93.ドラゴニア
ゴオオオオォォ!
ブワサーーーッ!
ブワサーーーッ!
眼下に広がる雲海の上を巨大な翼の羽ばたきを聞きながら、俺達ガイアの四人は物凄いスピードで飛行していた。左手を見ると、沈み行く真っ赤な太陽が一面に広がる雲の絨毯を赤く染めている。
サリオスからユーバーに連絡があった翌日、俺達は巨大なブルードラゴンが背負う籠の中にいた。
ほぼ一日をドラゴンの背中の上で過ごし、夜を迎えようとしているこの幻想的な光景を前にして感激に浸っていた。
「空の世界は凄いのね…。いつでもこの光景が見られるシュンやシュトロームが羨ましいわ」
「さすがにここまで早く飛ぶ事は出来ないけどね…」
俺達を運んでくれているブルードラゴンは名前をレイルと言い、サリオスの弟なのだそう。竜人族革命軍の中でも随一の飛行速度を持ち、外界にも詳しいとの事で、サリオスの代わりに迎えに来てくれていた。
レイルが背負う籠は、底が広く平らな小さめの船のような形をしており、デッキや船室まで設けられている。
「これってドラゴニアに来る人用の船なのかな?こんな物があるんだったら、ドラゴンに会った事がある人がもう少しいても良さそうなものだけど…」
「いや、これは竜人族の位の高い者達が人の姿をしている時に乗る乗り物だ。人間や魔人が乗る事は普通は無い」
「なるほど。しかし、これだけの速度で移動するってことはドラゴニアって相当広いの?」
「ハッハッハー!我らが大陸が狭いわけが無い!お前達の国の何十倍もの広さがあるぞ!」
「そうなんですか!」
物凄いスピードで風をきって飛行しているにも関わらず、レイルには俺達の話す声が聞こえているようだ。
念の為大きな声で返事をしたが…。
そして俺達にはレイルの声が適度な音量で聞こえる。サリオスと同じくらい大きなドラゴンなのに…。
「ユーバー、なんでレイルには俺達の声が聞こえてるんだ?」
レイルに聞こえないよう小声で聞く。
「ドラゴンはとにかく不思議な生き物だ。常に私達の想像の上を行く。…誰かさんのようにな」
「俺の身体を作った張本人がそんなこと言うのかいっ!」
「ん?私は別に誰とは言ってはおらんぞ?」
「くっ、はいはい、そうですか!」
「クックックッ、お二人とも仲が良ろしいですね」
「ふっ、パーティにおいてコミュニケーションは大事な要素なのだ」
「まあ、そうだろうけども…」
「わたしの方がもっとシュンと仲良しだけどね!」
ローザさん。何を張り合ってるのですか。
「うん。まあ…そうね」
「何よ?その生返事は…」
「いやっ、そんな、別に…」
「ハッハッハー!お前達!そろそろドラゴニアが見えてくるぞい!」
気まずい雰囲気になりかけたところで、どうやらタイミング良くドラゴニアに着いたようだ。
前方、遙か遠くにうっすら見える、空に浮かんだ地平線のように見えていた一本の線は、近づくにつれ巨大な崖の壁面である事が分かってくる。
『おおおぉぉぉ…』
ユーバー以外の3人が感嘆の声を漏らす。
真っ直ぐ綺麗に切り取られたかのような断崖絶壁の上には大地が広がり、夕焼けで一面赤くなった草原と、大きな一本の川が流れていた。川の水は崖から落ち、滝となって雲の中へと吸い込まれて行く。
「あそこの下って常に雨なのかな…」
「多分…そうね」
「この大陸の名はドラゴニア大陸。国の名前と同じだ。どういう仕組みでこれだけ巨大な大陸が空に浮かんでいるのかは私にも、と言うか竜人族にも分からんらしい」
竜人族にとっては、大昔からこれが当たり前の世界だったのだろう。
ドラゴニア大陸に入ってからは、レイルも飛行速度を落とし、景色を見易くしてくれた。
夕陽に彩られた広大な平原の上を真っ直ぐ進むと、目の前に標高が分からない程高い雪山が見えてきた。
「あの山を…超えるのか?」
「ハッハッハー!超えるのでは無い。抜けるのだ!」
『えっ⁉︎』
レイルが山に向かい速度を上げる。
山の斜面をよく見てみると、麓から立ち上がった急斜面の途中に大きな穴が空いているのが見えた。
「あれは…トンネルか⁉︎」
「トンネル?」
「えっ、ローザ、トンネル知らないの?」
「ええ…」
「私も初めて聞きました。あの穴がトンネルという物なのですか?」
エルモナルには日本のような機械は無い。魔人族のシュトロームも知らないらしい。まあ、山に穴を開けその中を進むなど考えた事も無かったのだろう。
「そうだよ。高い山を越えるときに上まで登ったら大変だろ?だから山に穴を開けてショートカットするのさ」
「なるほど…。しかしあんな大きな穴をどうやって…」
「ハッハッハー!これはその昔、一匹のドラゴンが吐き出したドラゴンブレスが山に当たった跡だの」
「ドラゴンブレス…強そうだなー…」
「ドラゴンブレスは竜人族の必殺技だ。一定の強さに達する事ができた者のみが使える。威力は強力だが、連発は出来んぞ」
「ふーん」
「では!潜るぞ!この先が我が母国ドラゴニアだ!」
レイルはそう言い気合を入れると、穴に向かって一直線につっこむ。
ジェットコースターのようだが、スピードが何倍もあるせいか迫力がその比ではない。
ゴオオオオォォ!
巨大な穴とはいえ、レイルも相当な大きさだ。
壁面スレスレ、いや、たまに翼の先を少し壁面に当てながら、そんなことはお構いなしに穴を突き進む。
相当な飛行速度だが、穴の先が見えない。
太陽の光は既に届かず、真っ暗な中を突き進むが、衝突しない事からレイルには道がはっきり見えているのだろう。
そのまましばらく進むと、穴の先にやっと光が見えてきた。
「やっと出口か…この山相当大きいんだろうな」
「ハッハッハー!それはそうだ!この山は神の山!円形のドラゴニア大陸をぐるりと一周囲んでおるのだ、この穴を通らない限り、ドラゴンでも大陸の外に出る事は不可能だ」
「ドラゴンでも出れないなんて…、山頂はどうなってるんだろ…?」
「さあな、なんせ誰も山を登りきった事が無いからの!それより…、穴を抜けるぞ!」
点に見えていた出口の光はあっという間に大きくなり、その先は眩い光に包まれ、どうなっているか見る事が出来ない。
グオオオオオッ!
レイルがドラゴンに相応しい雄叫びをあげながら穴を出る。
「ハッハッハー!さあ!ブルードラゴン、レイル様のご帰還だ!ワイバーンども!邪魔だ!道を開けよ!」
光に慣れ、外の様子を見てみると、驚いた事に下には地面が一切無い。神の山の斜面が遙か下まで続き底は真っ暗で何も見えなくなっていた。
ただ、地面が無い代わりに、頭に草木を生やした小さな岩山が無数に浮かんでおり、その浮遊する岩山の合間を、何匹ものグレーの首長竜が飛び回っていた。
『おおぉぉ…』
さすがにこの光景は、エルモナルのローザやシュトロームにとってもファンタジックな光景だったらしく驚きとともにため息を漏らす。
「レイル、あの沢山飛んでいるのがワイバーン?」
グレーの首長竜はサリオスやレイルに比べると小型だが、そうは言っても体長は5メートル以上はありそうなので人間よりは余裕で大きい。
「ハッハッハー!そうだ!一応ドラゴンだが、言葉も持たない脆弱な存在よ!」
「ふーん」
レイルは、至る所を飛び回るワイバーンと、無数の浮遊する岩山を器用に避けながら飛行する。
そうして進むうちに、やがて特別大きな岩山…というより大地と表現した方が相応しい程巨大な地面の上に、低い壁に囲まれた大規模な建造物の群れが見えて来た。
「あれは…街、か?」
夕陽に染まる街に近づくにつれ、全ての家々が壁から屋根まで白い石のような素材で出来ている事が分かる。
「懐かしいな…。あれはドラゴニア最果ての街、バゴだ」
そしてレイルと俺達は、ユーバーがバゴと呼んだ街の上を飛び、街の中心にある立派な神殿前へと降りたった。




