92.王者
「お、王者…?」
勇者でも賢者でも無く…王者?
「私も初めて聞く職業なので王者がどのような物なのか分かりませんが…」
才能覚醒をしてくれたクリストフも戸惑いの表情を見せる。
「ってか、王者ってそもそも職業なのかな?どちらかと言うと立場を表してる感じがするんだけど…」
「ユーバーは聞いた事ないの?」
「王者は初めて聞いたな…。普通では無い、希少な当たり職なのは間違いなさそうだが…」
「ま、でもさ、俺は元々オールスキルとオールマジックがあるから、職業はあまり気にしなくても良いよね」
「まあ、そうかもしれんが…」
「とにかく凄そうな職業で良かったじゃない!って言うことにして、早くレベル上げの続きをやりましょ!」
「ちょっと待ってローザ。クリストフさん、続けて転職って出来ないんですか?」
「それが…。大変申し上げにくいのですが、シュン様の光がだいぶ小さくなってしまったようですので、今回はここまでのように見えます」
「そうですか…」
「シュン。大丈夫よ。救世主シュンだもの!またすぐ転職出来るようになるわよ!」
「ああ、そうだね。ありがと、ローザ」
就職してすぐに転職ってのもおかしな話か…。
「はい!じゃあレベル上げに行きましょ!」
「では、クリストフ、ご苦労であったな」
「はっ!有り難きお言葉!」
『ありがとうございました』
ユーバーは労いの言葉を、俺とローザはお礼を言い、聖堂から出ると…。
「マリアさん。今度二人でお食事でもいかがでしょう?私の行きつけのお洒落なお食事処があるのですが…」
「えっ、いや、その…」
シュトロームが受け付けの修道女さんを困らせていた…。
「ちょっとシュトローム。…何してるのよ?」
「あっ!皆さん。思ったよりお早かったですね!」
「お早かったですね!じゃないよ。教会には入り難いって言ってたくせに何やってるのさ。修道女さん困ってるじゃない」
「何を仰いますか。マリアさんは困ってなどおりません。お照れになっているだけなのです」
マリアと呼ばれた修道女に目をやると、困った表情で小さく首を横に振る。
「分かった分かった。取りあえずローザの転職と俺の才能覚醒は終わったからまたレベル上げに行こう」
「おお、それはおめでとうございます。これでまた一つガイアの戦力が上がりましたね」
「そうだね。そういや、魔人…じゃない、シュトロームは職業とか無いの?」
「ええ、私達にはそのような物はございません」
「ふーん」
「それで、シュンさんは何になられたのですか?」
「ああ、王者だって」
「王者!それは素晴らしい」
「知ってるの⁉︎」
「いや、言葉の響きが強そうなので…」
「…」
待てよ?職業も自分の体のことだ。もしかしたら…。
王者について知りたい!
職業:王者
王とは人々を統べる者。徳を積み、尊敬を得続けるは茨の道。
…なんだか良く分からん。
「うーん。せっかく職につけたけど前例が無いみたいだから良く分からないや。まあ、いずれ分かる時が来るだろう!」
今答えを知ろうとしても、すぐには分からなそうなので、俺はレベル上げの続きをする事にした。
「早く川に行こ行こ!」
「待て、ローザ。シュン、友達を紹介してくれるのではなかったか?」
「あっ、そうだった。多分用事もすぐ済むから少し寄って行こう」
「了解…」
ローザ、早くレベル上げたいだろうに。ごめん。すぐ済ます!
「それじゃ皆行くよー。あっ、マリアさん、ウチのシュトロームがご迷惑をおかけしました。それでは!」
「なっ⁉︎迷惑だなんてかけてませんよ!ねえ?マリアさ「瞬間移動!」
戸惑うマリアを残し、俺達はウェインの武具屋へ飛んだ。
***
「シュン、ここにお前の友達が居るのか?」
「そうだよ。武具屋のウェインって言うんだ」
「ほう。しかし武器も防具もマグがあるだろう。何の用があるんだ?」
「最初は鞘が無かったからさ、作って貰ってたんだ。できてると良いんだけど…」
そう言って店に入ろうとすると…。
「…シュンさん。私少しお休みしますから、どうぞお三人さんで行って来たら良いですよ」
シュトロームの機嫌があからさまに悪くなっている。マリアに話しかけてる途中で瞬間移動したからいじけたのか?子供みたいだな…。
「シュトローム、話の途中で飛んじゃって悪かったよ。でもマリアさん本当に困ってたみたいだったからさ」
「…そうなんですか?」
シュトロームはローザとユーバーにも聞き直す。
「そうねぇ…」
「う、うむ。まあ、そうかもしれんな…」
「そうでしたか…」
シュトローム、少し可愛そうだな…。
「元気出しなよ!シュトローム見た目はカッコ良いんだからさ!きっとモテモテになる日が来るよ!」
「そうでしょうか…?」
「そうさ!それにシュトロームは魔人族の王になるんだろ?王様がモテない訳ないじゃん!」
「…な、成る程!確かに!ようし!そうと分かれば早くお友達との用事を済ませて、レベルを上げまくって、ドラゴンだろうが魔人王だろうがチャチャっと倒してしまいましょう!」
「う、うん。そうだね!」
変わり身早いな!少し面倒な性格だけどコントロールは簡単かもしれない…。
仲間に対し失礼な事を考えながら俺達は改めてウェイン武具屋に入る。
「こんにちわーっ。ウェイン居るかいー?」
中に入ると、数人の冒険者と兵士と思わしきお客が陳列されている商品を熱心に見ていた。
「ほう…、なかなか良い武具が揃っているな」
もう何歳かも分からない程の冒険者歴を持つユーバーが言うのだから、ウェインの目と腕はやはり確かな物なのだろう。
「うん。まだ若いけど武具屋としての実力は高いね」
しかし、ウェインの姿が見当たらない。奥の工房だろうか?そう思い奥にある部屋へ進もうとすると…
「あっ、シュンさん!」
思った通り奥からウェインが出てきた。
「ウェイン、元気?」
「はい、お陰様で。今日はどうしたんです?」
「うん。頼みっぱなしになってた鞘の様子見と、ガイアって言うパーティを組んだから仲間を紹介しようと思ってね」
「えっ!シュンさんのパーティですか!それは是非ご紹介頂きたいです!」
「…シュン?ガルヴァリの煌星シュンか⁉︎」
「救世主シュン様⁉︎こんな所でお目にかかれるとは…!」
周りに居た冒険者や兵士が騒つく。
「ウェイン、ちょっと奥で話しても良いかい?」
「ああ、すみません。どうぞどうぞ」
俺達ガイアの四人は人目を避け、奥の工房へ入る。
「ごめんね。なんか話しかけられたりしても面倒だから」
「いえ、僕も配慮不足ですみません」
「良いよ良いよ。…で、皆んな、こちらがこの武具屋の店主ウェインだよ」
俺は簡単にウェインを紹介する。
「どうも初めまして。ウェインです」
「うむ。宜しくな」
「よろしくね」
「初めまして」
「ウェイン。この人達が俺の仲間、ローザ、ユーバー、シュトロームだ」
「えっ⁉︎ユーバーさん⁉︎って…まさか、あのSランク冒険者の⁉︎」
「うん。実はそうなんだ。因みにローザもAランク冒険者で最上級職ワンダラーだし、シュトロームもクロノ大闘技大会で準優勝した実力者だよ」
「うわあ…。流石シュンさんですね…。いつの間にそんなにお強い仲間達を…」
「あはは、ほんといつの間にかだよね」
「皆さん、ウチはご覧の通り小さな武具屋ですが、お役に立てることがあればお手伝いしますので、何かあれば是非お声がけくださいね」
「ああ、君の腕が確かなのは品揃えを見て分かった。必要な時は声をかけさせて貰おう」
「ありがとうございます!」
「それで、鞘はもうできてる?」
「あ!すみません!大体出来ているのですが…」
「?」
「いや、素材の方が、集められる精一杯の物しか無くて、シュンさん程の実力者ならばもっと良い魔物の素材を使いたいな、と…」
「ふーむ。魔物の素材か…」
「シュン。それなら黄金魚の素材なんてどう?結構な貴重品よ」
「ああ、そうか。ウェイン、これどうかな?」
ドンッ!
俺は工房にあった大きな机の上にコスモ・コアから取り出した黄金魚を一匹置いた。
「っ!これが黄金魚!…初めて見ました…」
「やっぱりレアなの?」
「そうですね…。話には聞いた事はありますが、加工はしたことがありません…」
「そうか、使えないかな?」
「いえ、見た目は美しいですし、強度もかなりの物のようです。是非使わせていただきたいです」
「そうか、良かった。それと、今度ドラゴンと戦うことになりそうなんだけど、その辺の素材って使えそう?」
「なっ⁉︎ド、ドラゴンってあのドラゴンですか⁉︎」
「どの、か分からないけど、多分そのドラゴン…かな」
「はあ…、やはりシュンさんの規格外は健在ですね。ドラゴンなんて神話の世界の生物ですよ?見たことがある人なんて聞いた事が無いです」
「あは…、そ、そうか」
「ギルドのジドールさんなら何か知ってるかもしれませんが…、いずれにしてもそんな強力な魔物、いくらお金があっても素材を仕入れるなんて不可能です。シュンさん達が持ち込んでくれるのなら加工には挑戦してみたいですが…」
「よし、そう言うことならまた暫く待っててよ。ドラゴンの素材持ってくるからさ」
「はあ、…もう非現実的すぎて実感が湧きませんが、シュンさんならきっと本当に持ってくるんでしょうね…。分かりました!僕もドラゴンについての書物が無いか当たってみます」
「うん。頼むよ。あ、黄金魚はどうする?使う?」
「ええ、この素材にも是非チャレンジしてみたいので、できれば少しでも素材をいただけると…」
「分かったよ。じゃあこの一匹を自由に使って」
「えっ、まるまる全部良いんですか?かなり高価そうですが…」
「うーん、何匹か持ってるから別に良いよ。皆んなも良いかな?」
「もちろん良いわよ」
「私も構いません」
「シュンよ。一つ忠告しておくが、…お金は大事だぞ。…今回は使ってくれて良いがな」
「ありがと!それじゃウェインお願いね」
「分かりました!」
どうやら鞘を貰えるのはまだ先の事になりそうだ。
ともあれ、新しい職業になった俺とローザを含むガイアの四人は再びレベル上げに戻ろうとウェインの店を出たのだが…。
「⁉︎シュン!待ってくれ!」
ユーバーが深刻な顔をして急に俺を呼び止めた。
そして、その様子は普通じゃない。
嫌な予感がするぞ…。
「…どうした?」
「いや、今サリオスから通信魔法が入った。少し待ってくれ」
通信魔法はいわゆるテレパシーのような物なので、話の内容は他の人には分からない。しかし、何かまずい事が起こっているのは確かだ。
「皆、すまん。サリオスの父上が帝国軍の罠に嵌められ危険な状態らしい」
「えっ!サリオスさんのお父様って確か革命軍のトップじゃ…」
「そうだ。今組織のトップを失おう物なら、あっという間に革命軍は敗北してしまうだろう」
なんてこった。人類の危機はもうすぐそこまで迫っていると言う事か…。
「シュン。どうするの?」
「…俺達が行った所でどうにか出来るのか分からないけど…、ここで迷っている時間が勿体ない。とにかく行こう。ユーバーの義理のお父さんでもあるわけだしね」
「ありがとう。シュン。サリオスにはそう伝える。我々も北に向かおう。途中で落ち合い、合流後はサリオスに連れて行って貰おう」
「分かった。ローザとシュトロームもそれで良いかな?」
「ええ、勿論よ」
「なんとか手助け出来ないか、早く行ってみましょう」
本当はドラゴンと戦う前にもう少しレベルを上げておきたかったところだか、緊急事態だ。やむを得まい。
「皆、すまない。ありがとう…。では早速向かおう。竜人族の国、ドラゴニアへ!」




