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体験入部

ある年の春。

私はついに中学一年生になった。

今まで徒歩で通学していたのが自転車通学に変わり、小学生の時とはまた違った地域の人が同じ中学に通うことになる。何もかもが新しく感じる入学式だった。

その日の午後、

「君たちにはこれからどの部活に入るか決めてもらう」

先生はそういった。

「どの部活に入ろう?」「俺サッカー部!」「吹奏楽部入ろうよ」

周りがざわつきはじめた。

今まで、化学部、将棋部、生物部と小学生の時は見事に室内系の部活にしか入っていなかった私は特に入ろうと思う部活はなかったのだが、結局は室内系のどれかに落ち着くだろうと考えていた。

「お前どの部活入るんよ」

すぐ後ろの席から声がした。

この男の名前はケート。

幼稚園からの付き合いであり、小学生の頃からバリバリの体育会系であり、運動会のかけっこでは毎回1番をとるタイプである。

まだ決めていないと伝えると

「放課後の部活体験いこうぜ」

半ば強引に誘われた。

断る理由もなかったので私も放課後の部活体験に行くことになった。

そして放課後、皆がそれぞれの部活を見に行く中、ケートと私はとりあえずグラウンドに体育会系の部活を見に行くことになった。

グラウンドに向かう途中、

「俺もグラウンド行く!」

トミーが声をかけてきた。

この男も幼稚園からの付き合いであるが、別段仲が良かったわけではない。

そういえばトミーも同じクラスだったのかと思いながらも結局は3人で部活体験に行くことになった。

グラウンドに着くと

「よっしゃこーい!」「パス回せ!」

野球部やサッカー部が練習を始めていた。

みんな張り切ってるなと思いながら私はその光景を一歩引いたあたりから眺めていた。

事実部活体験とはいうものの、参加しているのはすでに入部を決めているごく一部の生徒だけであり、他のほとんどは横でそれぞれの部活を見学しているといった状態であった。

そんな中、ケートはすでに陸上部の先輩に混じって練習に参加していた。

今まで室内の部活しかしてこなかった私は、体育会系独特の気迫に押されながら、グラウンドの隅の方で小さくなっていた。

「みんな頑張ってるなー、とりあえず野球部見に行くか!」

トミーがグラウンドの端にある鉄棒にぶら下がりながら声をかけてきた。

すぐそばでは野球部がノックの練習をしている。

きつそうな練習をしているなと思い、見てるだけでよいとトミーに伝えると、

「じゃあ俺行ってくるわ!」

鉄棒からぴょんっと手を離し、颯爽と野球部の方に走っていった。

グラウンドにきて1時間、未だに隅で小さくなっていた私はやっぱり室内の部活を見に行こうとグラウンドを後にしようとした。

「おーい、今から50m走始まるからお前もこいよ!」

突然の呼びかけにびくっと体が強張った。

ケートである。

すでに陸上部の練習に参加していたケートが私に声をかけてきた。

室内の部活を見に行くからと断ると、

「いいから!一本だけ走ってみよ!」

強引に腕をひかれ、気づくと50mのスタート地点に立たされていた。

「位置についてー」「よーい」

スタートの掛け声が聞こえてきた。

まだ走るって言ってないんだけどなどと思いながら突っ立っていると、

「どん!」

スタートの合図がかかる。

人間の本能なのか、合図が聞こえると自然とみんなと一緒にスタートをきっていた。 

スタートをきったのはいいものの、今までスポーツはおろか走ることすらまともにしてこなかった私が速く走れるはずもない。

とりあえず足を回してはみるが、みるみる周りから離されていく。

顔をあげるとすでにゴールを通過している人が前方に見える。

ケートもその1人である。

まだ終わらないのかとそれでも必死に足を動かしていたが、急に目の前に地面が近づいてくる。

ドンッと音がすると私は地面に倒れていた。

ゴール直前でこけてしまったのだ。

気づくと陸上部の先輩達が駆け寄ってきていた。

「大丈夫?」 「ケガはないか!?」

心配してくれる先輩達。

ありがとうございます、大丈夫ですと言いながら立ち上がろうとすると、

「どうだ!楽しかったか?」

心配とは全く違った声が聞こえてきた。

ケートだ。

これで楽しかったらドMだろと思いながら、軽く擦りむいた膝についた土を払いながら顔を上げると、そこにはケートの満面の笑みがあった。

「これでお前も今日から陸上部だな!」

こうして私は陸上部に入部することになった・・・。

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