95.ハークライツ②
「父上!」
ここは革命軍の拠点となっている神殿の一室。
普段は出兵し怪我を負った竜人が療養する救護室だ。
救護室と言っても、何十人もの竜人を一度に看護できる広い空間になっており、看護婦が何人も忙しそうに歩き回っている。
その部屋の中でも一番奥の一際大きなベッドにハークライツが静かに眠っている。
手当を担当した回復魔法の使い手と看護婦のような竜人が数名、その他にも軍人と思わしき竜人がすぐ横にいるが、皆一様に下を向き、重苦しい空気が流れていた。
「サ、サリオス様…。我ら十騎士がついていながら、申し訳ありません…!」
ハークライツの隣のベッドに全身包帯だらけの姿で横になる竜人は、護衛の十騎士リーダー、ライラックだ。
「ライラック…。父上は…、無事なのか…?」
「…」
サリオスの問いにライラックも、他の者も答えられない。
「サリオス様、ハークライツ様は怪我もなく、どこも悪くはありません。ただ…」
回復魔法の使い手が返事をするが、言葉に詰まる。
「ライラック…。一体何が…。エールマンや他の十騎士達はどうした?」
サリオスはこの状況から悪い事が起きている確信はあるものの、詳細を知る為恐る恐るライラックに問いかける。
「…」
「サリオス、ライラックも重傷だ。俺から説明しよう」
返事をしないライラックに代わって、重鎧を装備したガタイの良い竜人がサリオスに何があったのかを語り出す。
「ラウダ…」
ラウダと呼ばれた竜人は、革命軍四天大将の一人で、鎧の胸当てには幾つもの勲章が刻印されている。
「今回の和平交渉は、やはり奴らの罠だったのだ…」
「罠…」
「そうだ。どんな策略が待ち受けていようとも対処できるようにと四天大将エールマンと十騎士を付けていたが…。そこに誤算があった…」
「…」
「エールマンは…帝国軍のスパイだったのだ」
「何だと⁉︎」
ラウダがライラックに聞いた話によると、和平交渉の場で話が進み、ハークライツがいざ調停書にサインをしようとした瞬間、護衛だったはずの四天大将エールマンが背後から襲いかかった。
百戦錬磨のハークライツも、仲間と信じていた者、しかも大将を任せられる程の実力の持ち主からの不意打ちは防げず、毒針のような物を首筋に受けてしまう。
突然の出来事に呆気に取られた十騎士達も、それぞれが背後から帝国軍の精鋭に襲われた。
全員が怪我をしながらも竜化し、気を失ったハークライツをなんとか連れ出したが、ライラック以外は帝国軍の追手からハークライツを逃す為、囮となり犠牲となった。
ライラックだけが命からがら逃げ切り、なんとかハークライツを革命軍の拠点バゴまで連れ戻した、という顛末だった。
「エールマン…。くそっ!ラウダ!父上は意識が無いだけで命は無事なのだな?」
「ああ、しかし、使われた毒は我らも知らない未知の毒のようだ。いつ何がどうなるか分からん」
「何がどうなるか、だと?貴様…どう言う意味だ…!」
サリオスの深紅の髪が怒りで逆立つ。
「お、落ち着け!ここにいる者達も最善を尽くす!しかし治す手立てが見つからないのだ!」
「ふざけるな!父上が毒なんぞに屈するはずが無い!」
事態を飲み込み、冷静さを失うサリオス。
「サリオス!今我ら四天大将が浮き足立てば下の者達が纏まらん!とにかく落ち着くのだ!」
「ふん!四天大将だと?今はもはや三人だがな。もう一人の大将オルフェウスは行方知れず。もう革命軍もここまでかもしれんな」
「サリオス!貴様!」
「もう良い!後は私が何とかする!」
そう言い放ち、その場を去ったサリオスは、ユーバーに通信魔法を使い、神の使いと聞いたシュンとその仲間達を急ぎ迎えに行くよう、革命軍最速の飛行能力を持つ弟レイルに頼んだのであった。




