58.クロノ大闘技大会予選会⑩
Bグループ優勝者アモンド。
五十代くらいの壮年の渋いおじさんが、門番兼司会進行役のヘイズを肩に担いで立っていた。
特別目立つ人物には見えなかったが...。
「あんた何者だ?何故俺の鋼の心を知ってるんだ?」
「うむ。色々聞きたい事はあるかもしれんが、今はコイツとその男を助けよう」
「...助ける方法があるのか?」
「...エデンを使え。それで完治する」
「!...何故エデンの事を...」
「説明は後でゆっくりしてやる。とにかくやってみるんだ」
「...分かった」
俺は、不審に思いながらも覚えたばかりの魔法を使う。
「エデン!」
俺がエデンを使うと、横たわるバルガスを中心に半径5メートル程の円状の聖域が作られた。
円の淵にはヒールを掛けた時のような白緑の光の壁が背丈程の高さまで立ち上がり、円内の芝生の上は光の絨毯のようになっている。
その時、雨があがり雲の隙間から一筋の光がエデンへ差し込んだ。
『おぉぉぉ!』
その神々しい光景に、観客席からどよめきが起こる。
アモンドがヘイズを肩から降ろし芝生に寝かせると、程なくしてヘイズが目を覚ます。
「あれ?俺、確かまだ実況中だったような...」
「おはよう、ヘイズくん」
「あっ、アモンドさまっ、さん!これは一体...?」
「全く、疲労でぶっ倒れるとは情けない。まあ、大方、通常業務と闘技大会の司会進行のダブルワークで疲れが溜まっていたんだろう。本戦まで少し休んでいろ」
「はぁ...、そうですか、すみません」
ヘイズ。シュトロームに精神攻撃を受けて操られていたか?とすると、ヘイズのふりをして予選会を終わらせたのは...アモンド?
「あっ!おとうさん!」
タクトの声に振り返ると、バルガスが目を開いている。
「うっ...俺は一体...」
意識がまだはっきりしていないのか、バルガスが重たそうにゆっくりと上半身を起こす。と同時に光の絨毯が消え、エデンの効果が終わった。
「うっ、うぇっ、おとうさーん!」
「えーんえーんえーーん」
二人の小さな両手がバルガスの大きな体を力強く握りしめる。
「タクト、キアラどうした?そんなに泣きじゃくって。お父さんならここにいるぞ。泣く事は無い。大丈夫だ」
『えーーん。えーーん』
「バルガスさん。体はもう大丈夫?」
「ああ、あなたは?」
「わたしはローザ。こっちのシュンが回復魔法をかけてくれたのよ」
「そうでしたか...。シュン殿、どうやら助けてもらったようだ。ありがとう」
「いえ、あなたが無事で何よりです。タクト君とキアラちゃんの為にも、戦士バルガスは世界一強くないといけませんからね」
「あぁ、そうだ、あの後俺は...」
「バルガスさんがバーサーカーを使った後、全ての選手を倒して、Cグループの優勝者になったと思ったんですが...」
「シュトロームという男がどこかに隠れていて、精神攻撃であなたを追い詰めたのよ」
「そこで、このアモンドさんが試合を止めてあなたを助けた。...ですよね?」
「うむ。やつのやり方は気に入らん。決勝では少し痛い目に遭ってもらわんとな」
「...そうか、俺は負けてしまったのか...」
「違うよ!おとーさん負けてないもん!」
「そうだよ!おとさんアイツに何もされてないもん!」
「この人が試合を止めてなければ、おとーさん勝ってたよ!」
タクトがヘイズを指差す。
「えっ?おっ、俺...?」
残念な男ヘイズ...。
「はっはっは。そうかそうか。いや、皆さんこの度は大変お世話になったようです。この大会、本気で優勝を狙っていたのですが...、もう少し自分を鍛え直す必要があるようです」
「うむ。精進するのだぞ」
アモンド、偉そうだな。まあ、Bグループで優勝してるし年もバルガスよりは上か。
「ん?...アモンド?もしや名将アモンド・アイ将軍ですか!?」
突然バルガスが叫ぶ。
何?この人、有名人?
「あっ!アモンド将軍!?」
ローザも思い出したように驚く。
「ローザ、アモンド将軍って?」
俺は小声でローザに聞く。
「アスリア一の名将と謳われている国家防衛軍第一部隊の将軍よ」
「ふっふっ、よしてくれ照れ臭い。一国の将軍がこのような俗っぽい大会に出るのもどうかと思ったのだがな。今回はお前が出場すると陛下から聞き、参加させてもらったのだ」
アモンドが俺を見ながら話す。
「何故俺が出場するとあなたも参加されるのですか?」
「うむ。それは話すと長くなるのだが...。少し場所を変えるとするか」
アモンドがバルガス親子を気にするようなアイコンタクトを送ってきた。
「...分かりました」
「それと...あなたが陛下の...いや、今はAランク冒険者ローザか。一度お会いしたかった。君も一緒に来て欲しい」
「分かりました」
「バルガス、私だけでなく、この二人も決勝トーナメントに出場する。戦い方をよく見て勉強すると良い」
「!はっ!」
「では、と、シュン、どこか話すのに都合が良い所へ連れて行ってくれ」
瞬間移動Ⅱの事も知っているのか?
しかしこんな皆が見ている中使うのも気が進まない。
「分かりました。では俺達が泊っている宿屋へ"歩いて"行きましょう」
「む?...なるほど。良かろう。では案内を頼む」
「タクト、キアラ、これからもお父さんと仲良くな!」
『うん!』
「二人とも元気でね。またどこかで会いましょう」
「ローザねえちゃんも元気でね!」
俺達はお互いに手を振り熱戦の余韻が残る闘技場を後にした。




