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第75話 春香のASMR(自律感覚絶頂反応)

「でもほら、ほとんど人はいないでしょ? いても離れたところとか、他の人から見えないところにいるし」

「まぁ、その方が集中できるよな」


 図書室はこれだけ空いているんだから、図書室に出会いを求める文学系の出会い厨でもなければ、敢えて人のいるところに行く必要はないだろう。


 休憩がてら、そんな話を小声でしていると、


「そういうわけだから、えいっ♪」

 春香が自分の椅子を俺の椅子にピタッと横付けすると、俺の右腕を抱くように抱えながら身体を寄せてきた。


 春香の柔らかい膨らみが俺の二の腕にむにゅりと押し付けられ、行き場を失ってふにょふにょふにょんと形を変える。

 いつもよりも強く、アピールするように押し付けられている気がするのは、きっと俺の気のせいではないだろう。


「お、おい、春香……」

「休憩中なんだし、いいでしょ?」


 さらに春香は自分の左手を俺の右手と絡めると、恋人つなぎで手を繋いできた。

 俺の指の間に、春香のほっそりとした指が割り入ってきて、女の子の柔らかい温もりを伝えてくる。


 腕を絡めて胸を押し付け、恋人つなぎをしながらくっつく。

 神聖なる学舎では、もはや言い逃れができないハレンチなくっつき方だった。


「学校の中はマズイだろ。誰かに見られたらどうするんだよ?」

「それならさっきも言ったけど、周りには誰もいないし、誰も見てないよ?」


 視線を周囲に向けたの春香の動きにつられるようにして、俺は改めて周囲に目をやった。


 今、俺たちがいるのは図書室の奥まった角の辺り。

 そもそも図書室利用者は俺たち以外にはほとんどおらず、背の高い書架が並んでいるので他の場所からも死角になっている。

 俺たちから見えるところには人っ子一人いやしなかった。


「ねっ? 今はわたしとこーへいの2人きりだよ?」

 春香が俺の耳元に口を寄せて、ゆっくりとささやくように言った。


「ひぁッん――!?」

 クジャクの羽でやわやわとさすられたような、ぞわぞわとした得も言われぬ感覚が俺の背筋を駆け上がっていって、俺は思わず情けない声を上げてしまった。


「わっ、なんか今、こーへいの反応が可愛いかったし♪ 耳元でささやかれるの、気持ちよかったの?」

「……ノーコメントだ」


「ふーん、そう……。こーへい、好きだよ♪ すっごく好き♪ 大好き♪」


 素知らぬ風を装った俺の耳元に、再び口を寄せた春香が、蚊の鳴くような小さな声で愛の言葉をささやいた。


「ふわっ!?」

 まるでASMR(自律感覚絶頂反応)のように蠱惑(こわく)的で煽情(せんじょう)的で、さらには耳にかかる吐息が切ないほどにふしだらで、


 ゾワゾワっ、ブルブルっ。


 俺はどうにも堪らない気持ちになってしまった。

 血流が加速し、心臓がドキドキドキドキと早鐘を打ち始める。

 やばい、これ超気持ちいいんだけど。


「こーへい、大好きだよ♪ 超好き♪ 世界で一番こーへいが好き♪」

「くフ――っ」


「ねぇ、こーへい? キス、したいな? キスしちゃ、だめ?」

 俺をからかうように、わざと耳に吐息がかかるようにささやき続ける春香。


 ここは神聖なる学舎だった。

 良き大人になるために勉学やスポーツに励む高尚な場所であった。

 決してキッスをしたりイチャついたりするような、ハレンチな場所ではなかった。


 だがしかし。

 果たしてこの状況で、文科省のお役人が現場も見ずに会議室で考えたようなクソみたいな建前を理由に、据え膳食わずに生き仏になる、そんな悟りを開いた男子高校生がいるだろうか?

(いやいない。いる訳がない)


 でも学校でするのは今日だけな!

 今日だけだからオッケー!


 と、俺は自分の心に一応の言い訳をすると、


「ダメ……じゃない」

 俺は周囲を見渡して、改めて誰も見ていないことをしっかりと確認してから、


「ん――」

 耳元に顔を寄せていた春香に顔を向けると、そっと優しくキスをした。


子犬が紡いだ恋物語――


子犬を助けたらクラスで人気の美少女が俺だけ名前で呼び始めた。「もぅ、こーへいのえっち……」

第2巻


著/マナシロカナタ

イラスト/うなさか

ブレイブ文庫


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2023年4月25日に発売されました!

応援のほどよろしくお願いいたします(ぺこり

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