表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
80/151

80.諦める事。諦めない事。


バシャッ!


「う、う...」


乱暴に顔に冷たい何かを浴びせられたのを感じ、ハーマンは目覚めた。


「おい!さっさと起きろ!」


「...ここは?」


「寝ぼけてるんじゃねぇ!ずけずけとこんな奥まで侵入してきやがって!」


どうやら捕まってしまったようだ...。キツく後ろ手に縛られた手と、魔法攻撃を受けた左脇腹が激しく痛む。


「くっ!いつつ...」


「おい!貴様、これから邪神官様に会うが余計な事は言うなよ?黙って横にいろ!」


反論する気力も無く、目で頷く。


「よし...。ゴホン!トゥクル様!ヤリスです!侵入者を捕獲致しやした!」


「...入れ」


「はっ!」


ヤリスと名乗る男に連れられ、石造りの部屋へ入る。先程の地下のどこかだろうか?部屋の奥には机が置いてあり、山羊の頭蓋骨で出来た仮面を付けた人物が椅子に座っていた。


「牢獄エリア、実験体の部屋を破壊しようと企んでいたようです。あっしがライトニングで阻止致しやした」


「そうか、ご苦労。...貴様名前は?」


「...」


「すぐに答えろ!このぉ!」


ドガッ!


「ぐっう!」


ヤリスに痛む左脇腹を蹴られ顔が苦痛に歪む。

黙って横にいろと言ったじゃないか...。


「ハ、ハーマン...」


「ハーマン...。どこかで聞いた事がある名だな...」


「そうですかい?そんなおかしな名前聞いた事がありやせんが...」


「ん?確か...、ハーマン!?貴様冒険者だな?職業は?」


「...見習い魔導師だ」


「そうかそうか。クックックこれは良い。ヤリス、でかしたぞ。こいつは今噂の天才見習い魔導師ハーマンだ」


「えっ?そうなんですかい?」


「そうだ!良い事を思いついた。クック」


トゥクルはさも楽し気に笑う。


「ハーマン、貴様は神聖な教会に侵入した罪で死刑だが、それを逃れる方法を一つ教えてやろう」


「死刑...」


「そうだ、だが...。そこにいるヤリスと勝負して、勝つ事が出来れば死刑は免除、それどころかウチの組織の幹部候補として取り立ててやろう」


「なんですって!?」

「何!?」


「クックック。どうする?生き残るにはまずは戦わないと始まらないぞ?」


戦ってヤリスに勝つのは良い。しかしその後組織の一員になるとなると...。


待てよ?



「一つ。条件がある...」



「なんだ?」


「僕が勝ったら、組織に入る。だがその代わりルイザを解放して欲しい」


「ルイザ?」


「牢獄に捕まっている子だ」


「クックック、なるほどなるほど。貴様の目的はその娘か!見上げた根性だ!ますます貴様を気に入ったぞ!良かろう。もう手遅れだとは思うが、それでも救いたいと言うならばヤリスに勝ってみよ!」


「約束だぞ...」


ルイザは僕の生きる目的。僕の全てだ。彼女を救える希望が少しでもあるのなら、僕はそれに賭ける。


「ちょっと!トゥクル様!?あっしがこんなヤツに負ける訳はありませんが、こいつを仲間にするってのは...」


「黙れ!そもそも侵入を許した貴様にも非があるぞ?ヤリス...」


「うっ...」


「これで負けたら貴様がこいつの代わりに死刑だ」


「ひっ!く、くそぅ...。よくもあっしをこんな目に...!ハーマンとやら!今度は手加減しないぞ!殺してやる!」


「よし、では今この場で勝負だ」


「この場で!?待ってくれ準備が...」


「問答無用」


パチン!


トゥクルが指を鳴らすと手首を縛っていた紐が解ける。


「始め!」


「くっ!」


キツく縛られていた手と脇腹が痛む。

体力も減ったままだがそんな事は言ってられない。


先程ライトニングを使ってきたことから、このヤリスも見習い魔導師だろう。


「ライトニング!」


「フレイム!」


お互い同時に魔法を発動する。


バシィッ!


魔法が相殺し空中で消える。威力は互角のようだ。


「なんと!あっしのライトニングと同威力とは、少しはやるようだな」


「だまれ!ウォータ!」


「何!?」


今度は威力もスピードも申し分ない水の柱がヤリスを襲う。


「くっ!」


間一髪で回避されたが、ヤリスの表情には明らかな焦りが見えた。


「その歳で二系統とは...。確かに天才と呼ばれるだけのことはありやすね...」


「まだまだこれからだ!」


「あっしも負けてませんよ!」


「フレイム!」


「ライトニング!」


ゴウッ!


バリバリッ!


...こうして二人の魔導師の戦いは熾烈を極めた。




そして...


「...」


「はあ、はあ...」


「見事。そしてようこそ闇の眷属へ。幹部候補に相応しい戦いであったぞ」


「ふっ、それはどうも。で、僕はこれから何をすれば良いんだ?」


「とりあえずは冒険者としてそのまま行動しろ。まずは力をつけてもらわんとな。ある程度力がついたと上が認めたら、アスリアへ潜入するのだ」


「アスリア...。まさかガニメデは他国へ侵攻する気か!?」


「...そこまでお前が知る必要は無い。まずは幹部としてやっていける程度には強くなってもらおう」


「...分かった」



***



五年後...


「これよりハーマンの幹部昇格の儀式を始める」


山羊の仮面を被りトゥクルが儀式の準備をしている。


「幹部昇格と言っても何をするんだ?」


「何、簡単な事だ。コイツを飼ってもらう」


そう言ってトゥクルが差し出して来たのは、体長1センチにも満たない小さなワームの赤ちゃんのような生き物だ。


「飼う?一体...」


「幹部になると言うことは行動できる範囲が広がると言う事だ。つまり、組織の奥まで入り込む事が出来る」


「...そうか」


「ククッ、分かっていないようだな。つまりは、裏切られたときのダメージが大きくなるのだよ。そうならないようにコイツを体内に飼うのだ」


「体内に⁉︎」


「そうだ、このようにしてな!」


「うっ⁉︎」


トゥクルがいきなり虫を持った手で二の腕を掴む。一瞬ちくりと痛みを感じたが、痛みは直ぐに無くなり、それからは何も感じず傷跡も残っていない。


「ククッ。幹部昇格おめでとう...。今の虫はリストレインワーム。組織が開発した素晴らしい発明だ」


「発明だと?」


「そうだ。そいつを飼っている者が、組織に対し敵意を持ったり、無理やり虫を出そうとすると宿主の意思を奪い、身体を醜い魔物に変態させる」


「なっ⁉︎」


「どうした?裏切る等と言う愚かな考えを持たなければ何も問題はない。しかも死に至るようなダメージを受けた場合にも宿主を魔物に変態させ守ってくれるのだ。つまりお前は幹部になり更にパワーアップしたと思えば良い」


パワーアップだと?組織の思い通りに人間を操る為の枷ではないか...!いずれは組織を抜けようと思っていたのに、考えが甘かった...。


気味の悪い虫を体に一方的に入れられ、名ばかりの儀式は終了した。



***



「ただいまー。今帰ったよー」


リストレインワームを身体に入れられてから調子がおかしい。頭痛が酷く、喋るのが億劫になった。失敗作か、もしくは副作用か、一時的な物なら良いが...。


ここは冒険者の街ガルヴァリにある闇の眷属が管理する小さな家。ハーマンは闇の眷属に入り、約束通りその日のうちにルイザを牢獄から助け出していた。しかし、トゥクルがもう手遅れと言っていた通り、彼女の精神は壊され一人では生きて行けない体になっていた...。

周りには闇の眷属の者が世話をする名目で常に居座り、監視の目が絶える事は無く、5年経った今でも二人で逃げ出す事が出来ずにいる...。


「ルイザ、今日はあまり一緒にいてあげられなくてごめんよー。色々忙しかったんだ...」


「...ハーマン」


「なんだい?」


「...ハー、マン」


「ううっ、ルイザ...!」


ルイザは5年もの長い間これしか喋らない。


記憶を失なうほど精神を壊されても尚、愛する人の名前だけは憶えていてくれた。そして実験体として死んでしまう前に救い出す事ができた。


ハーマンには、それだけで充分だった。


「いつか僕が、きっと治してあげるからね...」


「...う、うぅ」


「おじいちゃんおばあちゃんになったとしても...、必ず治すから...、そしたらまた二人で花の咲く広い庭で追いかけっこしようね...」


ハーマンは溢れる涙を拭き、ルイザを優しく抱きしめる。


「ハーマンさん、そろそろ...」


「ああ、ミルコ。後は頼んだよ」


組織の中にもまともな者はいる。ルイザの世話役ミルコは仕事でハーマンを監視する役目だが、ハーマンとルイザのお互いを想い合う気持ちに心を打たれ、ハーマンに取っては良き友人であり仲間であった。



...



もう、闇の眷属を抜ける事は諦めるしか無いのか...。



...



組織にいながらでも良い。ルイザを救う方法を探そう。



それだけは、絶対に!死んでも諦めるわけにはいかない...!






そして物語は現在へと戻ります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ