66.クロノ大闘技大会本戦⑤
『うおぉぉぉぉ!』
クロノ大闘技大会決勝トーナメント二日目。
舞台上は昨日アレグリア随一の魔導士グランを退けた炎玉のモズと、いけ好かない謎の男シュトロームとの一戦が繰り広げられていた。
「炎玉!」
ゴオオォォォ!
「クックックッ!子供だましですねぇ」
バシッ!
モズの切り札、炎玉を片手でいとも簡単に弾き飛ばすシュトローム。
「くそっ!化け物め!」
魔剣での肉弾戦もシュトロームは無手で躱し、一撃も当てられない。
「モズが勝つのは難しいかな...?」
「そうね...自身最強のスキルも効かず、接近戦でもあの様子じゃ厳しいわね...」
ユーバーは今日も午前中は忙しいらしく姿を見せず、俺はローザと二人で試合を観戦していた。
「やれやれ、それでも本当にAランクですか?まったくワクワクしませんねぇ」
「なんだと!?」
「武器という物はこのように使うのです」
!?
一体どこから出したのか、気づくとシュトロームの手には身の丈以上ある一振りの大剣が握られていた。
『おぉおおぉ!?』
「なっ!?」
「おぉーーっと!シュトローム選手、一体どこからあのような巨大な剣を取り出したのか!大剣を使用するといった情報はありませんでしたが、これで防戦一方だった試合展開が変わるか!?」
ヘイズも含め、観客達が驚いている。
しかし、明らかに不自然なのはその扱い方だ。
見た目はとても重そうに見える大剣を、筋骨隆々でもないシュトロームが片手で軽々と振り回している。
「なんだあの大剣は...?めちゃくちゃ軽いのか?それに...あのサイズの武器をどこから出したんだ...?」
「まさか...。シュン、あなたの鑑定Ⅱって離れた所にある武器も見られるの?」
「!?まさか!」
あの武器の特異性...もしかすると...。
「鑑定Ⅱ!」
契約者:シュトローム
名称:ロード・インパクト
種類:大剣(魔具)
効果:攻撃力4倍
特殊効果:武器サイズ変更
契約者使用時重量無視
代償:取得経験値1/2
「やっぱり...。あれはマグだ。大剣ロードインパクト、攻撃力4倍で武器のサイズが変えられる。それと、契約者使用時は重量無視らしい。」
「またとんでもない性能ね...。今まで小さくして懐にでも隠し持っていたってわけね」
「普通の男じゃないと思っていたが、まさかマグ持ちとは...。一体何者なんだ...?」
相変わらず観察眼Ⅱはシュトロームに通用しない。
「クックックッ。ではいよいよこちらの番ですよ?」
シュトロームがセリフを言い終わった瞬間、モズに向かい物凄いスピードで接近し、その勢いのまま大剣を振り下ろす。
ギィィン!
「ぅぐわっ!」
ぶわっ...
...
ドウッ!
辛うじて魔剣で受け止めたモズだが、大剣から繰り出された渾身の一撃に、その場に留まる事はできず、闘技場の端まで吹き飛び尻もちをつく。
「ガフッ!細腕が、なんてパワーだ...!」
力無く、なんとか立ち上がろうとした次の瞬間。
ドッ!
「がはっ!」
突き出された大剣がモズの胸を貫く。
『わあぁ!』
「...」
自分が突き刺したモズを冷たい目で見つめたまま、つまらなそうに大剣を場外と反対側に振りぬいた。
ドッ!
胸を貫かれたモズの体が舞台中央に投げ出される。
「シュ、シュトローム選手の大剣がモズ選手を突き刺した!これはもうモズ選手は戦闘不能でしょう!」
「...まったくつまらないですねぇ...。戦いも、本気で殺し合いが出来ないこの闘技場の仕組みも...」
シュトロームが何か呟いたと思った時、モズの体が地面から少しだけ浮き、場外へと移動した。
「そこまで!勝者!シュトローム選手!」
『うおぉぉぉぉおおお!』
予選会でのバルガスへの過剰な仕打ちを忘れてしまったのか、観客達はシュトロームの圧倒的な強さにすっかり魅了されてしまったようだ。
「クロノ大闘技大会決勝トーナメント準決勝第一試合はシュトローム選手の勝利です!」
『わあああぁぁぁ!』
「Aランク冒険者をあそこまで圧倒するか...」
舞台上のシュトロームがこちらを見てニヤリと笑う。
くそっ!あんな奴にビビるんじゃない!バルガスさんやタクトとキアラの為にもあいつだけには勝たなければならない。
「負けられない戦いがそこにある...ってやつか...」
日本でよく聞いたフレーズが思い出される。
「えっ?」
「いや、なんでもないよ。よーっし午後はユーバーとだけど!気合入れていくぞー!」
「頑張ってね!」
「おう!」
***
そして迎えたその日の午後...
「えー、ここで皆さんに残念な情報をお伝えしなければなりません。本日準決勝第二試合に出場予定だったアモンド選手ですが、急遽国の重要な仕事が入ってしまった為棄権ということになりました」
『ええぇえぇぇええ!』
『ぶーぶーー』
珍しくテンションの低いヘイズがユーバーの試合不参加を告げる。
「従いまして、対戦相手のシュン選手は不戦勝となり、決勝への進出が決定致しました!」
『ぶーぶー』
俺が悪い訳ではないが、なんとなくバツが悪い。
「ねぇシュン。ユーバーに通信魔法で連絡してみたら?」
「うん。実はさっきしたんだけど...。すまない、行けなくなったの一点張りで、詳細を教えてくれなかったんだよ」
「...そう」
「何か闇の眷属絡みの良くない事が起こってるなら俺も手伝うって言ったんだけど、上手く濁されて、結局何で来れないのかは分からなかった」
「まぁ、なんだかんだ言っても出会って間もないものね。言えない事もあるのかな?」
「うーん。信頼しきってくれってのも今はまだ難しいかもな...」
「...」
少しの沈黙が二人の間を流れる。
「よし!もう決まった事をどうこう考えても仕方がないわ。明日の決勝に向けて黄金魚でも狩りに行かない?」
「ああ、そうだね。シュトロームが予想以上に強いみたいだからな」
あわよくば何か一つ二つ、強力なスキルを覚えたいと願いつつ、俺はローザと二人、瞬間移動Ⅱで山小屋の河原へと向かった。
二試合目の観戦料はきちんと皆さんに払い戻されました。




