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第1話 結局犬も食わない奴

 この物語は結婚を前提に同居をしている『声優を職業としている彼氏くん』と『乙女ゲームオタクの彼女』の【のほほんとした日常生活】を描いた作品です。声優業界がどうとかの専門的要素、ファンに隠している恋愛だとかの要素はありません。


 色々設定がゆるいので、同じくゆるい気持ちで読んでください。

第一話 結局犬も食わない奴


 ああ、いつもの奴だ。

 このモードになった彼女は、何を言っても俺の事を無視する。


 結婚を前提に交際している彼女と、同居してようやく半月が経った。まだまだお互いの生活環境に慣れていない。俺は同居なしで籍を入れてもよかったが、ちゃんとリズムをつかむ為にもと彼女の提案で同居する事になった。

 できるだけ彼女の気持ちは尊重したいが、コレばかりは我慢できない。前もって問題ないかの確認はあったものの、流石に度が過ぎてる。いつものように耐えれば終わる・自分が慣れてしまえば良いという気持ちと、一緒に住む以上は本当にやめて欲しい事はちゃんと言わなければ長続きしないという気持ちがせめぎ合う。



 どうすれば良いのかと考えば考える程に、気持ちが焦る。毎回必死に耐えているので、かなりのストレスになっている。


 「あのさ。ねえ、本当に真面目に話させて。」


思わず、口から出てきた言葉。パソコンを凝視していた彼女も相当きていると察したのか、パソコンを閉じてこちらを向いた。


 「頼むからさ、本当に頼むからさ・・・・俺が出ているBLゲームを本人の前でするのやめてくんない!?勿論、仕事には誇りを持っているよ!沢山の人に楽しんでもらいたいよ!?でもさ、プライベートで目の前でされるのは複雑なんですけど!」

 「じゃあ、リアルで私にデレんかい!!貴方がデレないから、代わりにこっちでデレてもらってるんじゃい!しかもこれ、定価4000円行かないのに、貴方の数少ないBLだから5万かけてオークションで競り落としたわい!!」


・・・何も言い返せなかった。むしろ、もっと彼女を大切にした方が良いと反省した。


ーーーーーーーーーーーーーーーーー


 後日。その事を高春に話したら、無言で肩に手を置いてため息をつかれた。

 「うんまあ・・・めちゃくちゃ愛されてるじゃん、変な方向に。で、どの作品だ?」

 「お前とのだよ。」


高春、フリーズした。こいつはいつも、期待通りの反応をしてくれる。


「あのさ・・・今日、お前んちに行くのやめて良い?どのツラで、彼女さんに会えば良いんだよ!というか、わざと自分ち家の前で言ったよな!?」


新しい家を見たい言ってきたので、ついでに彼女を紹介しようと、高春を我が家に招待する事になった。それが決定してすぐに高春との共演作品の話題が出てきたので、どうせならと家の前に来たタイミングで言ってみた。

 高値で取引される程に自分も売れてきたのかと鼻高々に思ったが、どうやら高春が出演しているからだったらしい。悔しかったので、ちょっと八つ当たりしてみた。


 部屋の間取は3LDK。俺の部屋と彼女の部屋は別にあり、一部屋はお互いの仕事部屋として交代で使う事にしている。当初は2LDKの都心に近いマンションだったが、俺が台本を覚える時に生活音が聞こえると落ち着かないので、かつて一番住みたい街の駅前徒歩5分少々の築年がそれなりの所にした。


 「初めまして、山本高春です。」

 「あ、はい。存じております。」

 「・・・ですよね。」


苦笑いする高春。思わず咳払いをして、注意を促した。その様に彼女は察し、顔を真っ赤にする。


 「ちょっと!まさか、あの話をしたの?」

 「どんな人かというのを、一番表している出来事だったからな。」


高春は舞台俳優として活動しており、声優活動はあまりしていない。ストレートプレイの演劇が好きな彼女は、舞台俳優としての高春の舞台を何度か見たことがあるそうだ。彼女の「存じている」は、舞台俳優として存じているという意味だったのは分かっていたが、ちょっと仕返ししてみた。


 「本っっ当に、こいつ性格ひん曲がっているでしょう?ガキだよな。」

 「激しく同意します。」

 「ちなみにですけど、彼女さんってコイツのファンだったんですか?」

 「付き合ってからファンになった、という感じですかね。前の職場の同僚が大学時代の同級生で、所謂『知人の紹介』っていう奴です。」


その流れで出会いの話をする事になった。彼女の話は若干綺麗になっているので、所々で訂正を入れた。


―――――――――――――――――


 今から、3年程前。

 大学の同窓会があり、久々に参加をした。当時はまだバイトをしながら活動していたのもだがテレビアニメのレギュラーがなかったので、胸を張って声優をしているとは言えなかった。適当に会社員をしていると周囲をごまかしている所で、同じ演劇サークルに居た柏木に声をかけられた。コッソリと会場の隅に連れていかれ、ある雑誌を見せられた。表紙に俺の芸名である「櫻木遼」が書かれている、ゲーム系雑誌。RPGのソシャゲで重要な役を持っていたので、顔写真付きでインタビューを受けた時のものだ。


 「これ、お前の事だろ?たまたま雑誌見て、すんごい驚いた。俺、めっちゃ重課金してんだよね。中々お前のキャラが出なくてさー。」

 「あの、出来れば周りには、」

 「勿論言わないよ。だからこうして、コッソリ話しているんだろ?まあ櫻木遼を検索したらお前の顔出てくるし、気づいている人は気づいているじゃないか?」


エゴサは怖くてしないので、まさかそこまで知られているとは思わなかった。


 「良ければさ、連絡先交換しない?あ、情報を誰かに売るとかは絶対しない。純粋に、ゲームの話をしたい。」


柏木は学生時代からかなりのゲーマーだったので、俺の出演作をしてくれているのが嬉しかった。本来なら断る所だったが、この時は酒も入っていた事もあり、思わず交換してしまった。

 同窓会の翌日、早速待ち合わせの連絡が入った。適当な事を言って断ろうかとも思ったが、もし何か悪評を流されたら怖いと思ってしまい、仕方なく受ける事にした。

 最初は居酒屋でと提案されたが、前回のように酒のある席では油断をしてしまいそうだったので、某大手のコーヒーショップにした。俺が警戒している事を察したようで、深追いはしてこなかった。

柏木は在籍時に上演した公演台本を持参してきて、当時の苦労話に花を咲かせた。結構なまでに色々な事を忘れていて、色々覚えている柏木の事を感心した。

 店に入って2時間近く経った所で、柏木のスマホに通知が入った。その通知を見た瞬間、辺りをぐるぐると見まわす。ふと出入口付近に持ち帰りの紙袋を持った女性がこちらを見ている事に気付いて教えると、柏木は女性を手招きした。女性は最初申し訳なさそうに手を横に振っていたが、柏木がしつこく手招きして店内でも目立ち始めたので、申し訳なさそうにこちらに来た。


 「お取込みの中、すみません。たまたま見かけたので、思わずメッセージを送ってしまって・・・・」


その女性が、彼女だった。後日聞いた所、俺が相当なまでに迷惑そうな表情で彼女の事を睨んでいて怖かったそうだが、こちらの内心としては怯えていた。


 「悪いな。コイツ、相当なコミュ障で。」

 「知らない人が来たら、誰だって怖いですよ。あの、申し訳ないんですがケーキを買ったので・・・」

 「じゃあ、また明日。お疲れ様。」


彼女が去った後、柏木は大きくため息をついた。


 「もうちょっとさ、愛想ぐらいあってもいいじゃないか。」

 「だって、どういう人か知らないし・・・」

 「なら、彼女がどういう人か知っているなら大丈夫なんだな?」

 「彼女に限らず、だけど。人見知りなんだよ。」

 「それは人見知りじゃなく、俗にいうなんちゃらシールドだよ。昔も今も、中二病な気があるよな。まさかだけど、結婚はまだなんだよな。」

 「結婚どころか、彼女もいない。仕事が安定しないから、そういう人を作るのも億劫というか。」

 「申し訳ない言い方になるけど、お前って遅咲きタイプだよな。テレビアニメで村人A的な役が多くて、レギュラーもまだだろ?」

 「こんな性格だし、個性がないってよく言われる。」

 「じゃあリハビリとして、彼女の事をよく知ってみないか?俺達と同級生だし、確かゲームやアニメには疎いはず。海外ドラマはよく見るって言ってるけど、吹替もしてないだろ?」

 「いや、端役なら少しは。」

 「でも、吹替を誰がしているかまでは調べなさそう。彼女、結構大雑把な所があってさ。おっちょこちょいな所もあるけど、前向きで明るくて。お前の事も受けてくれそう。」

 「・・・もしかして、今日はその話をする為に?」

 「違うよー。本当に、たまたま。今、思いついた。」

 「じゃあ、断る。」

 「なら、どうすれば了解するんだ?どういう条件であれば良いとか、ちゃんと話せよ。」

 「条件も何も、俺にそういった気がない。」

 「見た目が好みじゃなかったとか?」


正直『遅咲き』と言われた事にムッとしていて、意固地になっていた。色々が面倒と感じてしまい、とにかくこの話題から逃げたかった。でも、柏木は逃げなかった。

 後から柏木に聞いた話によると、学生時代から俺の事を心配していたらしい。技術や才能はあるが、コミュ障故に就職ができるのかと心配していたそうだ。在学中から養成所に通い始めたと聞いて、そこでコミュニケーション能力を身に着けないかなと期待したが一向に改善せず、そのまま就活せず声優の道に進んだ事で、その内路頭に迷うのでは?とかなり本気で思っていたそうだ。柏木は良いやつだとは思うが、かなりお節介だとつくづく実感する。


 柏木の提案を、仕方なく受ける事にした。適当にあしらえば、彼女は僕の事を嫌いになって、彼女の方から離れてくれると思った。

 でも結果としては、彼女はちゃんと僕に向き合ってくれ、彼女の方から近寄ってきてくれた。


 その結果、彼女は重度の乙女ゲームオタクになった。


 乙女ゲームのお仕事は結構いただいていて、最初は攻略対象外のキャラクターばかりだったが、あるキャラクターに人気が出て、ファンディスクで特別エピソードが製作された。それをキッカケに攻略対象キャラクターもやらせてもらう事が増え、その界隈では少しばかり名が知れていた。

 俺が中々心を開かないので、それならばと俺の出演作を片っ端からプレイしたらしい。古い機種でしか発売されてない作品も、わざわざ中古でその機種を購入してプレイをしたそうだ。

 俺の事に興味がなかった彼女が、一生懸命俺の事を知ろうとしてくれている。勿論元々ファンの人たちの存在は嬉しいが、目の前で彼女が段々と変化してく彼女の様を見るのが楽しかった。

 彼女には、俺から告白した。あんなに怪訝そうな顔で「新作の練習ですか」と言われるとは全く思わなかったが。


―――――――――――――――――


 「確かに仕事では、普段言わない事も沢山言うからねぇ。コイツは大切な事ほど言わないから、代わりに乙女ゲームのキャラにデレてもらいたいという気持ちは分からなくもない。ちなみに、コイツが出ている以外の作品もするの?」

 「攻略サイトでルート調べてサクッならします。」

 「うわー。作業感半端ない。」

 「でも、ファンディスクまで買うのは櫻木遼の出演作だけです。」


真顔でサラッという様は、逆に恐ろしく感じる事がある。今では、自分で言うのもなんだが、重度の櫻木遼ファンと化している。


 「その結果、裏名まで調べ上げてゲームを入手するってすごいね。やっていたゲームって、そのー、年齢制限ある奴だよね?BLで共演ってその一作だけだし、俺も裏名だったはず。」

 「相手役が山本さんだったって知ったのは、遊びに来ると聞いた時でした。」

 「・・・何で言うんだよ。」

 「そういう人、ですよね。」


2人が睨んできたが、まあ俺的には結果面白かったので、素知らぬフリをした。

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