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57.クロノ大闘技大会予選会⑨

一体どうやって隠れていたんだ...。


確かに舞台上にはバルガスだけが残っていたはずだが...。


そこには謎の男シュトロームが激しい雨に打たれるのを楽しむかのように空を見上げ立っていた。



「おっと!失礼!選手がまだ一人残っていたぞ!バルガス選手!あと一人倒し、晴れてCグループ優勝者となれるのか!」



「ハァッ...!ハァッ...!タクト、キアラ...ガフッ!」



しかし...バルガスが血を吹きながらその場に倒れ込む。

バーサーカーは内臓にもダメージがあるようだ。


「バルガス!もう良い!降参するんだ!」


俺は思わず叫んでいた。


「ううっ、うっ。おとうさんーーひっく」


「わーん。あーーん」


タクトもキアラも泣き出してしまった。


「バルガスさん!そいつは普通じゃない!今すぐ降参してー!」


ローザも必死に叫ぶが歓声と雨の音にかき消されているのか、はたまた声を出す事も出来ないのか、バルガスはうつ伏せに倒れたままだ。


「クックック、せっかくこれから楽しいショーが始まるのですよ?降参なんぞさせるものですか」


残酷な笑みを見せるシュトローム。


「...ヒューッ!...ヒューッ!」


痙攣し、呼吸もやっとの様子のバルガス。


まさか、降参できないようにシュトロームが何かしているのか?


何かあっても自動的に場外へ飛び、その場で回復するはずなので命は大丈夫なはずだが...。嫌な予感が収まらない。


「さぁて!バルガスさん...と言いましたか?ご存知かとは思いますが、この闘技場内ではいくらこの私でもアナタを殺すことはできません...。ただし!それは肉体的なことに限ってです」


バルガスの目の前をゆっくり歩くシュトローム。


「先程までのアナタの強さには感服致しました!私とてまともに戦っていたらタダでは済まなかったかもしれません」


「...」


「素晴らしい戦いを見せてくれたお礼に、アナタには最高の恐怖というものを味わわせてさしあげましょう!何、ご心配には及びません!精神攻撃を得意とする私の前ではこんなオモチャの仕掛けは無意味!きちんとアナタを”殺して”さしあげます」


シュトローム!ヤバイことをやりそうだ!


「ヘイズ!めろー!この試合シュトロームの勝ちだ!」


「止めさせませんよ!シャドウ・マリオネット!」


シュトロームがヘイズに向かい魔法を唱えた次の瞬間、ヘイズが急に呆然とした顔をし、目が虚になる。


「くそ!ヘイズに何をしたんだ⁉︎シールドで魔法は通らないんじゃなかったのか⁉︎」


「クックック!次はあなたの番です!ナイトメア・ロンド!」


シュトロームの詠唱と共に、倒れているバルガスの周りにゆらゆらと揺れる黒い人型の霧が現れ、踊るようにぐるぐると回り出した。


「ぐっ!...ぐああ!わあああぁぁぁぁぁ!!」


ナイトメア...悪夢か!


バルガスが血の混じった涎と涙を流しながらもがき苦しむ。



「くそーーっ!止めろーー!シュトローーム!!」


「ああーーっ!おとうさんが!おとうさんがーー!」


「わーん!わーーあぁん!!」


「大丈夫!大丈夫だよー!...シュン!」


ローザが泣き叫ぶ二人を抱きしめながら俺に助けを求める。


「ああ!」


もう闘技大会だなんて関係無い。


バルガスを助けに行こうとしたその時...。


ガッ!


誰かが俺の肩を掴む。


「待て!鋼の心はどうした!?感情を揺さぶられるんじゃない!」


「!?あんたは...!」


「ここは俺に任せておけ」


俺を止めた男はそう言うとその場にしゃがみ込む。



「そこまでー!勝者シュトローム!グループCの優勝者はシュトローム選手に決まりましたー!」


ヘイズの声が闘技場内に響き渡る。


「むっ?終わりですか?おかしいですね。あの進行役の方はまだ私の手の中のはずですが...」


「シュトローム!もう終わりだ!早くそれを解除しろーッ!」


「...五月蝿いですね...。分かりましたよ。どうせこれは余興です」


シュトロームがそう言うと、バルガスの周りの黒い霧は消えたが、バルガスはぐったりとして少しも動かない。


「おとうさーん!」


タクトとキアラが思わず闘技場内へ走り出した。


「二人とも待って!」


ローザが二人を抱き留める。


「タクト!キアラ!待ってて!すぐにおとうさん連れて来るからね!」


俺は一足で闘技場内に入るとバルガスの元へ駆け寄り、その巨体を担ぎシュトロームには目もくれず場外へ運び出す。


「な、なんだあの子供は⁉︎あの巨体を軽々担ぎやがった!」


客席がざわついているが、今はそんな事はどうでも良い。


闘技台を降り、芝生にその体を寝かせると、たちまち優しい光がバルガスを包み治癒が完了した。


「おとうさん!おとうさん!」


「うええーん!うええーん!」


ローザに留められていたタクトとキアラがバルガスにしがみつき、その大きな体を一生懸命に揺り動かすがバルガスが目を開ける気配は無い。


「ナイトメアの中では時間の進みがこちらとは違うと聞いた事があるわ。例え数分でも本人の中では何時間も悪夢を体験したのかも...」


「くっ!治療は完了しているのに何故目を覚まさないんだ!?」


焦る俺の横に誰かが歩み寄る。


「...やれやれ、心を乱すなと言ったばかりだろう」


「あんたは、...確か...」


そこには予選会Bグループを勝ち抜いた男、アモンドが立っていた。




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