83.ミルコの情報
「?...シュン?どうかした?」
「あっ、えーっと...」
ミルコがこちら側になるかどうかまだ不明だった俺は、なんとなく聞かれたらまずいと思いこの近距離でローザに通信する。
「驚かないでね。...ワームを殺したらレベルが10上がった...」
「っ!?ほんと!?一体どういう...」
「分からない...。魔物扱いなのはまだ納得できるけど...。魔人族の叡智が詰まっていたとかそういう事かな...」
「シュン君?」
ハーマンが急に黙ってしまった俺とローザを心配し声をかけてくる。
「ああ、いや、なんでもないんです。それよりミルコさんを介抱しなくては」
「ああ、そうだね。...ミルコ!大丈夫かい?」
感知で見るとミルコの輪郭はしっかり緑色なので大丈夫だろう。
「う、ハーマンさん...」
「ふぅ、良かった、上手くいったね」
「これで、僕は自由になれたんでしょうか...?」
「ああ、リストレインワームはシュン君が除去してくれたよ」
「あのワームを!?本当ですか...!」
「ええ。もう大丈夫です。組織を抜けることもできるでしょう」
「!?ハーマンさん!?この方達は闇の眷属のことを...?」
「ああ、知っている。知った上で助けてもらったんだ」
「そうでしたか...。ありがとうございます。これで僕も時間を自分の為に使う事ができます」
「やっぱり...闇の眷属を抜けたかったのかい?」
「それはそうですよ。こんな後ろ暗い組織...。無理やり入れられて僕の人生は終わったと諦めていましたが...」
「そうか、それなら良かった。僕らも組織を抜けるけどガルヴァリギルドとシュン君が守ってくれるんだ。シュン君、厚かましいお願いなんだけど、ミルコも守ってもらう事なんて出来るかな...?」
「もちろん、最初からそのつもりですよ。って言うか闇の眷属は俺が潰します。そしたらもう守る事もなくなると思いますけどね」
「そうか...心強い。シュン君なら本当に可能かもしれないね」
「ミルコさん、良かったらこれからギルドへ行って闇の眷属について知っている事を教えてもらえませんか?」
シュトロームからある程度聞き出せると思うが、人間側からの情報も得ておきたい。
「僕は良いのかい?」
「ハーマンさんは積もる話もあるでしょうし、しばらくルイザさんについてあげてた方が良いかと思って...」
改めて見つめ合う二人。
「ごめん。そうさせてもらえると有り難いかな。それに、僕は冒険者として活動していたから、組織の内情については事務職を担当していたミルコの方が詳しいと思う」
「うん。僕に任せて、二人は少しゆっくりしていて下さい。闇の眷属をぶっ潰す手助けが出来ると思うとわくわくしますよ!」
「ありがとうミルコ。シュン君、ミルコの事はユディエル様にくれぐれもよろしく伝えておいてもらえるかい?」
「はい。分かりました」
「あ、あのっ!ユディエル様って剣聖ユディエル様ですよね!?」
突然、ミルコが声のトーンを上げ尋ねて来る。
「そうだよ。どうかしたかい?」
「いっ、いえっ、あのっ、シュンさんっ、そのっ、ユディエル様に自分もギルド職員に入れさせて頂きたいとお伝え願いたいのですがっっ!」
ミルコもどうやら剣聖ユディエルに憧れてる口か...。
俺は勝手に口利きのような事をして良いのか、ハーマンを見る。
「それは構わないと思うよ。むしろ組織の内情を知る者として重宝されるかもしれない」
「!はいっ、誠心誠意頑張らさせて頂きます!」
「それじゃ、善は急げだ。お二人の邪魔をしちゃなんだし、早速ギルドへ行こうか」
「了解♪」
「はい。よろしくお願いします!」
「シュン君、ローザさん、ミルコも今まで本当にごめん。そしてありがとう」
「良いんですよ。やっと本来あるべき形に戻れたんです。これからは仕事に精を出しつつ仲良くやってください」
こうして、ゴブリン大襲撃事件は本当の意味で一件落着となり、俺とローザはミルコを連れ瞬間移動Ⅱでギルド前へと飛んだ。
「!?な!なんっ!?」
「あはは、瞬間移動です。便利でしょう?」
「便利どころの話じゃないです!シュンさん本当にあなたは一体...」
「まあ、あまり気にしないで」
頭をかきながら中へ入る。
「エイミー!ギルドマスターに会いたいんだけど」
と、いつもの調子で受付けをしているエイミーに声をかけ、俺はしまったとローザを振り返る。
「...何よ」
やってしまった...。機嫌が悪くなっている...。
「あ!シュンさん!すみません。ちょっと今忙しくて!ユディエル様なら上にいらっしゃいますので、どうぞ上がってください!」
都合良く?エイミーは忙しいらしい。俺は胸をなでおろす。
「分かったよ。ありがとう!それじゃちょっと通らせてもらうね」
ローザの嫉妬心は結構だな...。束縛するタイプかもしれない。
そんな事を思いつつ俺達三人はギルド長室へやって来た。
「ユディエル様!シュンです。失礼してもよろしいでしょうか?」
ガチャッ
「おぉ、シュン。早かったな。入ってくれ」
自らドアを開け、俺達三人を部屋に入れるユディエル。
...と、
「はっ!初めましてっ!剣聖と名高いギルドマスターユディエル様!お会いできて幸栄です!わたくしミルコと申しますっっ!」
「...ああ、どうも。名高いと言っても剣聖は職業なんだがな...。シュン、こちらは?」
3次職まで到達できる人間は数少ない。その職業になるだけで憧れの的になるのも致し方ないだろう。
「えっと、ルイザさんのお世話をしてくれていたミルコさんです」
「おぉ、君が。そうか。それではハーマンの件は上手くいったのだな?」
「ええ、今はルイザさんと二人で休んでもらっています。このミルコさんも予想通りワームに縛られていました」
「そうかそうか。で、ここに来てくれたということは我々の味方だ、と思って良いな?」
「はい、味方も何も、どうやらユディエル様の下で働くことが彼の目標だったようですよ?」
「はいっ!その通りですっ!もうこんな年齢ですが、何でも致します!」
「ふむ。こんな年齢とはいくつだ?」
「今年35でありますっ!」
「得意な事は?」
「はいっ!事務関係の仕事なら何でもそつなくこなす自信があります!あっ、あと、闇の眷属について少々詳しいです!」
「こらこら、その組織の名前をあまり大きな声で言うんじゃない。どこに耳があるか知れたものではないぞ」
「はっ!すっ、すみませんーっ!!」
「やれやれ、基本声がでかいぞ。もっと気楽にしていてくれ。こっちまで疲れてしまう」
「す、すみません...」
「そうそう、そんな感じで良い。しかし闇の眷属の事を知っている人物となるとこれは頼もしい人材だな」
「ですね。内情についてはハーマンさんよりも詳しいそうです」
「そうか。では早速ギルド職員として情報提供をお願いしよう」
「!!ありがとうございます!精一杯頑張らさせていただきます!」
「うむ」
それから俺達3人は、闇の眷属についてミルコが知っている事を教えて貰った。
それによると、どうやら闇の組織は幹部ですら魔人族との繋がりは無いらしい。むしろその存在すら知らない事もあるそうだ。
幹部達を取りまとめる大幹部が2名。その上に教祖と崇められている人物が1名おり、大幹部のうちの一人がハーマンの話に出てきたトゥクルだそうだ。
トゥクルは定期的に人攫いをし、組織が開発した薬の効果を実験体で確認・検証し、使える物ができればそれを使い組織の武力を強化する。後は幹部達が取り仕切る様々な犯罪で上がってきた利益を取りまとめ、組織の資金力強化を担当しているらしい。
そして、もう一人の大幹部は薬の開発や、生活から戦闘にまで使える様々な道具を開発する一つのチームを率いている。
その名は...
「バルカンです」
『えっ!?』
その場にいた全員が驚きの声を上げる。
「バルカンって..."あの"バルカン?」
「着けただけでレベルを見る事が出来るバルカンの腕輪のバルカン?」
「そうです。彼は物事の善悪はあまり気にしません。自分の創作意欲を満たしてくれる場所で作りたいものを作る。それが彼の気質のようです」
「なんということだ。それだけの天才発明家がまさか闇の眷属の大幹部だなんて...」
「彼のチームは数人ですが、組織内での影響力は計り知れません。なので、バルカンは大幹部としての地位を与えられています」
「なるほど...、で、そのトップ、教祖の名前は?」
「テオ・サキシサス...」
『えっ!?』
俺達三人は再び驚きの声を上げる。デジャヴだ。
「あれ?ご存知なんですか?」
「いや、知っているというかなんというか...。それって信仰されている神の名じゃないの...?」
「?そうです。邪神テオは実在する人物ですよ?」




