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第63話 俺の、か、カノジョはなんて可愛らしいんだろうか?


 その日の帰り道。

 学校を出る時は、春香はいたって普通に隣で歩くだけだったものの。


「えいっ♪」


 学校を出て少しして他の生徒がいなくなった途端に、春香は俺の腕をギュッと抱えるようにしてくっついてきた。


 朝、登校した時と同じようにピタッとくっついた春香の身体から、女の子特有の柔らかさとぬくもりが伝わってくる。


「春香、ちょっとくっつき過ぎじゃないか?」

 嬉しさとともに気恥ずかしさがこみ上げてきて、なんとも心が落ち着かない俺。


 だがしかし。


「付き合いたてなんだからいーじゃん。もっともっとこーへいとくっついていたいのに、学校では我慢してるんだよ?」


 可愛い上目づかいでそんなことを言われてしまったら、ノーと言えるわけがないよな!


「人がいない時だけだからな?」

「まったくもう、こーへいは照れ屋さんなんだから。しょうがないから、それで我慢しておくね」

「へいへい、どうせ俺はヘタレの航平君ですよ」


 とかなんとか言いつつも、実を言うとまんざらでもない俺だったりする。


「拗ねない拗ねない。普段はヘタレだけど、どうしようもなくなった時はすっごい本気を出して一発逆転しちゃえるのが、こーへいのいいとこなんだから」


「……それ、褒めてるのか?」

 切羽詰まるまでは基本ヘタレってことだよな?


「もちろん、褒めてるしー」


 春香が楽しそうに笑って言う。

 その表情や声色からは、馬鹿にしたような雰囲気は微塵も感じられない。

 春香はきっと、俺のダメなところも全部含めて好きになってくれたんだろう。


 ふぅ、やれやれ。

 俺の、か、彼女はなんて可愛らしいんだろうか?


「そっか。じゃあこれからも春香の期待に応えられるように、頑張らないとな」

「うんうん。これからもカッコいいこーへいをいっぱい見せてね♪」

「おうよ」

 期待のこもった春香の問いかけに、俺は満面の笑みで頷いたのだった。



 腕を抱きしめられるように組んだまま、取り留めもない話をしながら帰りの通学路をしばらく歩いていると、一陣の風がヒュウっと爽やかに駆け抜けていった。


「んー、今日は風が気持いいよねー」

 風で乱れたのだろう、片手で軽く髪を整えながら春香が弾んだ声で言う。


「五月風って言うだけはあるよな。まだ川はだいぶ向こうなのに、清々(すがすが)しい風が吹いてくるよ」


「逆にこういう時は、川沿いは強風警報なんだけどね」

「それな」

「あ、わかっちゃう」

「もちろん」


 強風警報と言っても、気象庁から発令されるガチ警報という意味ではなく、単に強調して言っているだけに過ぎない。

 でも思わず『警報』と言いたくなるくらいに、この時期の川沿いでは、爽やかを通り越してかなり強い川風が吹く。


「洗濯物が落ちたり飛ばされないように、注意しないといけないんだよねー」

「川沿い住宅のあるあるだよな。よく乾くのはいいんだけどな」


「飛ばされないようにって、しっかり洗濯ばさみで留めてたら、そもそも物干し竿ごと落ちたりとかするし」


「あれなぁ。俺も小学校の時に一回、リアルで落ちる瞬間を見たことあるんだけどさ」

「うわっ、リアルで見たんだ。どんなだったの?」


 腕を組んだまま興味深そうに聞いてくる春香。


「ちょうど今くらいの時期だったかな。小学3年生だったと思う。休みの日に家を空ける親に頼まれて洗濯物を干してたんだけど」

「ふんふん」


 目新しいおもちゃに興味津々な子犬のような可愛らしい顔の春香に、俺は記憶を思い起こしながら話し始めた。


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