9.冒険者になる
次の日の朝、俺たち4人はギルドの併設倉庫に来ていた。ジドールが倉庫の片隅にあるテーブルで仕事前のコーヒーを楽しんでいた。
「じいさん!報酬の方どうだい?」
「おぅ。準備できとるわい。ほれ。討伐報酬の100万と素材の買取りが50万。合計150万ゼニルだ。ご苦労さん」
「素材が50万か!さすがじいさん。中々だな。」
「何、顔は燃えてはいたが、牙や爪は全てしっかり残っておったからの。こんなもんじゃろう」
「ありがとよ!」
バッシュはジドールから革袋を受け取り、お互い軽く手を挙げ別れた。
バッシュは革袋の中から金貨を取出し、勘定する。そしてPTの3人に5枚ずつ分配していた。
金貨は一枚10万か。貨幣単位はゼニルというらしい。
「ハーマンさん。宿代や食事代ってどのくらいですか?」
「んー。宿は一泊5000ゼニル。食事は一食1000ゼニルってとこかなー」
「そうですか」
「昨日バッシュも言ってたけど、お金のことは気にしないでねー。冒険者としてそこそこ稼ぎは多い方だからさ」
「はい。ありがとうございます」
貨幣価値はどうやら日本の円の感覚とほぼ変わらないようだ。
あの狼は一匹100万の討伐報酬と素材が50万か・・・。もし一人で討伐可能ならボロ儲けだな。
いつ倒せるようになるのか想像もつかないが、この体と天啓がある俺はいつかは可能なことなのだろうか?
早くLv上げをしたいぞ。
成長欲が沸々と湧きだしてきた。
「さて、それじゃシュン。いよいよ冒険者として登録をしに行くか!」
「はい!」
俺たちは連れ立ってギルドの正面から中に入り、受付へ進む。朝早い事もあり、他の冒険者は依頼ボードの前で依頼書を見ている数人のみだ。
「すみません。冒険者登録をしたいのですが・・・」
順番待ち等も無く、俺は少し緊張して受付嬢に声をかける。黄色い髪をポニーテールにしている可愛らしい女の子だ。
「はい!あ、バッシュさん達。どうしたんですか?」
「お、今日の受付けはエイミーか。何、コイツが冒険者登録をしたいと言うんでな。案内してたのよ」
「そうだったんですか!バッシュさんのお墨付きなら何も問題ありませんね!とりあえずLvを測らせてもらいますね!」
そう言うとエイミーは手早く俺の手首に金の腕輪のようなものを付け、腕輪に表示される数値を見た。
「Lv1ですね!ランクはG。職業無職。と」
すらすらと何かの用紙に俺の情報を書き込んでいく。
「あとはここに名前を書いてもらえれば登録は完了です!」
「分かりました」
若干不安だったが、文字も日本語だったのでそのままカタカナでシュンと記入してエイミーに用紙を返した。
「はい。シュンさんですね。冒険者に登録完了です。おめでとうございます!これからギルドの為、街の平和の為、何より自分の為にも頑張ってくださいね!」
「ありがとうございます。頑張ります」
「おめでとさん!良かったな」
「おめでと。これであたしらとおんなじ。冒険者の仲間入りだね!」
「おめでとー。油断せず、ゆっくり自分のペースで頑張るんだよー」
「はい!3人とも、ありがとうございます!」
簡単に冒険者になれてしまった。
さしあたりバッシュ達三人とはもう別れる事になるだろうから、弱くて安全な依頼を受けて今日の宿代と飯代を稼がなければならない。
冒険者となったからには、もう自立した大人なのだ。
「エイミー、一応俺達からも簡単に説明してあるけど、なんせシュンは冒険初心者だ。簡単な依頼を受けさせながら色々教えてやって欲しい。くれぐれも事故が起こらないようにな」
「分かりました!今まで何人もの初心者を一人前にしてきたこのエイミーお姉さんがシュンくんの面倒をしっかり見てあげましょう!」
自信ありげに控えめな胸を張るエイミー。若いのに本当に何人も一人前にしてきたのだろうか?少し不安が残るが、エルモナルの事を何も知らない俺からしたら先生役には丁度良いのかもしれない。
「あはは、よろしくお願いします」
「それじゃ早速簡単な依頼を受けてみる?あそこの依頼ボードにランク毎に依頼書が貼ってあるから、お姉さんが一緒に選定してさしあげよう!」
エイミーはカウンターから出てきて俺を依頼ボードに案内してくれた。
「シュンくん、うまくやっていけるかしら?」
「あぁ、本当はもう少し着いていてやりたいが、俺らがいたんじゃ、安全は保障されたようなモンだからな。そんな中で戦っていてもアイツの成長の妨げになる」
「冒険指南役は面倒見の良いエイミーがぴったりだねー」
「だな。
ま、そういうこったから、俺らは俺らの冒険の続きと行きますか!」
「そうね」
「りょーかいっ」
「おい、シュン。俺らはそろそろ次の街へ向かうぜ。頑張って強くなって、また何処かの街で会おうぜ!」
「あっ、もう行っちゃうんですね。少しの間でしたけど楽しかったです!色々ありがとうございました!」
「はっはっは。良いってことよ!またな!」
「またどこかでね。バイバイ」
「僕達もまだまだ頑張るからね〜。またねー」
少し寂しいが、三人には三人の冒険がある。仕方のない事だ。みんな笑顔だし、永遠の別れじゃない。俺も笑顔で三人を見送った。
「ステキなパーティーよね」
優しい眼差しで微笑みながらエイミーが言う。
「そうですね。三人とも目標となる冒険者でした」
「ふふっ。頑張ろうね。シュンくん」
「はい。早くあの三人に追いつくぞー!」
「その意気だー!よーし、それじゃまずはGランクの依頼だー!」
そう言ってエイミーが差し出してきた依頼は
▼ワーム討伐
依頼ランクG
5匹〜
畑の作物を荒らすワームを最低5匹退治して下さい
報酬:1匹につき500ゼニル
ワーム...おそらくミミズのようなものだろう。
地球のイメージだと、動きも遅く簡単に倒せそうだ。
「最初はこれかなー。作物を荒らす魔物だけど、こちらから危害を加えない限りは人間を襲うことはまず無いし、動きも遅いから比較的倒しやすいわ」
「なるほど、良さそうですね」
「ただ、普段は地面の下にいるからなかなか地表まで出てこないのよね。1日5匹も見つけられれば良い方だと思うわ。この魔物は地面が土ならどこにでもいるから、他の魔物がいない街の東門から外に出たところにある平原で探すと良いよ」
「ふむふむ。分かりました。早速行ってみます!」
剣を持つ右手に力が入る。気合を入れた俺は早速街の東門へと向かった。