が少し拡がるよね」

「なっ――」


 俺は思わず自分の鼻を触ってから、しまったと気付く。

 これじゃあ嘘をついているって自白したようなもんじゃないか。


「こーへい……」


 やめるんだ春香。

 そんな可哀想な物を見る目で、俺を見るんじゃない。


 だが、もはやこれまでか。

 千夏は俺たちが何かやっていたことに、完全に気付いている。

 千夏と幼馴染の俺は、そのことを誰よりも理解していた。


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― 新着の感想 ―
[気になる点] 終着点はハーレムルートでよろしいですか? これまでのお話から航平君は春香ちゃんが好きで千夏も好き。 でも春香ちゃんの好意はなかなか受け入れなかったけど、千夏の告白には喜んでたよね。 二…
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