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第11話 「こーへいのばーか! こーへいのおたんこなす!」

「水族館来るのって久しぶりかも! 小学校の時にお父さんに連れて行ってもらった以来かな? 誘ってくれてありがとうね、こーへい!」


「いいって、元は親にもらったタダ券だし」


 日曜日、俺と春香は近くの水族館に遊びに来ていた。


「でもそれでわたしを誘ってくれたから、ありがとうだもん♪」


 そう言ってにっこり笑った春香は、水族館の暗がりと淡い光のおかげで、とても幻想的に俺の目に映っていた。


 普段は下ろしているゆるふわの髪は、今日はアップでお洒落にまとめられている。


 いつもは見えないうなじが、白くて華奢で綺麗なのがやたらと目についてドギマギするくらいに大人っぽかった。


 あとスカートが結構短くて目のやり場に困る……どうしてもチラッと見える太ももが気になっててしまう……。


 俺がそれとなく尋ねてみたら、『スカートの短さは女子の気合に比例するの!』って言ってたから、かなり気合入ってるんだろうな。


 よほど水族館に来るのが楽しみだったに違いない。


 こんなに喜んでくれるなんて、春香を誘ってほんと良かった。


 親の仕事の関係でちょくちょく割引券やタダ券をもらう俺は、今まではずっと千夏と一緒に遊びに行っていた。


 多分親は、今回も千夏と行くものだと思って渡したのだろう。


 けれど最近こそだいぶ前みたいに話せるようになったとはいえ、残念ながら振られたばかりの幼馴染を水族館に遊びに誘うような、そんな超合金の鋼メンタルは俺にはなかった。


 代わりに――という言い方は失礼すぎるな。

 千夏以外で真っ先に思い浮かんだのが、春香の顔だったんだけど、


「俺の方こそ誘ってよかったよ。こんなに喜んでくれるとは思わなかった」


 春香を誘った俺、グッジョブだな。


「あ、もしかしてこーへい。今、子供っぽいやつだなとか思ったでしょ?」


「いや思ってないよ」


 春香みたいな素敵な女の子に、幼馴染にすら相手にされない俺ごときがそんな大それたことを思うはずがない。


「ほんとかなぁ?」

 そう言いながら春香は顔を寄せると、見上げるようにして俺の顔を覗き込んでくる。


 うっ、ちょっと近い……無防備すぎるぞ……上目づかいもドキドキするじゃないか。

 俺は跳ねる鼓動を必死に抑える。


「ほんとだよ。それに感情を素直に出す女の子って一緒にいるとこっちまで楽しくなるし、俺は好きかな」


「す、好きっ!?」

 春香がぴょこんと小さく跳びあがった。


「え? ああごめん、ちがうんだ! 今のは特定個人がどうのってわけじゃなくて、そういうタイプがってこと」


 俺は慌てて言い訳をした。


 危ない危ない。

 もう少しで春香にイタい男子だって勘違いされちゃうところだったよ。


 『は? なにそれ? 休みの日に一緒に遊んだだけで、もう彼氏(づら)? ありえないんだけど? しかもタダ券だし』とか、春香に思われたくはないもんな。


「でもそーゆー女の子を、こーへいは、好、好、す、す……き、嫌いじゃないんだよね?」


「まぁ、な」


「そっかぁ、えへへ……嫌いじゃないかぁ……」


 こんな俺の意見でも()められるとやはり嬉しいのか、両手の平を首筋に当てて嬉しそうに微笑む春香はとても可愛らしく。


 もし俺が幼馴染に振られて心に傷を負ったパッとしない冴えないヘタレでなければ、今度こそ俺に気があると勘違いして告白してしまっていたことだろう。


 それに俺はまだ千夏のことが忘れられない……って、何やってんだ俺。


 女の子を誘って遊びに来ておいて、なのに他の女の子のことを考えるなんて最低すぎるだろ。


 俺は痛々しい男子の妄想と、千夏の存在を頭の中から追い出した。


「そろそろイルカショーがはじまるから見に行かないか?」


「あ、行く行く! 最前列――は濡れちゃいそうだから、濡れない程度に前目で!」


「……5列目くらいかな? その辺はスタッフに聞いた方が早いか」


「もし濡れそうになったら、こーへいがわたしのこと守ってね? えへへ、なんちゃって?」


「え? ああ、ごめん。スタッフの人を捜しててよく聞こえなかった。もう一回言ってくれないか?」


「ぅぅ――っ!! こーへいのばーか! こーへいのおたんこなす! ほら、はやくイルカショーに行くんだしっ!」


「なに急にキレてんだ……?」


 とまぁそんな感じで、その日は一日春香と水族館でデート(だよな一応?)を、楽しんだ俺たちだった。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 春香ちゃんのリアクションがいちいち可愛いです。 好意がダダ漏れなのが良いな。
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