72.クロノ大闘技大会本戦⑪
「わああああぁぁぁ!」
「きゃああぁあ!」
「魔物だぁあ!」
「シールドが壊されたぞ!皆逃げろおぉ!」
異次元空間から闘技場へ戻ると、俺は観客席の上の方に出た。
観客達がパニックになり、出入口が人で塞がってしまっている。
舞台上を見ると傷だらけの覚醒魔人シュトロームが数人の冒険者を相手に暴れまわっていた。
「まずい...!」
最も悪い状況は、客席の前に設置されていたシールドを発生させる黒水晶の一つが破壊されていることだ。この状態で大規模な攻撃が繰り出されよう物なら、何人の人が死んでしまうか分からない。
「瞬間移動!」
バッ!
俺はすかさずシュトロームの前に立つ。
「!シュン!戻ってきたのね!」
「ローザ!良かった。無事だったか!」
「シュン殿!ご無事で!」
ローザやバルガス、その他にも腕に覚えのある冒険者達がシュトロームを食い止めてくれていた。
「バルガス!ここはもう良い!タクトとキアラの所へ行ってやってくれ!」
「ッ...!申し訳ない。そうさせてもらいます!」
「他の皆も!ここは俺に任せて観客達を安全に避難させてくれ!」
「わっ、分かりました!」
「エデン!」
俺はシュトロームのいない側の芝生上にエデンを展開する。
「怪我人をエデンの中へ!」
まだ動ける冒険者が協力して怪我人をエデンへ運ぶ。
「シールド!」
加えてどこまで持つか分からないが、舞台上にシールドを張った。
「わたしは、残ってても良いわよね?」
ローザが反論させないと言わんばかりの口調で言う。
「...ダメだ。と言っても残るんだろ?」
「さっすが、分かってるじゃん」
余裕が無い状況の中、ローザが笑顔で言う。
「こいつは覚醒した魔人族のシュトロームだ。全力で当たるぞ!」
「やっぱりね!この状況からしてそうだと思ったわ!了解よ!」
「グッグッグッ!人間風情が...粋がるんじゃないぞ!」
「ずいぶんと感情的じゃないか、どんな時でも平常心なんじゃなかったのか?」
「減らず口を!ひねりつぶしてやる!」
火傷で爛れた手を真っ直ぐに伸ばすと、その先からフレイムの様な炎が勢いよく吹き出す。
ゴオオオオォォッ!
「きゃ!」
挑発に乗ったと思われたが、俺では無くローザに炎が襲い掛かる。
複数を相手にする時は弱い方から削るのが鉄則だ。
シュトロームの熟練度が高い証なのだろう。
「アイスウォール!」
ジュワッ!
シュウゥゥ...
ローザの目の前に氷の壁を張り炎から守る。
「チッ!うざってえ魔法だな!」
火傷だらけの恐ろしい形相でシュトロームが睨む。
「ロードインパクト!」
名前を呼ばれた大剣ロードインパクトがその巨大な剣身を更に大きくする。
覚醒シュトロームの身長は目算で大凡3メートル程。ロードインパクトはその倍はあるだろう。
あんな巨大な大剣をあのスピードで振り回されたら、とても受けきれる気がしない。
シュトロームがかなり弱っているとは言え、相当ヤバい。
「エール!」
体の内側から力が湧き上がる。
「ローザ!」
「シュン!敵に見惚れてる場合じゃないわよ!」
ローザからステータス上昇の支援を貰い、その効果以上に勇気を貰う。
「ごめん!行くよ!」
「ええ!」
「ライトニング!」
腕と脚に傷をつけたライトニング系の魔法で牽制する。
「ミンストレルエクステンド!」
同時にローザのデゼルファングが鋭く伸び、シュトロームに襲い掛かる。
「フンッ!」
ゴワッ!
ガキィィン!
ライトニングもデゼルファングも、シュトロームの大きな一振りでいとも簡単に弾かれる。
ゴウッ!
本当に大怪我をしているのか疑う程の踏み込みで、凄まじい横薙ぎが俺達を襲う。
まずい!回避したらローザに当たる!
止めるしかない!頼むぞ!ルーン・コア!
俺はッ!渾身の力でッ!!全身全霊!!これを止めるッッ!!!
「うおおおおぉぉおおお!!」
ガッッ!!ギイイィィンッ!!!
「ググッ⁉︎なんだと⁉︎」
電車か新幹線を受け止めたらこんな感じなのだろうか?超人的なステータスのお陰でなんとか恐ろしい一振りを受け止めた。さしものシュトロームもこれを止められるとは思っていなかったようで、動きが止まる。
「ウォータ!」
「ガッ!ガボッ!ゴボボッ!」
一瞬の隙をつき、オークを溺死させた、地味だが威力抜群の水魔法を使う。
「くらえ!槍千本!」
「ゴバッ⁉︎」
シュトロームは槍千本がどのような物か知らない。顔にウォータを纏わせたまま、何が起こるか、どこから襲われるのか、警戒している間にシュトロームの真上が光出す。
巨人!早く!頼む!
心の中で巨人を急かす。ローザもきっと同じだろう。
自分の足元が光っている事にやっと気付いたシュトロームが上を見上げた刹那。
キュン!キュン!キュン!キュン!
キュキュキュキュキュキュキュキュキュキュ!
願いが通じたのか状況を察したのか、いきなり全開で光の槍を投げまくる巨人。
ズガガガガガガガガガガガガガガガガガッ!
光の槍が滝となり覚醒シュトロームに降り注ぐ。
声もなく、動く事もできず、千本の槍をその身に受け、覚醒した魔人族とは言え流石にもう息絶えただろう...。
...キュン!
槍の滝が終わり、シュトロームを見ると、覚醒状態が解け、人間形態に戻ったシュトロームが予想に反し瀕死の状態で立っていた。
「ま、まだ生きてるのか...」
「ガハッ!ゲホゲホッ!がふっ!私は...ま、まだ死ねないのです。シュンさん。あなたは、ほ、本物です。あなたに出会えて本当に良かった...」
「?何を言ってるんだ?」
「クックック、こ、これが本当に最後の最後、です。これに耐えたら本気で認めてさしあげましょう」
「⁉︎」
俺は瀕死の人物から発せられる物とは到底思えない異様な威圧感に全身鳥肌が立った。
「ヤバい!」
ドッ!
「きゃ!」
咄嗟にローザをシールドの外へ突き飛ばす。
そして、次の瞬間。
「耐え切れますか⁉︎融合魔術!ルフトッ!シュトロォォォォムッッ!!」
満身創痍のシュトロームが魔術を唱えると、シールドで覆われた舞台上内部は一瞬にして炎と竜巻が融合したかのような、荒々しく渦巻く炎に包まれた。




