87.襲来
「さて、と。じきにドラゴンが来るだろうけど、ドラゴンについて皆の知識を聞いておきたいな」
俺達ガイアの4人はクロノの街から少し離れた北の平原へと来ていた。
「ドラゴンなんて普通遭遇できないわ。わたしも会った事もないもの」
「魔人族の間でもあまり話題になる事はありませんが、かつて魔人族がドラゴン、...竜人族と戦ったという言い伝えは聞いた事があります」
「竜人族?」
「ええ、ドラゴンとは人語を話し、人の姿をしているのでそう呼ばれているのだとか...」
「ふーむ。今回目撃されたのは、ちゃんと竜の姿をしているからドラゴンが来ているって分かったんだろうし、覚醒魔人のように姿を変えるのかな...?」
「そうかもしれません」
「ユーバーは一番生きてるんだから会った事はないの?」
「う、うむ...。その...会った事はあるにはあるが...」
「?」
ユーバーはとても話しづらそうにしている。これは過去に何かあったな...。
「じゃあ、...戦ったことはある?」
「うーむ...。戦ったことも...まぁ、あると言えばあるような...」
「なんだかはっきりしないな...。俺達に言えない何かがあるのか?」
「いや、なんせ何百年も前の事だからな...」
「何百年前だとしてもドラゴンとの一戦を覚えてないの?」
「ユーバー、今は何千人、何万人もの命が関わっているのよ。情報の共有は重要でしょう?言いにくい事でもはっきり言ってもらわないと。危機はもうすぐそこまで迫っているのよ?」
「うむ...、そうか...。そうだな...。実はだな...」
『実は...?』
三人が興味深々で問いただす...。
「..............................ドラゴンが来たら話す」
「ってなんだそれっ!」
思わずつっこみを入れてしまった。
「いや、それじゃ遅いでしょって言う話なのよ!しっかりしてよ!」
「うむぅ...」
どうやら相当言いにくい事らしい。しかしドラゴンと実際対峙したことがあるのはユーバーだけだ。直に感じた体験談を是非知りたい所なのだが...。
...
「皆さん!どうやらもう話している暇はないようですよ!」
シュトロームの目線の先を追うと、北の空を一匹の赤いドラゴンが巨大な翼を広げ、ゆっくりと羽ばたいている姿が見える。
まだ遠いせいか正確な大きさは分からないが、悠然と空を進むその姿は、正にザ・ファンタジーと言った光景で思わず身震いする。
いわゆるアジアの神話に出てくるような細い龍ではなく、西洋の物語に出てくるような胴体がガッシリしていて巨大な両翼を持ったレッドドラゴンだ。
「...あんなのと戦うの?正直恐いんだけど...」
「ちょっとシュン!しっかりしてよ!クロノの皆を護らないといけないのよ!」
「そうです!私達が4人いればなんとかなります!」
「...ッ!」
「ユーバー!?どうした!?」
ユーバーだけが額に手を当て苦虫を噛み潰したような顔をして諦めるように呟いた。
「やはりあいつが来たか...。やむを得ない、話すしかないか...」
『えっ?』
「皆、あれはおそらく大丈夫だ」
「どういうことなの?」
「まぁ、ちょっとした知り合いだ」
『えぇっ!?』
確かに感知で見ると輪郭は緑で、敵対心を示す赤にはなっていない。
「ユーバーさん竜人族に知り合いがいたんですか!?」
「うむ。まあ、長い事生きていると色々あるのだ...」
「ちょっと!それは良いけど、あのドラゴンそのまま街に入って行ったりしないわよね!?」
「シュン、シュトローム、悪いがあいつの飛空経路上で待機していてもらって良いか?」
「ああ、分かった」
「了解です」
俺とシュトロームは空に浮かぶと、そのままドラゴンに立ちはだかるように空中で待機する。
...
「シュトロームは恐くないの?」
「んー、そうですね。シュンさんの巨大なパンチを受けた時程は恐くないですかね...」
「ぶっ、それは悪かったね!ってか俺のパンチでも無いし!」
「クックック、冗談です。今は最高に頼りになる方が横にいますからね。そこまで怖くはありません」
「っ、そっ、そうか...。まぁ、俺も同じだ。今はシュトロームや...ガイアの皆がいるもんな」
「ククッ、そうですね」
恥ずかしいセリフを普通に言うなぁ...。少しつられてしまったじゃないか。
しかし、おかげで緊張と恐怖心が無くなった。計算して言ったかどうかは分からないが、ありがとうシュトローム。
そうこうしているうちに目の前のレッドドラゴンはみるみる大きくなり、俺達に近づくにつれスピードを落とす。
「良かった、俺達の事はちゃんと認識できているようだな」
人が地面にいる虫を気にせず歩くように、ドラゴンが俺達に気づかず弾き飛ばされたらと少し不安だった。
「っておいおいおい!デカすぎるだろ!!」
「むむっ...これ程とは!」
目の前で完全に止まったドラゴンは空中で羽ばたきながら直立の姿勢になったが、身長はゆうに15メートルは超えていそうだ。
俺とシュトロームはその迫力に、空中に浮いたまま思わずたじろぐ。
と、その時。
ブワッ!
燃えるような深紅の鱗のレッドドラゴンが、一つ大きく羽ばたいたと思うや、たちまち身長が縮こまり、一人の美しい女性へと姿を変えた。
「ふぅ、ドラゴンモードでのホバリングは結構疲れるのよね...」
鱗と同じ深紅の長い髪は先に行くほどウェーブがかかっている。肌は白く、眉がはっきりしていて鼻は細く高い。こちらを見つめる瞳が燃えるように赤く煌めき、その美しさにずっと見つめていたいと思う程だ。
「あの、あなたは...」
「私は竜人族のサリオス。で、人族なのに空に浮かんでいるあなた達は何者?」
「あ、俺はシュン。人間です。で、こっちが...」
「お初にお目にかかります。わたくし魔人族の未来の王、シュトロームと申します。以後お見知りおきを...」
そう言ってシュトロームはサリオスの手を取り、その甲に軽く口づけする。
シュトロームさん⁉︎さっきは少しだけ良いヤツだと見直したのに、ドラゴンにいきなり何するの!?怒ったらどうするの!?
しかし、俺の心配をよそにサリオスは平然とした顔をしている。エルモナルの社交界はこんな感じなのか?
「ふーん。まあ、宜しくね。下にも何人かいるようだし。一度降りましょうか」
「はい。そうしてもらえると有り難いです」
「では、どうぞ」
露出度の高い深紅のドラゴンメイルに身を包んだサリオスをシュトロームがエスコートし地上へ降りる。
武具屋のウェインと言い、シュトロームと言い、こちらの男性は積極的なのだろうか...。
今は確かに絶世の美女ではあるが、つい先程までこの人が巨大で恐ろしいドラゴンであったと言う事を、シュトロームは忘れたとでも言うのだろうか?
ゆっくりと地上に降りた俺達は、サリオスにローザとユーバーを紹介する。
「サリオスさん。こちらがシュンさんの奥様のローザさんです」
『いや、まだ違うから!』
二人して「まだ」とか言ってしまった。
「ああ、失礼。“ まだ”ご婚姻はしていませんでしたか。あまりに仲睦まじいご様子でしたので私はてっきり…」
サリオスがどんな人かも分からないのに、あからさまに自分以外の男性を除外しようとしているなぁ。ユーバーのことはどう紹介するんだろ?
「そして、こちらが…」
「久しぶりね。ユウくん…」
「…その呼び方は止めろと言っただろ…。サリオス」
『⁉︎』
さっきはちょっとした知り合いって言ってたけど、もしかしてそういう仲⁉︎
…シュトローム、残念な男。




