8.ガルヴァリ
「バッシュさん!お疲れ様でした!」
見渡す限りに広がる石造りの高い壁に、一箇所だけ大きな門が付いており、そこに立っていた若い兵士が声をかけてきた。
「おう!お疲れさん!」
バッシュは幌馬車から顔だけ出し、慣れた様子で兵士に声をかける。冒険者が何人か並んでおり、兵士から身体検査を受けてから街に入っていることから、顔パスで入れるのは特別らしい。まぁ、ギルド職員も一緒だし、当然か。
並んでいる冒険者の視線を横に、俺達はそのまま街の中へ入って行く。
街に入ってすぐ横には、無骨な石造りの建物がある。場所からして兵士の詰所だろう。
門から続く道はメインストリートのようで、幅も広く、馬車くらいは余裕ですれ違える。
地面は目の細かい石畳みで舗装されており、馬車は相変わらずの振動だか、歩行者には優しい。
「ここはガルヴァリ。通称冒険者の街。ここいらじゃ1番大きな街だ」
バッシュの言う通り、通りの両脇には宿屋、飲食店、武器防具屋、鍛冶屋や道具屋などの冒険者に必要な店が並んでおり、夕刻になろうという時間だか、武装した冒険者の姿も多い。
冒険者だけでは無く、一般の人も往来しているが、皆、台車の上のワーウルフを驚きの目で見てくる。
「バッシュ、今日はもう遅いし、早いとこ狼をギルドに報告して宿に戻ろうぜ。あたしもう腹ペコだよ」
「おう、そうするか。シュン。色々案内してやりてぇんだが、とりあえずギルドで良いか?ぐずぐずしてると宿屋内の飯屋が閉まっちまうんでな」
「あ、もちろん良いです。
良いんですが...」
「ん?どうした?」
「実は俺お金を持ってなくて、宿の部屋が空いてたとしても泊まるお金が...」
「ハッ!心配すんな!メシも一緒で良いし、部屋も床で寝るのでも良きゃ俺達の部屋に泊まっても良い」
「何から何まで、ありがとうございます」
揺れる馬車の中で、俺は少しばかり大袈裟に頭を下げた。
バッシュはワイルドな風貌だが、優しく、面倒見が良い。頼れるお兄さんのようだ。
日本じゃ兄弟なんかいなかったからな。
もし兄がいたらこんな感じだったのかな?
「なんならあたしの部屋でも良いよ。そっちはむさ苦しいオジサンが二人だけだしね」
「なっ!むさ苦しくねぇし!ハーマンも何か言ってやれ!」
「んー。まっ、実際おじさんだから仕方ないよねー」
「くっ。...しかしだな。子供とは言え一人の男が女性と同じ部屋で寝るというのは...」
「俺もシンディさんと一緒の部屋で二人きりじゃ緊張しそうなので、遠慮しておきますよ」
「ははっ、そうだよな!シュンはウブだな!
そうだそうだ、男3人で男同士の熱い話をしようじゃねぇか!」
バッシュはワイルドだし、剣士としても凄ウデだが、そっちに関しては俺以上に純粋なようだ。とても分かりやすい。シンディも満更でもないようなのでいずれ上手くいけば良いな。
そしてしばらく通りを進んで行くと、三階建ての大きな建物が見えてきた。
「シュン。あの大きな建物がギルドだ。冒険者の主な仕事場だな。他の街にも支部があるが、ガルヴァリのギルドは本部だ。この国のギルドの中でも一番の規模だぞ」
「大きいですね...。バッシュさん達は普段からガルヴァリに居るんですか?」
「基本的にはな。ただ、冒険者はそんなに一箇所に留まることは少ない。世界中を旅して、未知の魔物と戦った方が楽しいからな!」
「なるほど。それもそうですね」
そして、ギルドに着いた俺達はワーウルフをギルドの裏に併設されている倉庫へと運び込んだ。
「おう!バッシュ達じゃねぇか!狼退治はもう済んだのか?」
倉庫に入ると、背の低いいかにも頑固オヤジと言った雰囲気のじいさんが、でかいダミ声で話しかけてきた。
「おう。ジドールのじいさん!まあ今回も楽勝だったぜ!獲物がデカイんでまたこっちに回らせて貰ったが、買取りを頼めるか?」
「あぁ、勿論だ。すぐ査定するから、待っとれ」
そう言ってジドールは俺達とここまで一緒に来ていたギルド職員に指示を出し始め、査定を開始した。
「あのおじいさんはジドールさんと言ってね。魔物の素材を買い取ってくれるギルド職員だよ」
ハーマンがジドールについて教えてくれた。
「使える素材を選定して、傷み具合や強度なんかを見極めて、解体するのさー。それでその後に素材を必要としている武器防具屋なんかに素材を卸しているんだよ。シュンくんもこれからお世話になると思うから覚えておくと良いよー」
「ジドールさんか。覚えておきます」
「普通ここまで大きくない魔物は、ギルド内のカウンターで買い取りしてるからね。こちらまで持ってくるのはこのくらいの大物の時だけさ」
シンディが補足してくれる。確かに全ての魔物がこのサイズだったら、外の世界は相当恐ろしい事になっているだろう。
いや、こんなのが一匹いるだけでも十分恐ろしいのだが...
「ふむぅ、おーい。バッシュよ。これだけの大物だ。査定に少し時間がかかりそうだ。明日までには終わらせておくから、代金の受け取りは明日にしてもらえんかな?」
「あぁ、良いぜ。俺らもそろそろ宿に行って、メシにしようと思ってたとこだからよ!」
「スマン。助かる。また明日よろしく頼む」
「了解!じゃあな!」
そう言って俺達はジドールと別れ、ギルド近くの宿屋へと向かった。
「ここが俺らがよく使わせて貰ってる宿屋だ。建物は小さいし、ちと汚れているが、メシはうまいぞ」
そういえばエルモナルに来てから何も飲み食いしていない。
濃密すぎる初日に空腹を忘れていたが、食べ物の話をされ、更に宿屋の食堂から良い匂いが漂ってきて空の腹を刺激する。
「メシは大事ですよね!楽しみです!」
宿屋に入ると、建物の割に広いロビーがあり、正面には受け付け。右手に食堂。左に行くと階段があり、二階が宿泊部屋になっていた。
一度部屋に荷物を置きに行き、下に降りて4人で食堂へ入る。
木作りの長方形のテーブル席がいくつか並んでおり、冒険者らしき数人の客が酒を飲んでいた。
「いらっしゃい。四人前で良いかい?」
割烹着を着た恰幅の良いおばちゃんが席に着くなり声をかけてきた。
「あぁ、それとエールを4つ頼む」
「今日のメニューはボアステーキかー。そいやー、昼間の狼もファングボア食べようとしてたね」
壁に掛けてあるボードに、今日のメニューが載っている。
昼間の巨大な狼が倒したのはファングボアと言う生き物らしい。
「ファングボアって猪の魔物ですか?」
「いやー、あれは動物さー。
繁殖力も強いから家畜として飼われているよ」
家畜も行われているのか。少し安心だ。
農耕・畜産は経済の基盤だからな。
しかし、魔物じゃない生き物もいるんだな。
山小屋の周りで鳴いていたのも普通の鳥だったのかもしれない。
「ところでシュンくんは、職業を選べるとしたら何になりたいの?」
せっかくファンタジーの世界へ来たんだ。
一番は魔法を使いたいが...
「俺は、剣士ですね」
「おぉ、分かってるじゃねぇか!やっぱり男は剣の道だよな!
ここのギルドマスターも元々剣士で今は引退したが、剣聖まで行った偉大な人よ」
「剣聖?」
「おぅ、職業ってのはいきなり剣士になれるわけじゃねぇ。」
職業は色々あるらしいが、全て共通して
3段階のクラスチェンジが出来るらしい。
例えば剣士なら
見習い剣士→剣士→剣聖
シンディの呪術師なら
見習い呪術師→呪術師→ネクロマンサー
ハーマンの魔導師は
見習い魔導師→魔導師→大魔導師
と言った具合だ。
「エールお待ちー!」
「お、きたきた。それじゃ、ワーウルフ討伐の成功と、シュンとの出会いを記念して...乾杯!」
「乾杯ー!今日はありがとうございます!」
「おう!遠慮せずにどんどん飲んで、たらふく食え!」
「シュンくん。明日は早速冒険者登録して、依頼をこなすんだろ?頑張んなよ!あたしらはワーウルフ討伐が済んだから、朝一で報酬を貰い次第別の街に向かうけど、あんたが強くなって他の街に来られるくらいになれば、きっとまた会えるからね!」
「はい!頑張ります!」
四人とも酒も入り、美味い飯を腹一杯食べ、部屋に戻るとワーウルフとの戦闘もあってか、すぐに眠りについたのだった。
レベル上げに行かなかった、だと!?
次こそは!行って欲しい!
ちなみにエルモナルでの飲酒は15歳からです。
冒険者登録も15歳。大人と見なされる年齢というわけですね。