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7.常識指南

「おい!坊主!大丈夫か?」


本物の魔法を使った迫力のある戦闘に意識を奪われていた俺は、声を掛けられ我にかえる。

飛燕を放った剣士が目の前で俺の顔を覗き込んでいた。

40歳前後だろうか?髪は短く、筋肉質な体と、ワイルドで精悍な顔、額に大きな傷が一つ斜めに刻まれている。確か仲間からはバッシュと呼ばれていたか?


「こんなとこに独りでいるなんて、お前何者だ?」


バッシュは笑みを浮かべながらフランクに話しかけてくる。


「いや、俺は、その、、、」


しまった。自己紹介する時のことを何も考えてなかった。

異世界から転生してくる人などそういないだろう。ましてや、他人から見られるものでも無いとは思うが、俺の称号は神の子となっている。


「ちょっと、何子供をいじめてるのよ?」


返答に困っていると、バッシュの後ろからシンディと呼ばれた女性が声をかけてきた。


「なっ!い、いじめてるわけじゃネェよ。こんな場所に独りでいるから、大丈夫かなーと思って優しーく声をかけてたんじゃねぇか。な!?坊主」


バッシュの軽い口調が、先程まで命懸けで戦っていた人達のやり取りとは思えないが、おかげで多少緊張が解れ、言い訳を考える余裕が出てきた。


「はい。あ、俺はシュンと言います。じいさんの隠れ家で二人でひっそりと暮らしていたのですが、数日前からじいさんが外に出かけたきり帰ってこなくなってしまったので、どこか生活の出来る村は無いかと探していました」


「ふーん。そうか...そりゃまた、大変だったな。この辺は魔物の数は多くないが、たまにワーウルフのようなランクDクラスの魔物が出る事があるからなぁ...。住み慣れている者でも油断すると...。っとすまない。余計な事を言っちまったな」


先程までの軽い雰囲気は消え、神妙な顔つきで謝ってきた。

どうやら基本的には良い人らしい。


「俺はバッシュ、剣士をやっている。

後ろの気の強そうなのはシンディ。呪術師だ。

そいでもって向こうでギルド職員に指示を出しているのがハーマン。魔導師。3人でパーティーを組んでる」


「気の強そうなのは余計でしょ!」


頭に軽くチョップするシンディと、叩かれても嫌な顔一つしないバッシュ。

そんな二人の様子に微笑みながらハーマンの方に目を向けると、同じ服を着た10人程の男達が狼の死体を大きな台車に乗せていた。


「あの人達がギルド職員?」


「なんだ、ギルド職員の制服を見るのも初めてか?今まで一度も街に行った事がないのか?」


「えぇ、危険だからあまり外に出るなと言われていたもので...」


「そりゃー、変わった生い立ちだなぁ」


「ぼうや、見たところまだ子供みたいだけど、歳はいくつだい?街に行くならあたし達もワーウルフを連れて凱旋するとこだから一緒に連れて行っても良いわよ?」


シンディは確かに気が強そうだが、優しい女性のようだ。細身の体で、艶のある落ち着いた茶色のセミロング。キツめの目と眉をしている、中々の美人さんだ。


「歳は15歳です。迷惑でなければ連れて行ってもらえると助かります。道も分からないし、魔物にでも出会ってしまったらどうしようかと思っていたので」


そういえばエルモナルに来てから、自分の見た目は確認していないが、坊主やら子供やら言われているので、転生前の実年齢より少し低めに見積もってみた。


そして、先程の狼のような魔物と再び遭遇したら今度こそ確実に死んでしまうだろう。地獄に仏。九死に一生を得るとはこの事だ。このチャンスを逃すわけにはいかない。


「15か!まだ子供だが、この森の中でよく生きていられたもんだ。強運の持ち主かもしれんな!よし、気に入った!一緒に街まで行くとするか!」


バッシュは俺の肩をバンッと強く叩き、狼を積み終えた台車へ颯爽と歩いて行く。


「...まったく、調子が良いんだから。

ごめんね。アイツ、いつもあんな感じだから多少の無礼は許してね」


シンディは呆れながらも笑みを浮かべている。


「いえ、無礼だなんて。とても話しやすくて嬉しいです」


「あはは、シュンくんは良い子だね。

おいで、ハーマンにも紹介してあげる」


助かった、と心から安堵しつつ、俺はシンディについて行った。



***



「そうかー。おじいさんが...それは気の毒に」


四人乗りの幌馬車に揺られ、ハーマンに紹介された俺はさっき作ったいきさつを話していた。

バッシュ達は、自分達が乗る馬車の他に、ギルド職員が乗る馬車と、狼を乗せた台車を引く馬が三頭、合計3台の一団で来ていた。3人が狼を倒した場所から川の反対方向へ少し行くと、すぐに広い街道が現れ、狼を乗せた台車を馬に繋ぐと、三台の馬車は砂埃を立てながら街へと走り出した。


「でも15歳なら才能さえあればギリギリ冒険者になれる年齢だし、仮に冒険者にならなくても街に行けば何かしらの働き口はあるよー」


「実はじいさんが言うには才能はあるらしいんで、冒険者になろうと思っていたんですけど、さっきの狼の魔物を見たら自信が無くなってしまって...」


「はっはっは!そりゃおめぇ、ろくに外にも出た事がない15歳の子供が、いきなりDランクの魔物に勝てる訳はねぇさ。

物事には順序ってもんがあらあな」


「そうだよ。あたし達が倒したのはワーウルフって言って、ギルドから特別に討伐依頼が出された強敵よ。並みの冒険者でも太刀打ち出来る相手じゃないわ」


そうだったのか、いきなり運が悪かったということか...。いや、バッシュ達に出会えたのだから幸運と思って良いか。


「自分らで言うものなんだけど、僕らはこう見えてそこそこ実力はある方だからねー。

今回もギルドから直接討伐依頼を受けたのさー」


「なんせ俺らは3人ともDランク冒険者だからな!」


3人が同時にドヤ顔をする。


「・・・」


「・・・」


「って何だよそのつまらん反応は!Dランクだそ!?驚かないのか?」


「すみません。ずっと山奥にいたので魔物のランクとか冒険者のランクとか良く分かっていなくて...」


どうやらエルモナルでは魔物も冒険者も強さでランク分けされているらしい。


「マジかよ!世間知らずだな!

よし、良いだろう!街に着くまで時間はあるし、この優しいお兄さんが教えてあげよう!」


「40代を目前にしてお兄さんって歳じゃ無いけどねー」


「うるせっ!俺の親切心を邪魔すんじゃねっ!」


3人とも仲が良いな。パーティーを組んで長いのだろう。共に命懸けで魔物を倒して来た信頼があるんだろうな...

3人の醸し出す和やかな雰囲気に笑みがこぼれる。


「是非教えてください!」


「よしよし、ではまずは冒険者になる方法だが、これは簡単だ。さっきハーマンが才能があればなれると言ったが、厳密に言うと15歳になれば誰でも冒険者ギルドで冒険者登録をすれば冒険者になれる。才能が無いと冒険者になった後に戦いようが無いんで、実質、才能が無いと厳しいだろうがな」


「で、冒険者になったらギルドに出されている依頼をこなしていくと良いだろう。報酬がもらえるから生活も成り立つ。魔物を狩るだけが依頼じゃないからな。最初は畑仕事の手伝いやら掃除の手伝いやら、荷物運びなんかもオススメだ」


「生活系の依頼は魔物を倒すわけじゃないからレベルはあがらないけどねー。報酬でお金は貰えるから最低限生きていくにはそれでも良いかもねー」


「そう言う事だ。だが、冒険者たる者、魔物を狩るのが醍醐味だ!レベルを上げない限りは冒険者ランクも上がらないしな。そして、ランクが上がらないと受けられる依頼も限られてくるってわけだ」


なるほど、そう言う仕組みか。

冒険者ランクの内訳はGからSSSまであるそうで、大まかに言うとこんな感じらしい。


G:Lv1~ルーキー

F:Lv10~一人前

E:Lv20~中堅

D:Lv30~ベテラン

C:Lv40~一流

B:Lv50~一流の中でも特に秀でた一部の人がなれる

A:Lv60~世界に数える程しかいない


それ以降は功績に応じて

S:現在世界に1人しかいない。

SS:0人

SSS:0人


LVが10上がる毎にランク昇格試験に挑戦でき、S以降はレベルでは無く、街をまるごと破壊してしまうような強大な魔物を倒したとか、戦争で大きな武勲をあげるなどの活躍が認められると国王から賜るらしい。


バッシュ達3人はDランクと言っていたから、3人ともレベル30以上のベテラン冒険者と言うことか。


「ちなみにあたしらのレベルは43.40.40よ。レベル的にはランクCに昇格出来るんだけど、試験になかなか合格できなくてね」


シンディが苦笑いしながら言う。

なるほど、そう言うパターンもあるのか。


「後はなんと言っても職業だな!街の教会で神父サマに秘めた才能を見出してもらう事ができる。神父サマを介して神の力を分けてもらうのさ。職業に就いたり上位職に転職するとそのたんびに基礎能力が上がるし、新しいスキルが使えたり、大きな力を得られるぞ」


40歳手前でギルドから直接討伐依頼を受けるベテランか...

人間の肉体のピークはもう過ぎているだろうから、ランクCやBの冒険者は本当に少ないのだろう。


一般的な冒険者はLV20~30のランクE冒険者って所か。


「才能がある人はどれくらいの割合なんですか?」


「んー。大体10人に一人ってとこか?才能が無いとそもそも冒険者としての職業に就けん。そうなるとスキルも魔法も使えない。これが才能が無いと厳しいと言った理由だな」


「才能は生まれつき持っているものだけど...。教会に行って神父様に見てもらわないと、何の才能があるか分からないはずなのよね...。

シュンくんのおじいさまは元々神父様だったのかしら?」


「あぁ、そう!そう言えばそんな事言ってたような、、、気がしますねぇ」


そうだったのか!あまり迂闊な事は言えないな。

俺はしどろもどろになりながら答えた。


「ふーん。でー、シュンくんは何の才能を持ってるんだいー?」


「えっと、、、取り敢えず剣士と魔導師の才能があるみたいです」


ほんとはオールスキルとオールマジックで全ての才能を持っているはずだが、剣士と魔導師の他にどんな職業があるのか分からない。


「ん!?」


「えっ?」


「んー、どういう事かなー?」


しまった。迂闊な発言は控えようと思ってた矢先に、またおかしな事を言ってしまったのだろうか?


「えーと、、、」


しかし、何がおかしい事なのか分からず、返答に詰まる。


「シュン、普通才能ってのは一人一つだ。複数の違う才能を持つ奴なんて見た事も聞いた事もないぞ」


そうだったのか!これはもう誤魔化すのが厳しいぞ...


「あ、いや、きっとじいさんが俺の将来に期待を込めて言ったんですよ!子供のやる気を出させる為の出まかせですよ!」


「...」


「...」


「...」


「...」


幌馬車の中で4人ともが沈黙し、馬の足音と、車輪が地面を走るゴトゴトと言う音がやけに耳につく。


「なんだ、そうか!そうだよな!才能が二つだなんてあり得ないもんな!」


「そうよね!きっとそう言う事よね!お姉さんビックリしちゃったわよ!」


「あはは、すみません。じいさんにも困ったものですよ!」


本当に困ったじいさんだ。やっぱり必要最低限の常識くらいは教えてから転生させて欲しかった。


いつものんびりした口調のハーマンだけは真面目な顔でこちらを見ているが、これ以上ボロをだすのはいろんな意味で危険な気がするので、全力で目を合わさないようにしよう。


「まっ、街に着いたらそのままギルドに連れて行くからよ!

LV差がありすぎる者同士でパーティーを組むと、お互い経験値が美味しくなくなるから、シュンが冒険者登録をしたらまた別行動になるだろうが、それまでは着いて行ってやるからよ!」


「はい、ありがとうございます。改めてよろしくお願いします」


こうして、スリルのある会話を交わしながら、その日の夕方には念願の街に到着したのであった。





次回、いよいよLV上げです。(たぶん)

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