44.クロノ城
「あー、なんだかモヤモヤするなー」
街に入る際の受付けは名前と職業、街に来た目的を記帳するだけの簡単な物だった。
受付けを終え、とりあえず休みたかった俺は日本で言うカフェのような店に入り軽食を取っていた。
しかし、先程の顛末を思い出すと気分が晴れない。
誤解じゃないんだけど、時間がある時にきちんと説明したかった...。しかしこれだけ広い街だ。もう会う事もないだろう。彼女は酒場で踊り子の仕事を探すのかもしれないが、そもそも俺があまり酒場とか好きじゃないから行きたくないし...。さっさと紋次郎さんに表彰してもらってガルヴァリに帰るとしよう。
腹も満たされた俺は、気持ちを新たに店を出る。街並みは、首都と言うだけあって綺麗で規模も大きい。
石畳で舗装された道と白い石壁に青い屋根の家ばかりで街全体に統一感がある。
「とりあえずどこに行けば良いんだ?ギルドか...、国王だからお城でもあるのかな?」
地球のイメージと違って城が無かったりしたら恥ずかしいが、勇気を出して通りすがりの街人に聞いてみると、どうやらお城はきちんとあるようで親切に道順を教えてくれた。
ただ、街が広すぎて道順を覚えきれなかったので、大体の方向だけそちらに向かい後は人目を避けて飛んで上から確認しようと思う。
そうして俺は人混みで活気溢れる街中を城の方へ向かう。途中で大きな道に出たのでその道に沿って歩いて行くと、遠くに大きな建造物が見えてきた。
「あ、あれがお城か。良かったー。飛んだら目立つだろうから、なるべく飛びたくなかったんだよな」
少し安堵したが、今度はすんなり入れるかが心配になってくる。
門番とかいるのかな?きちんと話は通っているのだろうか?
不安を抱きつつ真っ白な壁の城に近づく。
城の敷地は城と同じ白の長い塀に囲まれていて、どこまで続いているのか先が見えない。城門の鉄格子の間から中を覗くと、広大な芝生の庭が広がり、入口の門から城までは浅いプールのような水場が伸びていて、長方形の水場の中程には大きな噴水が見える。その両脇は綺麗に舗装されており、良く手入れされた植栽が一定間隔で配置されていた。
「豪華だなー。一般市民が普通に入って良いのかな?」
「そこの者、クロノ城に何か用か?」
門の外から敷地の中を窺っていると、不審に思われたのか門兵に声をかけられた。
「あ、すみません。ガルヴァリから来たシュンと言います。もんじ、いや、国王陛下に呼ばれて来ました」
「な、なんと!君がガルヴァリの煌星シュン殿か!話には聞いていたが本当にお若いのだな...。とても国を救った英雄には見えん...。あ!いや失礼!念の為バルカンの腕輪で身元を確認させて頂きたいが宜しいか?」
「良いですが...ガルヴァリの煌星ってなんですか?」
「何を仰る。あなたの二つ名ではないのか?万を超える魔物の大群がガルヴァリを襲いし時、星の煌きの如く光を放ちながら魔物どもを瞬く間に葬り去ったとお聞きしておりますぞ」
「あー...なるほど。そうですか」
「さ、ではこちらへ。城内へご案内いたします」
ローザの通り名を聞いた時に、そんなのもあるんだなーと思ったが、まさか自分にも同じような二つ名が着いていたとは。仰々しいが、まあ良いか。
美しく整備された道を歩きながら、そんな事を考えているうちに城の正門前に着いた。
街の入り口と同じで、門自体は大きく頑丈そうだが、その横にひと1人が通れる程の小さな扉があり、前を歩く兵士に続きそこから中へ入る。
最初の部屋は赤いビロードが一面に敷き詰められている広めのロビーになっていて、高い天井には豪華なシャンデリアが幾つも眩しく光っている。
所々に高価そうな調度品や騎士鎧が展示されており、いかにもお城と言った雰囲気だ。
「どうぞ、こちらです」
ロビーを進み、ドアを開けて次の部屋に入ると、平民とおぼしき何人かの人々が壁に並べられた椅子に座っていた。...謁見に来た人達だろうか?
案内役の兵士と俺はその人達には目もくれず次の部屋へと入る。
そこは今までの部屋より大分規模が小さく、正面にカウンターがあり、一人の兵士が待機していた。
「門番のヘイズだ。ガルヴァリの煌星シュン殿をお連れした。念の為バルカンの腕輪で身元の確認を頼む」
「!了解しました。シュン殿失礼ですが腕をこちらに」
どうでも良いが、この人は身元を確認するだけの人員なのか?贅沢な人の使い方だな。
俺は黙って身元確認兵に腕を出しバルカンの腕輪をつけてもらう。
「はい!ありがとうございます。確認出来ました。国王がお待ちです。玉座の間へ参りましょう」
「では、シュン殿。私はこれで失礼します。国の危機をお救い頂きありがとうございました」
ヘイズは俺に向かい丁寧に、深々と頭を下げて来た。
「ああ、いや、どうも...」
国の危機を救っただなんて、規模が大きすぎてこちらが恐縮してしまう。
ともあれ、門番のヘイズと別れ、俺は国王、菊一紋次郎が待つ玉座の間へと向かった。
捕捉
・通り名と二つ名
同じ意味合いですが、ニュアンスが少し違います。ローザの通り名とシュンの二つ名、敢えて分けて使っています。
・煌星
正しい読み方は「きらぼし」です。
物語のイメージとして「こうせい」と読む方がしっくりきたのでそうしてます。造語ですので普段使用する場合はご注意下さい。
普段使う場面は少ないかもしれませんが!
・ガルヴァリの煌星
日本で見える星は、人のいない山などに行かないとあまり強い光のイメージがありませんが、エルモナルは夜になると街の外は真っ暗です。
幾つもの流れ星が絶え間無く降りそそぎ、その星達の群れは圧倒される程の数と輝きを放っています。
・バルカンの腕輪
ガルヴァリのギルドで初めて使った時は冒険者登録をしていなかったので名前までは分かりませんでしたが、冒険者登録をすると名前も含めた情報が分かります。




