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96.ハークライツ③


「あ、姉者!急いで迎えに行ってくれと言うから全速力で往復してきたが、そんな緊急事態になっておったのか!何故教えてくれんかったのだ!?」


「レイル、すまない。お前の事だから、真実を知れば平常心ではいられなかっただろう?」


「う、そうかもしれんが…」


「とにかくそういう訳で今は時間が無い、早くシュン殿を父上の元へ」


毒…か、解毒の魔法なら…キュアーで治るのか?しかし、それなら俺でなくても普通に使い手がいそうだが…。エデンで何とかなるか…?


俺達はサリオスに案内され、話に出てきた救護室へ向かう。神殿全体は途方も無く広いようだが、急ぎ足で歩いていると程なくして救護室へと到着した。


何人もの怪我人が病院用の狭いベッドに横になって並んでいる。


後でエデンでもかけてやるか。


そんなことを考えながら、俺はハークライツの元へ辿り着く。


「うっ!痛つっ!サ、サリオス様、そちらの方々は…?」


全身包帯だらけのライラックが、俺達の訪問に気づき上半身を起こす。


「こちらは我らの仲間、シュン殿とその一行だ。シュン殿、父上を助けてやってはもらえないだろうか…?」


「俺は医者でもなんでもないので、どこまで出来るか分かりませんが、やれるだけのことはやってみましょう」


「宜しく頼む」


俺はハークライツに解毒の魔法をかける。


「キュアー!」


ヒールより緑の濃い光がハークライツを包み込む。


しかし…。ハークライツは目を覚さない。


「解毒魔法が効かない…?」


「シュン殿、解毒の魔法なら我ら竜人の中にも使い手がいる。そちらも試してみたがダメであった…」


ライラックが悔しそうに話す。単純な状態異常の毒では無いという事か…。


「そうですか…、それならこれは!」


俺は次に、とっておきの回復魔法を使う。


「エデン!」


シュワワワワーーーー!


光のサークルが救護室の一画に展開され、範囲内に入っていたライラックの傷がみるみる回復する。


「おぉお!これは一体…!」


ライラックが自身の怪我が一瞬にして治った事に驚き、ハークライツに目を向けるが…。


「父上!」


サリオスの呼びかけも虚しく、ハークライツの目が開く事はなかった。


「…シュン」


ローザが慰めるように俺の名を呼ぶ。


「ダメか…」


クロノ闘技大会でシュトロームのナイトメアからバルガスを救った一件から、精神的なダメージなら、と自信があったのだが…。

その場にいる者全員が落胆の色を見せる。



ん?待てよ…



俺はもう一つ有効そうな魔法があった事をふと思い出す。


「ちょっともう一つ試してみて良いかな?」


「…!まだ何か策があるのか!?」


「また失敗して落胆させてしまうかもしれませんが…」


「構わない!是非やってみてくれ!」


「分かりました。では…」


思えばこれ初めて使うな…。まぁ上手くいかないにしても悪化することはないだろう!


「治療Ⅱ!」


魔法の発動と同時に手を向けた先のハークライツが光に包まれ、その光が徐々に黒く曇って行く。


黒いモヤのようになったその光は、ハークライツから離れ一瞬にしてパチンコ玉程の真っ黒な玉に収束したと思うや「ポンッ!」という軽い音と共に消えてしまった。


『…』


沈黙がその場に漂う。


「シュ、シュン殿、今のは一体…」


「えーっと…」


「くっ!むぅう…。げほごほ!」


「!…父上!」


「元帥!信じられない!目を覚まされた!早くラウダ大将にも連絡を!」


つきっきりで診ていた看護婦が、救護室で仕事をしながらこちらの様子を窺っていた他の看護婦達に声をかける。


「父上!父上ッ!」


サリオスが人目も憚らず、寝ているハークライツに抱き着き嗚咽を漏らす。


「ごほっ、なんじゃサリオス。お前に抱き着かれるのは嬉しいが、少し重たいぞ!」


「…バカバカ!パパったら!すっごく心配したんだからね!」


サリオスが顔を真っ赤にしてハークライツの分厚い胸を叩きながら泣いている。


「こらこら、人前でなんて口の聞き方だ。大将としての威厳が大切だといつも言っておろうが」


「父上…良かった。本当に、良かったぞい」


「レイル、すまん。お前にも心配をかけたようだな」




「元帥!申し訳ありませんでした!このライラック一生の不覚でしたっ!」


元気になったライラックが怪我人が着る寝間着のような服のままその場に立ち90度腰を曲げる。


「ライラックよ…今回は儂も不覚を取った。お前たちには申し訳なかった。…他の十騎士達はどうした?」


「それが…」


ハークライツは、ライラックの悲痛な面持ちから全てを察する。


「くっ!…そうか。彼らにも申し訳なかった。こんな見え透いた罠にかかってしまうとは…」


上半身を起こしたハークライツの固く握った両手の拳が怒りで震えている。


と、その時、ガチャガチャと大きな足音が聞こえて来た。


「ハークライツ様!ご無事で⁉︎」


重鎧を着た威厳のある竜人、ラウダが駆けつけて来た。


「ラウダ。すまぬ。心配をかけたな」


「いえ、良かった…。本当にご無事で良かったです」


ラウダは本当に心から安心したように息を吐いた。


「む?貴様達は何だ?見ない顔だが…」


安心しきったラウダが顔を横に向け、俺と目が合う。


「ラウダ、父上、彼が先日お話ししたシュン殿です。この方が竜人では誰も治せなかった父上の毒を治してくれたのです」


ラウダは一瞬信じられないような顔をした後、訝しげに俺を見る。


「初めまして。シュンと言います。こっちは俺の仲間のローザとシュトローム、それと、ご存知かと思いますが、ユーバーです」


ローザとシュトロームが会釈する。


「おお!そなたがサリオスが話していたシュン殿か!まさかこのような形で会う事になるとは。いや、今回は大変助かった。礼を言う。ユーバーも久しぶりじゃな」


「お義父さま、ご無沙汰しております。現在のドラゴニアの様子は聞いております。ご無事で何よりでした」


「ああ、お前達にも心配をかけてしまった…。すまなかった」


「いえ」


「それにしても今回使われた毒は何だったのかしら?」


「さあな、革命軍の医療関係者では突き止められなかった。シュン殿が解毒の魔法を使えて本当に助かった。俺からも礼を言う。ありがとう」


「いえいえ、お役に立てたようで良かったです」


先程は懐疑的な目を向けていたラウダも、ここへきて警戒を解いてくれたようだ。



「しかし姉者よ、シュン殿なら父上を救えるとどうして分かったのじゃ?」


「ふふ、夫を信じる妻の勘、かな?」


「?なんだかよく分からん理由だの!まあ、勘が当たって良かったわい!」


ハッハッハー!と笑うレイルにその場の雰囲気も多少和らぐ。


「ハークライツさん。もし良ければここにいる怪我人達も治療しようと思うのですがよろしいですか?」


「なんと、シュン殿は凄まじい威力の攻撃をすると聞いておるが、解毒に加えて治療もできるのか!」


「ええ、まあ…」


「それはありがたい。是非宜しく頼む!」


俺はライラックの怪我を一瞬にして完治させたエデンを片っ端からかけまくった。


そこらじゅうで光のサークルが立ち上がり、救護室のあちらこちらから驚きと喜びの声が沸き上がる。


『おおお!』


「信じられん!」


「き、奇跡だ!」


そんな言葉を横に聞きながら、程なくして俺は救護室にいる革命軍の兵士全員を完治させた。


「シュ、シュン殿…、貴殿は一体、何者なのだ…」


ラウダが奇跡の光景を目の当たりにして俺に問いかけてくる。


「俺は…ただの新人冒険者ですよ」


なんだか照れ臭くなった俺は、そう答えたのだが…。


その返答には意義あり、と、ローザ、シュトローム、ユーバーの三人が今までの数々の非常識な冒険譚をとくとくと竜人族の皆さんに話すのであった…。




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