86.クロノ優勝報酬
『ザワザワ...』
「30億ゼニルを寄付とは...」
「なんと欲の無い救世主だ...」
「ふんっ、偽善ではないのかしら?」
『ザワザワ...』
「希望を聞き入れて頂きありがとうございます」
色々な声が聞こえてくるが、俺は気にせず続けて表彰を受ける。
ユーバーが呆れ顔でこちらを見ているがスルーだ。
「ごほん!では次に行くとするかの。...ナカダ」
「かしこまりました」
ナカダ大臣が控えていた従者に合図をするとその者達は去り、別の従者がお盆を手に下座の控室から入室しナカダ大臣の後ろへ着いた。
「続きまして、此度のクロノ大闘技大会の表彰式へと移らせていただきます」
ガタンッ
重たい音と共に、俺とローザが入って来た大きな扉が開き、知った顔の男が二人入って来る。
「あれは確か...」
「若い方がモズで魔導師の方がグランよ」
ローザが小声で囁く。
「まったくシュンは物覚えが悪いのか?」
いつの間にか紋次郎の後ろから俺の横に並んでいたユーバーが呆れている。
そうか、ユーバーにも賞金が出るのか。
「...覚えておくようにするよ!」
しかし、形式ばった表彰式みたいなのって割と煩わしいな...。さっさと終わらせて欲しい...。
そう思って横を見ると、ローザもユーバーもキラキラした目でナカダを見ている。
二人ともこういうの好きなんだな...。
「それでは順位の発表です」
そういえば5位まで賞金が出るってローザが言ってたけど、3位以降はどうなったんだろう?
「今回は闘技場の破損により3位以降の決定戦が行えませんでした。従って準決勝まで進んだモズ選手とアモンド選手の両名には3位の賞金を、ローザ選手とグラン選手には5位の賞金をそれぞれ支払う事とします。また、シュトロームに関しては、魔人であったことから準優勝の資格は剥奪する物と致します」
なるほど。シュトロームの扱いは可愛そうだな。後で豪華な飯でも奢ってやるか。お金より誰かとの繋がりを強めた方がシュトロームも嬉しいだろう。
しかし...、日本だと普通3位決定戦は決勝の前にやるものだが、こちらの感覚は違うのだろうか?
「まずは第5位!グラン殿、ローザ殿、前へ」
『はっ!』
呼ばれた二人が揃って気合の入った返事をし、ナカダの前へ出る。
「素晴らしい試合でした。おめでとう」
「ありがとうございます」
まずはグランがナカダ大臣から何かを受け取る。どうやら先程のゼニル札のようだが、今回は最初から金額が記載されているらしい。
パチパチパチパチパチ...
周囲から拍手が起こる。なかなか厳かな雰囲気だ。
「続いてローザ殿」
「はっ!」
「おめでとう」
「ありがとうございます」
パチパチパチパチ...
同様にモズとユーバーも賞金を受け取り、いよいよ次は俺の番だ。
...
バターン!!
「しっ!失礼します!!」
!?
突然、近衛兵が叫びながら勢いよく玉座の間の扉を開く。
「何事だ!大事な表彰式の最中と知っての狼藉か!」
ナカダ大臣が叫ぶ。
「も、申し訳ありません!緊急事態でっ!...ド、ドラゴンが!!ドラゴンがクロノへ向かって急速に接近中との事です!!」
『!!』
「ばっ、バカな!?ドラゴンだと!?そんなの伝説の生き物ではないのか!?」
ナカダ大臣も実際見たことはないらしい。
「しかし!見張りの兵の話では間違いなくドラゴンであるとッ!!」
『ザワザワッ!』
「皆!落ち着くのじゃ!」
「!?陛下...」
「くっくっく、ドラゴンか...。儂も実際会った事はないが、聞くところによると、どうやらヤツらは言葉を話すそうではないか。...いきなり襲って来る事も無かろう」
『ガヤガヤ...』
「それにじゃ!今この場には誰がおる?」
全員の視線が一斉に俺に向く。
まぁ、そうなるよな...。一応アモンド将軍も正体は人類最強の男なのにな...。
『ザワザワ...』
皆俺のやる気のある言葉を期待している事だろう...。安請け負いはしたくないが、仕方ない。
「私に、いや、私達ガイアにお任せ下さい!」
『おおおおぉぉぉぉ!』
「ガイア?」
「シュン殿のパーティ名らしいぞ」
「救世主サマのパーティ?他のメンバーは大丈夫なのかしら?」
『ガヤガヤ、ザワザワ...』
ガイアの知名度アップの為、と言うのは建前で、俺一人で解決するのが大変そうなので勝手にローザとユーバーも巻き込む。後でシュトロームにも声を掛けておこう。
「ちょっとシュン!何勝手なこと言ってるのよ!」
「ローザ、良いじゃないか。この危機を解決すればおそらくまた莫大な報酬が...。むっふっふっふ」
「むぅ...」
守銭奴ユーバーのおかげでスムーズに話しが進みそうだ。
「よくぞ言ってくれた!皆の者安心せい!救世主シュンのパーティガイアがドラゴンからクロノを守ってくれるぞ!幸い、報告では他の町村には被害を出さずここに向かっておるようじゃし、各地の領主諸君らも安心じゃ!」
『おぉぉ...』
「ありがたい」
「助かった...」
「救世主サマとは言え、ドラゴン相手に勝てるのかしら?私は少し心配ですわ...」
『ガヤガヤ、ザワザワ...』
さっきから一人失礼な女性貴族がいるようだが気にしない。
俺はシュトロームに通信を入れる。
「シュトローム、今良いか?」
「わっ!ビックリしましたよ!通信魔法ですか...。心臓に悪いですね...」
「ごめんごめん。ちょっとドラゴンが来てるみたいだからクロノに来れる?ってか今どこ?」
「...シュンさん。ドラゴンと言いましたか?あなた...ドラゴンがどのような生き物か分かった上でそんな気軽に話しているのですか?」
「えっ、ドラゴンってヤバイの?」
「ヤバイどころじゃないですよ!滅多に人前には現れませんが、種類によっては覚醒した魔人族なんかよりよっぽど強いですよ!」
「えっ...」
安請け負いが凶と出たか...?
「どうしよう?国王様にガイアにお任せくださいって言っちゃった...」
「はあ...、なんてお人だ。...仕方ない。ドラゴンを街に入れるわけには行きません。どちらから向かって来てるかを聞いておいて下さい。街の外で合流しましょう」
「分かった!なんかごめんね!宜しく!」
「シュン?どうしたの?」
「あ、ごめん。シュトロームと連絡取ってた。すみません!ドラゴンは何方から向かって来ていますか?」
俺は報告に来た近衛兵に声をかける。
「ドラゴンは北から向かって来ているそうです!空を飛ぶ生き物です!ご多分に漏れず移動速度も相当でしょう。お急ぎ下さい!」
「分かりました!陛下!それでは一旦失礼します!」
「うむ。すまぬの。ドラゴン撃退の暁にはきちんと続きを執り行おうぞ」
「はっ!」
「シュン!」
「はい?」
唐突に紋次郎が俺を呼び止め、玉座から立ち上がると俺の耳元まで来て囁く。
「くれぐれもローザに無理はさせんでくれ!怪我でもされたら儂はもう...」
ああ、それはそうですよね...。
「分かりました。ご心配には及びません。ガイアにはユーバーもいます。二人で協力し、全力でローザさんをお守りします」
「何じゃと⁉︎ユーバーが姿を現したとな⁉︎...しかもパーティに加わっていたとは...。流石はシュンじゃな...。いやしかし、それなら尚更心強い。くれぐれも頼んだぞ!」
「お任せください」
俺はローザとユーバーにアイコンタクトを取り、三人で城の外へ瞬間移動し、街の北へと向かった。
ナカダ大臣のイントネーションは野菜のトマトと同じです。
瞬間移動の瞬間、ユーバーはアモンド将軍として分身を残し、紋次郎はアモンド将軍がユーバーだとは気付いていません。




