71.クロノ大闘技大会本戦⑩
「うおっ!?」
次元の扉を使い光の渦をくぐると、一面薄暗く何もない空間へ出た。
デゼルの異次元空間に呼ばれた時と同様地面は見えないが、透明な床がありその上に立っているようだ。精神だけ移動した前回と違って、今度は明らかに肉体も移動してきている。自分の周囲360°全てが何もない空間にいると平衡感覚が狂ってしまいそうだ。
何の確証も無く勘で異次元に来た俺だが、本当にここにシュトロームがいるのだろうか?
暗さに目が慣れ、辺りの様子が少しずつはっきり見えるようになってきた。
「ん?あそこに何か...」
よくよく目を凝らして見ると、少し離れた所に何かが横たわっているのが見える。感知に意識を移すと、輪郭が緑の線で見える事から、間違いなく生き物のようだ。
シュトロームにしてはやけに大きい気もするが...。
俺はゆっくりとその生物に近づいて行く。
そして、ふと気づく。その生き物の横に大剣が無造作に転がり落ちているのを。
「!」
なんだあの生き物は!魔物か!?しかし、あの大剣。間違いない。ロードインパクトだ。...ということはあそこで眠っている大きな生き物は...シュトローム...なのか?
足音を立てないように慎重に近づく。
間違いない。先程ライトニングバーストで被弾した所に真新しい包帯が巻かれている。
シュトローム...。ユーバーの予想通り魔人族だったのか...。そしてこれが魔人族の本来の姿?ユーバーは魔人族は人と同じ見た目と言っていたが...。シュトロームが特殊なのか?
俺はダメ元で観察眼Ⅱを使ってみる。
名前:シュトローム
種族:魔人/人間
称号:ダーティー
Lv:-
熟練度:623
魔術
・炎術 ・風術 ・精神操作術
特殊
・飛行 ・覚醒 ・次元移動
見れた!
やはり魔人族だったか...。人間ともあるが...まさか魔人族と人間のハーフという事なのか?
そして、魔人族は人間とは強さの概念が違うようだ。
まずLvが無いらしい。その代わりが熟練度だろうか?おそらく戦闘に関する熟練度ということなのだろう。
スキルも魔法も無いが、術が使えるらしい。
一つ気になるのは、覚醒...。
覚醒すると今のこの姿になるのだろうか?人間の姿の時より強いとすると...ますますここで何とかしないとヤバそうだ。
「...うん。仕方ないよな。寝てるんだもの。人類の為卑怯とか言ってられないし」
魔人族相手とは言え寝込みを襲うのは気が引けるが、今やってしまうのがベストだろう。
俺は貴重品である魔具のロードインパクトが獄炎玉で消し炭にならないようシュトロームから離そうとした。
...
大剣に手をかけようとした瞬間、視線を感じシュトロームを見る。
「!!!!!」
「!!!!!!!」
お互いの目が合い、一瞬二人の時が止まる。
しまった!起きてしまった!
「おわあああっ!?なっ!!何故キサマがここに!どうやって入ってきやがった!?」
「くっ!問答無用!獄炎玉!」
素早くロードインパクトを拾い立ち上がって距離を取るシュトローム。魔具を巻き込んでしまうが仕方ないだろう。透明の半球がシュトロームを囲み、瞬く間に内部に地獄の業火が吹き荒れる。
ビリビリッ!ビリッ!
半球が振動で揺れ、そろそろ良いかと思っていると...。
パリーン!
ゴォオオオォッッ!
突然半球が割れ、地獄の業火が勢い良く吹き出したと思うや、一瞬にして炎が消える。
「ぐばあああああああっ!」
「何っ!?」
驚くことに、業火の中、シュトロームが内側からロードインパクトを半球に突き刺し、全身火傷で爛れながらも強引に脱出してきた。
「ゼハーッ!ゼハーッ!」
規格外規格外言われてきたが、コイツも相当な規格外だ。
「剛雷撃!」
「ごのッ!次からつギッ...!」
グバーン!
バーン!
ガーンッ!
ドーンッ!
ドッドッガッ!ドッガッ!
ドガガガガガガガガガガ!!
異空間であるにも関わらず、しっかり黒雲が発生し豪雨の様に雷の雨が降り注ぐ。
「ぐぎゃっ!ヴァッ!ぐばばっ!ごはっ!ぐぅっ!むうぅッ!」
基本的な体の構造が異常に丈夫なのか、動けないようだが剛雷撃に耐えるシュトローム。
頼む!これで沈んでくれ!
ドガガガガァアン!
ズガァン!
ガガッ!
ドガガガガガガッッ!
凄まじい音と熱がこちらまで伝わってくる。まだ俺の意思では解除していないが、時間なのか雷が鳴り止む。
シュウウウゥゥゥ...
異次元の透明な床でも多少コゲるようだ。地面から煙が幾筋も立ち上っている。
!?
シュトロームが...いない!?
さっきまでは確かに雷の隙間から耐えるシュトロームが見えたが...。
魔人族でも倒したらレベルが上がるのだろうか?
しかし...あれだけ丈夫な体だ、跡形も無く葬り去ることができたのか、確たる自信が無い。
広範囲を見ることができる感知Ⅱでも生き物の存在は見つけられない。となると...。
「しまった!」
俺は最悪の事態に気づく。
「ローザ!...次元の扉ッ!」
あの豪雷の中、ヤツは"向こう"に戻ったに違いない!
俺は現れた次元の扉に慌てて飛び込んだ。




