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第71話 朝のお散歩デート(2)

「っていうか、前もこんな話をしたような?」

「うんうん、したした」

「だよな」


「でもカップルになったから、また仕切り直しっていうか?」

「お、素敵な考え方だな」

「でしょ?」


 同じことをしても気の持ちようで変わる。

 まさに春香がさっき言っていたことだ。


 ただまあ?

 一つだけ難点があるとすれば、朝から面と向かって『カップルになった』と言われるのは死ぬほど恥ずかしい。


「ああ、そういやさ」

「なになに?」


「玄関を開けたら門の前で待機してたみたいだけど、もしかして結構待ってたか? 待たせないようにって思って、約束の時間より少し早く出たはずなんだけど」


「ううん、ちょうど今来たとこだよ?」

「とてもそうは見えなかったんだけど」


「えっとね。なんとなく、こーへいが出てきそうな感じだったから家の前で出待ちしてたの」

「出てきそうな感じって、そんなのわかるもんなのか?」


 春香の答えに、俺は少しびっくりしてしまう。

 もしやカップルになって、俺と春香の心が通じ合うようになってしまったとか?


「意外とわかるよ? だいぶ温かくなってきたから窓も開いてるでしょ? この時間だと周りも静かだから、階段を下りる音とか生活音が結構聞こえてくるもん」


「なるべく音を立てないように動いてたつもりだったんだけどな」

 窓が開いてると、結構聞こえちゃうもんなんだな。


 あと、さすがに心は繋がってはいなかったようだ。

 やれやれ、口に出さなくてよかったよ。


「それにこーへいが出てくる直前に、ピースケがすごく元気に尻尾を振り始めるの。それを見たら、あ、もうすぐこーへいが出てくるんだな、って」


「ピースケのやつ、俺の波長かなにかを感じとってるのかな? 動物的な直感とか?」

「かもねー。こーへいセンサーだねー」


 俺と春香は顔を見あわせて小さく笑い合った。


 ああ、いいなぁ。

 こういうなんでもない会話で朝から春香と――彼女と楽しくおしゃべりする。


 ほのぼのとした会話を楽しみながら、お互いの存在を確かめあうのだ。

 もはや人生に幸せしか感じないよ。

 人生って素晴らしい!


「さてと。立ち話もなんだし、そろそろ行くか。ピースケも早く散歩に行きたそうだしさ」


 さっきからピースケの動きがかなりせわしない。

 俺たちの周りでうろうろしながら、そわそわと何度も見上げてくる。


「うん♪ 行こっか♪」


 俺と春香とピースケは、澄み渡る青空の下、朝の散歩に向かった。


 元気いっぱいなピースケのリードを握る春香と並んで、川沿いの土手を歩いていく。


 カップルになりたてということもあって、最初は愛だの恋だのラブい話ばかりだったんだけど。

 しだいに学校のこととか、友だちのこととか、今までと変わらない普段通りの会話に変わっていった。


「そういえばもうすぐ中間テストだよね」

 予定時間の半分くらいを過ぎたところで、春香が言った。


「今日が火曜日で、テストは来週の月曜からだから、もう1週間を切ってるんだよな」

「最近はいろいろあったから、ちょっと実感ないんだよね」

「実を言うと俺もだよ」


 春香の言ういろいろってのは、きっと『恋愛的ないろいろ』ってことだろう。

 千夏のこととか、すれ違ったこととか、すったもんだの末に春香と付き合うようになったこととか。


 俺も春香も、ここ数日はすごく濃密な時間を過ごしていた。


 そもそも俺と春香のとの出会いからして、千夏に振られて落ち込んでた俺が、車道に飛び出そうとしたピースケを我も忘れて助けたことがきっかけだった。

 わずか2カ月足らずの間の、だけど人生で一番ってくらいに濃密な時間。


 だけど定期テストという空気の読めない(やから)は、そんな俺や春香の気持ちや悩みなんてお構いなしに、問答無用でやってくる。


「テストに追われるのは、学生の悲しい定めだよねー」


「社会人の方がノルマとかもあってしんどいのは間違いないだろうけど、定期テストがあることに関してだけは、学生の方がしんどいよな、間違いなく」

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